
「朝からだるい」「食欲がない」「冷えがつらい」などの不調は、病院に行くほどではないにしても十分つらいもの。そんな悩みを改善してくれる健康法として、今、俄然注目度が高まっているのが「薬膳」だ。
薬膳は案外カンタン!スーパーの食材で体整え&毒出しを
今年の春から放送されたNHKのテレビドラマでも薬膳が大きく取り上げられ、丁寧に描かれた人間ドラマも相まって大きな話題になった。
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とはいえ、「漢方の勉強は難しそう」とか「薬膳の食材を揃えるのはハードルが高い」と遠目に見ているだけ……という人も多いかもしれない。
ところが、漢方スクールで講師を務める齋藤友香理さんは、「スーパーで買えるおなじみの野菜や調味料などの食材も、じつは立派な薬膳食材。それを食生活に生かせばよいだけなんですよ」と話す。
齋藤さんは所属する薬日本堂と、薬膳レストラン10ZENとともに、薬膳料理本『薬日本堂 10ZENの整えお粥と毒出しスープ』を出版したばかり。
「たとえば、胃がもたれ気味だったら、胃の働きをよくするキャベツやみょうがを。冷えが気になるときに、体を温めるねぎやしょうがを献立に使えば、それはもう薬膳なんです」(齋藤さん)
さらに薬膳では、それぞれの「季節」に起こりやすい不調に合った食材を選ぶようにすすめているのも大きな特徴だ。
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「植物が春に芽吹いて、秋に実るように、人も季節の影響を受けています。たとえば、湿気の多い梅雨には、体内の水のめぐりも滞り、むくみから体調不良になりやすくなります。
そんなときには、体の水を巡らせて、余分な水分を排出する瓜類や豆類を選んでいただきたいですね」(齋藤さん)
夏には体に熱がこもり、夏バテを招くので、熱を冷ますトマトやなすなどの旬の夏野菜を。春は、冬の間に落ちた代謝を高めてデトックスしてくれる、苦みのある春野菜がおすすめだという。
「春には菜の花や春菊、山菜など苦みのある食材が旬を迎えますよね。旬の食材に、その季節になりやすい不調に合ったものが多いのは、不思議と理にかなっているんですね」(齋藤さん)
「お粥」と「スープ」は体をいたわる食養生の基本
薬膳を手軽に、より効果的に生かす知恵として、齋藤さんが特にすすめているのが、「お粥」と「スープ」だ。
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「お粥は、主食であるお米をやわらかく炊いて、消化をよくした養生食中の養生食。じつは食べものを胃から腸へと送ったり、消化したりするのは、体にとって重労働なんです。
ですから体調不良のときは、まず胃腸の負担を軽くしてあげることが第一。そのためには、まずお粥というわけです」(齋藤さん)
また「スープ」は、消化がよいのはもちろん、食材のエキスが煮出されて吸収がよくなっていることが何よりのメリットだ。
「漢方薬には煮出してのむものがあるように、スープはある意味、食材の薬膳パワーを生かす“煎じ薬”のようなものだといえるでしょう」(齋藤さん)
食材のうまみを生かした“おいしい薬膳”をプロデュース
「でも薬膳って、薬っぽくておいしくないのでは?」という先入観を持つ人も多いよう。そんなイメージを取り払って“おいしい薬膳”を提案しているのが、薬日本堂がプロデュースする薬膳レストラン「10ZEN」のシェフ、牧野秀明さんだ。
「食材がもつうまみやだしを生かせば、シンプルでもおいしく満足できる薬膳になります。たとえば、ほたてやあさり、えびなどの魚介類や鶏肉を使えば、それだけでだしになります。そのうまみを具に煮含めるためにも、お粥やスープは向いていますね」(牧野さん)
お粥は米をとがずにそのまま炊くのも牧野さんの工夫の一つ。糠の栄養が残るうえ、とろみのある、なめらかな仕上がりになる。牧野さんが「お粥はお米のポタージュ」というのもうなずける。
「お粥もスープも、食材の組み合わせで薬膳にアレンジしやすいのも魅力です。うちの店でも、血行促進や滋養強壮、美肌など、気になる悩みに合わせてメニューを選んでいただけるようにしているんですよ」(牧野さん)
また、店のサラダバーでは、クコの実やはと麦、ごま、アーモンドなどのトッピングが20種ほども並び、ラベルに書かれた効果を参考に選ぶことができる。クコの実は目の疲れに、はと麦はむくみによいとか。
「薬膳は日常的に食生活に生かすことが大切です。ご家庭でも、料理のトッピングから始めるのも、お手軽でおすすめですね」(牧野さん)
スーパーでの買いものから薬膳生活をスタート!
ふだんの食事で体の不調をケアするということは、「単に不快な症状を改善するだけではありません」と齋藤さんは強調する。
「胃もたれや便秘、血行不良による冷えや婦人科系のトラブルは、体の仕組みがうまく働いていない証拠。つまり病気になりやすい状態だといえます。漢方の世界ではこれを『未病』と呼びますが、その段階でしっかり養生することを大切に考えているのです」(齋藤さん)
確かに「なんとなく」の不調は「いつものこと」「体質だから」と放置しがち。いつのまにか、病気を呼び込みやすい状態になっているかもしれない。
「まずは、スーパーで買いものをするときから、季節や体調を考えて食材を選んでみてください。最近はスーパーの中華食材コーナーでも、なつめや松の実など薬膳食材も充実してきました。
『胃がもたれたからキャベツを買おう』『目が疲れているからクコの実をトッピングしよう』と考えるようになったら、それこそが薬膳生活のスタートです」(齋藤さん)
齋藤友香理さん●薬日本堂漢方スクール講師、薬剤師。漢方専門店、薬日本堂で臨床、店長を経験。セミナーや書籍監修を通し漢方を学ぶ楽しさを広めている。
牧野秀明さん●薬日本堂がプロデュースする薬膳レストラン「10ZEN」でレシピを考案。「気軽に健康で美しくなる食養生」を軸に、おいしい薬膳料理を提供。