山深い寺、少ない食事で肉体を酷使する若き修行僧たち。本格的な修行に入る前、1本の羊羹を差し出された彼らは……。
青年の成長を寺での過酷な修行と共に描く漫画が、「辛い修行の後に羊羹食べたらうますぎた」のタイトルでXにアップされ話題となった。本作は、「くらげバンチ」にて連載中の作品『成仏させてよ!』の、第3話である。
今回は本作の気に入っているポイントや、修行シーンのリアリティについて、著者である百地元(@genmomoji)氏に話を聞いた。(青木圭介)
ーーまずは、寺や修行をテーマに漫画を描こうと思った経緯を教えてください。
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百地元:私自身、寺や歴史が好きなのですが、昔はどちらかと言うと“歴史”が好きだったんです。お寺も、歴史的建造物として楽しんでいる側面がありました。
そんななか、私が好きなあるお寺の修行体験に行ったんですよね。修行体験なので食事をする時間や就寝する時間も決まっていて、朝はまだ暗いうちに起こしてもらいます。起きて少し経つと、鐘の音や鳥の鳴く声が聞こえ始め、木々や格子の隙間から朝日が刺してくる。それを肌で感じるのが本当に素晴らしくて。
当時漫画の仕事で一杯一杯になっていた部分もあるんですけど、SNSが1つの世界みたいになっている現実に息苦しさを感じていたんです。それが修行体験で、「私が生きているのは空気があって太陽があるこの世界なんだな」と実感できた感覚がありました。
その感覚を漫画にして広く知ってほしいと思ったのが、描き始めたきっかけです。
ーー作中には、辛さを伴う修行の数々が描かれていました。修行描写は、現実に基づいたモノなのでしょうか?
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百地元:モデルにしたお寺のお坊さんからも度々コメントをいただくんですけど、「なんで知ってるの!?」という内容が多いですね。本来、修行の内容というのはあまり外で話してはいけないモノなんです。
ただ、「なんで知ってるの!?」とコメントをいただくのは15年前くらいから修行をされている方で、ここ10年くらいで修行を始めた方は「昔はそうだったらしい」という内容が多いです。やっぱり今は、コンプライアンスが厳しくなっていますからね。
ーー実際、百地元氏はなぜ修行内容を知っていたのでしょうか?
百地元:私は何年も前から、お寺が開催している座禅会などに参加していました。座禅会の後に、質問コーナーを設けていただく場合があるんです。そこでダメなラインを越えないよう少しずつ質問をさせていただき、それを様々なお寺で繰り返して、点を線にしていった感じですね。
あとは本なんかも出している比較的オープンなお坊さんもいて、集めた内容を話すと「合ってる」と言ってくださるので、「やっぱり間違えてなかったんだ!」と確認をしています。
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ーー今回取り上げた『成仏させてよ!』の第3話で、百地元氏自身が気に入っているポイントは?
百地元:回廊掃除をするシーンがあるんですけど、そこが非常に気に入っています。回廊掃除のシーンってテレビ番組なんかでお寺の特集をするときも大体あって、「そんな走る必要ある!?」っていうくらい全力なんです。その雰囲気がいい感じに表現できているかなと思っています。
ーー寺や修行、仏教をテーマにするうえで、気をつけていることはありますか?
百地元:逆に、気をつけすぎないように気をつけています。やっぱり、仏教や修行の内容を漫画として描くことに、抵抗を感じる方もいると思うんです。お坊さんの俗的な部分を描くことに対しても同じですね。
でも、私自身お寺や仏教の中身を知ることがプラスだったと思えている人間で、本作は私のような方に向けて描いているつもりなんです。なので宗教だからといって配慮をしすぎず、“お坊さんも人間”というところも描いていきたいと思っています。
もちろん必要な配慮は必要だと思っているので、あくまでも気をつけすぎないようにというイメージですね。
ーー作品を通して伝えたい仏教の魅力とは?
百地元:仏教の教えって、すごく難しそうに見えて実は結構身近なことを言ってるんです。お経とかも漢字で見るとまったくわからなくても、意訳すると割とシンプルな内容だなと感じています。
信じるとか信じないとかではない、意外と日常に寄り添った教えが多いのが仏教の魅力で、「全然難しくないじゃん!」というのを一信を通じて伝えていきたいです。
ーー最後に、今後はどのようなストーリーを描いていきたいですか?
百地元:やっぱり、自分はこうなんだと決めつけてしまっている方も、多いと思うんです。なので、変わっていく一信やほかのキャラクターを見ながら、読んでいる方のマイナスな“枠”みたいなモノを取り払えるような物語にしたいなと思っています。
◼︎『成仏させてよ!』は「くらげバンチ」で好評連載中
(文・取材=青木圭介)
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