恋はいつでもせつなく、はかない。60代女性たちのやっかいで幸せな、“現在進行形の恋”

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2025年06月19日 22:11  All About

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40代で離婚し、ダブルワークをしながら一人娘を育てあげた60歳女性と、同い年の夫と別居中の69歳女性。二人は、世界を広げるために始めた趣味や学びの場で年下の男性と出会い、恋をした。「まさか自分が」と戸惑いつつも、現在進行形の恋を楽しんでいる。
65歳で前期高齢者、75歳で後期高齢者。日本ではあらゆる場面でそう定義されていると思いがちだが、これはどうやら医療制度や介護保険の観点からということのようだ。実際、高齢者の居住の安定確保に関する法律においては高齢者を60歳以上と定義している。どちらにしても還暦を過ぎたら、「高齢者」というくくりに入れられるのは間違いない。

ただ、現実としては、その中に入ろうが入るまいが個人の自由。「年齢なんて考えたこともない」と断言する人もいる。本人が忘れていても周りからとやかく言われれば、嫌でも思い出して考え込んでしまうもの。年齢を気にせず生きていければ、ずっとストレスが減るのではないだろうか。

恋はいくつになってもせつない

40代で夫と離婚、一人娘を育てあげ、ようやく自由になったのが50代半ばだったとマサエさん(60歳)は言う。

「必死に働きました。会社員だったけど会社の許可を得て週末は別の仕事もしていました。娘が大学院まで行ったので、なかなかラクにはなれなかったけど、それがあったから私も病気1つせず頑張ってこられたんだなと思います」

娘は電車で30分圏内に一人で暮らしているが、時々恋人が泊まっていくようだ。週末や祝日などだけ一緒に過ごしていると話してくれたことがある。結婚するつもりはないそうだ。

「私も別に孫が見たいなんて言うつもりもない。娘の人生は娘のものだから。あと5年は働くつもりだし、いろいろな世界も見たいと思っています」

社内に有志で作っている写真部がある。前から興味はあったがゆとりがなくて参加できなかったのだが、3年前に入部して写真撮影を楽しむようになった。

「講師の先生に来てもらうこともあるんです。先生とのやりとりを私が任されるようになったんですが、本当にいい方で。実はちょっと片思いをしてしまいました」

片思いで満足

現実的な恋心が自分にわいてきたことに、マサエさんは最初、戸惑った。自分がこの年で恋をするなどとは思わなかったのだそう。最初は「やっかいだ」と感じていた。

「先生って40代なんですよ。そんな若い男性に恋をするなんて自分でもびっくりしちゃって。もちろん、告白なんてするつもりもないし、気取られてもいけないと思っていますから、自分の中だけで気持ちを処理していかなければならない。それがやっかいなんです」

講師担当者となって2年たつが、最近、やっと気持ちが落ち着いてきた。顔を見ればせつないけど楽しい、たまに講師を含めて居酒屋などへ行くのも楽しい。

「恋に暴走する年齢でもないと自分に言い聞かせていたんですが、年齢のせいにするのはちょっと違うかなと思うようになりました。何も気にしないなら、告白して拒否されて撃沈してもいいはず。だけど告白する気がないということは、私自身の心身のキャパが片思いで満足しているからではないかと。それは情熱が衰えているわけではなく、大人なりの情熱の出し方なんじゃないかと思います」

片思いは今も細く長く続いているが、そのせつなさも含めて「恋」を楽しんでいるという。

年齢のことは忘れていたい

「いい年して、と自分で言うのは自分の可能性を潰すことだと思うんです」

笑顔でそう言うのはシュウコさん(69歳)だ。もうじき古希を迎えるが、「なるべく年齢のことは忘れていたいのが現実。今を楽しみたいから」と言う。

「今、同い年の夫とは別居中なんです。彼は空き家状態になった実家で一人暮らししています。地元の友達と何かできないかと模索しているようです。人はいくつになっても、生きがいみたいなものがほしいんですよね」

シュウコさんは今も週3回、パートで働いている。働くことが生きがいになっており、働く仲間が大事な存在だ。

「仲間内のルールとして、なるべく過去の話はしないというのがあるんです。昔はこうだったああだったと言っても意味がないから。どうしても昔にひきずられるところがあるんですよね、この世代。でもそれじゃ前に向かって歩けない」

年齢を重ねると行動範囲が狭まる、人間関係も小さくなっていく。あたかも子ども時代に還ったかのようだと彼女はつぶやいた。

思いを伝えてスッキリ

「でもそれじゃダメだなと思って。2年ほど前から大学のオープンカレッジに通っているんです。勉強は楽しい。そこで知り合った年下の男性と仲よくなりまして。恋しちゃったんですよねえ。まさか自分がとは思ったけど、胸が苦しいくらい好きで。

あるとき明るく『私、あなたに恋をしたみたい。この恋心を大切に温めていきたい』と言ってみたんです。すると彼は『ありがとう』って。もちろん、付き合うことにはならなかったし、私も別居中とはいえ夫がいるし。でも好きだ、恋してるって伝えたかったんですよ」

とりあえず受け止めてもらった。それだけでいいと思えた。今もキャンパスでは一緒に学んでいるし、たまにお茶を飲みに行って四方山話をしたりもする。

「それで十分なんです。何をもって恋が成就するというのか分からないけど、片思いして気持ちを伝えて受け止めてもらった。それが私には恋の成就に思えた。年をとっていいことなどまったくないと思っていたけど、諦めがよくなったのはいいことかも。自分がラクに生きていけますから」

もちろん、せつなさもはかなさも感じている。大恋愛には一生、縁がなかったなと寂しく思うこともある。それでも「今日を楽しく生きよう」とシュウコさんは朝から元気に体を動かしている。

亀山 早苗プロフィール

明治大学文学部卒業。男女の人間模様を中心に20年以上にわたって取材を重ね、女性の生き方についての問題提起を続けている。恋愛や結婚・離婚、性の問題、貧困、ひきこもりなど幅広く執筆。趣味はくまモンの追っかけ、落語、歌舞伎など古典芸能鑑賞。
(文:亀山 早苗(フリーライター))

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