陸上自衛隊与那国駐屯地開設1年を記念する行事に参加した沿岸監視隊の隊員ら=2017年4月、沖縄県与那国町 80年前、戦火にさらされた沖縄では現在、軍事活動を強める中国をにらんで自衛隊の増強が進む。防衛省はこの10年で陸上自衛隊の駐屯地を相次いで開設。長射程ミサイルが将来配備される可能性もある。「要塞(ようさい)化」の加速に地元では、有事の際に再び戦場になるとの警戒感が強まっている。
◇「空白地帯」
「隙があれば中国に好き放題やられてしまう」。ある自衛隊幹部はこう強調する。
九州南端から日本最西端の沖縄・与那国島周辺にかけ1200キロに及ぶ南西地域は、沖縄本島を除いて自衛隊の部隊が少なく、全体として「防衛の空白エリア」と言われてきた。中国の東シナ海進出により徐々に緊迫化。防衛省は2016年、与那国に沿岸監視隊を置き、抑止力と対処力の強化に本格的に踏み出した。
19年に宮古島と奄美大島(鹿児島県)、23年に石垣島で部隊を新編。沖縄本島うるま市の勝連分屯地には昨年、地対艦ミサイル連隊を置いた。県都・那覇市でも17年、航空自衛隊の南西航空混成団が南西航空方面隊に格上げされた。
さらに、陸自第15旅団を来年度にも師団にする。トップの階級は「陸将補」から最高位の「陸将」に上がり、人員は約2500人から3000人規模へ、編成は1個連隊から2個連隊へ増強される計画だ。
質・量ともに充実させ、台湾海峡有事にも対応できる柔軟な運用を目指す。統合幕僚監部は「各地から集まる部隊の受け入れや、地元との密接な連携に当たる」(幹部)としている。
◇「軍は住民守らない」
これに対し、沖縄では政治的な立場を超えて懸念が膨らむ。保守系の県議は「中国の脅威を考えれば一定の備えは必要だが、これ以上の負担は許されない」と過度な南西シフトにくぎを刺す。
苛烈な地上戦となった沖縄戦では、旧日本軍がスパイの疑いをかけた住民を殺害するなどの悲劇も伝えられる。「軍隊は住民を守らない」。これがつらい記憶を受け継ぐ沖縄の「教訓」だ。自衛隊には厳しい目が注がれ、1972年の本土復帰直後は施設に落書きされたり、官舎にごみ収集車が回ってこなかったりする嫌がらせがあったという。
自衛隊は不発弾処理や離島患者の救急搬送、災害支援などを通じ、住民の理解を得る努力を重ねてきた。中谷元防衛相は今月20日の記者会見で、南西地域の防衛体制強化について「わが国への武力攻撃そのものの可能性を低下させ、国民の安全につながるものだ」と改めて訴えた。
ただ、沖縄との溝はなお残る。24年、うるま市での陸自訓練場新設計画が超党派の反対により撤回に追い込まれた。反撃能力(敵基地攻撃能力)構築のため導入される国産長射程ミサイルは沖縄にも置かれるとの見方が絶えず、県は強く反対。玉城デニー知事は「抑止力強化がかえって地域の緊張を高める」と繰り返し訴えている。

陸自の12式地対艦誘導弾の発射装置に弾薬を補給する訓練=2023年10月、沖縄県石垣市の陸上自衛隊石垣駐屯地