走るガジェットと呼ばれる米Teslaの魅力を連載で伝える筆者が、Model 3で大阪・関西万博を訪れた際の旅を詳報。横浜から万博会場まで1270kmの移動でエネルギーコストをゼロ円に抑えた秘策と、万博会場の充電インフラの実情、さらに万博で感じた「未来」について率直にレポートする。
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「iPhoneにタイヤをつけたようなクルマ」と表現される米Tesla。IT・ビジネス分野のライターである山崎潤一郎が、デジタルガジェットとして、そしてときには、ファミリーカーとしての視点で、この未来からやってきたクルマを連載形式でリポートします。
4月中旬、Model 3を駆って大阪・関西万博、岡山、姫路の旅を楽しんできました。開幕から2日目の4月14日に訪れた万博の感想を交えながらEVユーザー目線で旅を回顧します。
そして、この旅でのハイライトは、Model 3での1270km分の移動におけるエネルギーコストがゼロ円だったことです。その種明かしは後に詳述しますが、EVとしての米Teslaゆえに実現したゼロ円の旅でした。
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●元祖フライトシミュレーターの思い出
筆者は1970年の大阪万博のとき、中学1年生でした。当時、万博会場から徒歩15分という千里ニュータウンという地区に住んでいたこともあり、会期中、二十数回は訪れた記憶があります。
小学校6年生のとき、高台に位置する校舎から建設中の会場を眺望できただけに、未来に向けた物語の舞台装置が着実に完成していく様子に期待を膨らませたものです。実際、始まってみると月の石、携帯電話、自動運転のモノレール、動く歩道など、当時の筆者は、見るもの触れるもの、ほぼ全てに未来を感じました。
中でも感動し足しげく通ったのは、日立グループパビリオンのフライトシミュレーターです。アダムスキー型空飛ぶ円盤のような形状をした建造物のなかに、ユーザー自身で旅客機の操縦体験が可能な出展がなされていました。とはいえ、現在のCGを利用したシミュレーターではなく、巨大なミニチュア模型の空港の上をクレーンで吊されたカメラが移動するというリアルな仕組みでした。
CGによるシミュレーターを知った今、当時を振り返るとその緩慢な動きを記憶で反芻し苦笑いしか出ませんが、それでも、フライトシミュレーターという仕組みに未来を見いだし、子供心に血湧き肉躍ったものです。
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●iPS心臓に未来を見た
果たして2025大阪・関西万博は未来を感じることができたのでしょうか。結論からいうとそこに未来はありませんでした。AIやロボットなどテクノロジー系のものは、ネットで見聞きする情報の方がはるか先を行っており、今更感だけが積み重なっていきました。
詳細は後述しますが、万博会場内外周バス(eMover)の自動運転もドライバーが監視するレベル2による運行で、相当がっかりしました。新大阪などと会場を結び一般道を走る自動運転バスが、レベル2運行になるのは理解できますが、一般車両のいない外周道路を走るeMoverこそは、無人走行を実現して欲しかった、というのが正直な気持ちです。
もしかしたら、落合陽一氏がプロデュースしたパビリオン「null2」には「未来」があったのかもしれませんが、人気パビリオンだけに予約もとれず当日受付も不可で、心残りです。
その一方で未来をのぞかせてくれた展示もありました。PASONA NATUREVERSE(パソナ館)のiPS心臓です。2センチ程度のミニ心臓でしたがドクドクと脈打っていました。その可能性がもたらす未来は、いのち輝いていました。
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筆者としては、未来よりも「過去」に興味対象が向いたということもあります。なかでも、イタリアパビリオンの国宝級展示で満足度が爆上がりでした。2世紀に作られた大理石の彫刻像「ファルネーゼのアトラス」、レオナルド・ダ・ヴィンチの直筆スケッチ、バチカンパビリオン(イタリア館内)の「キリストの埋葬」は、その存在自身が解き放つオーラやエネルギーがその場の空気を支配しており、圧倒されると同時に見応え十分でした。
というわけで、未来を感じることはできませんでしたが、大阪・関西万博は、総じて満足することができました。昼間は好天でしたが、夕刻突然の風雨に見舞われシンボルである大屋根リングは雨宿りにちょうど良い具合でした。ずいぶんとお高い雨よけですが...。
●残念!ドライバー監視付のレベル2自動運転
筆者ががっかりした自動運転バスについてレポートします。eMoverは、4つの停留所を巡りながら外周を走るEVバスです。ほとんどの便はドライバーによる手動運転ですが、1時間に3本、自動運転車両が運行されています。ただ、自動運転車両だけは、始点から終点までノンストップで走ります。脇道レーンに入って乗降位置に駐める必要のある停留所での自動運転を回避するための措置だと思われます。
事実、終点の停留所では、乗降位置に駐める際には自動運転をオフにしてドライバーが手動で運転していました。車両はLiDAR、カメラなどのセンサー類による自動運転を実施しています。技術的には無人の運行が可能なのかもしれませんが、安全の上に安全を重ね、念には念を入れてレベル2による運行を行っているのでしょう。
クスっと笑った場面もありました。下記の動画にしっかりと記録されていますが、道中、足の部分だけ道にはみ出す形で、スタッフが腰掛けていました。てっきりバスが自動で避けるものかと思っていたのですが、手前で最徐行したかと思うと、ドライバーがそのスタッフに対し、足を引っ込めるように手で合図を送っていました。
繰り返しになりますが、外周道路は一般車両がおらず、他には業務車両や要人のリムジンが通行するだけで、ほぼ、eMoverの専用道路です。であるからこそ、米Waymoや中国企業が実施している無人による自動運転を実現して、日本の技術力を世界にアピールして欲しかったというのが正直な気持ちです。ちなみに、万博駐車場と会場を結ぶシャトルバスは一部でドライバーの監視付でレベル4運行していたそうです。
●会場駐車場の充電器で目的地充電の恩恵を実感
さて、冒頭で言及したエネルギーコストゼロの旅について、横浜から万博会場までの行程や経路充電の状況についてご紹介します。エネルギーコストゼロの理由は、至って単純で、Tesla Japanが昨年末に実施していた紹介キャンペーンによるクレジット付与のたまものと、万博会場の駐車場に設置された無料の充電スタンドを利用したからです。
紹介キャンペーン期間中、この仕組みを利用すれば、購入者は15万円の値引特典を受けることができ、紹介者にはその半額である7万5000円が付与されるというものです。ちょうど友人がModel 3を購入したので、筆者の紹介ということで、自身のアカウントにクレジットが付与されたわけです。この7万5000円は、1年間有効で、スーパーチャージャーでの充電、点検費用などのTesla Japanへの支払いに充当可能です。今回の旅ではスーパーチャージャー利用分6665円分の充電が無料になりました。
無料充電の恩恵はスーパーチャージャーだけではありません。万博会場の駐車場には最大6kWの充電器が設置されています。これが無料で提供されているのです。駐車場予約の際に充電器の予約も可能なので、EVで万博を訪れる場合は利用しない手はありません。
駐車場の充電器では、約12時間かけて約62kWhを充電しました。午前9時に到着し、すぐに充電を開始したので、21時に会場を後にする頃にはバッテリーは100%でした。駐めている間にエネルギーを満たすことができる目的地充電の利便性を実感しました。駐車場での充電をスーパーチャージャー分に換算すると5000円弱となる計算です。
万博駐車場の料金は2750円−250円=2500円(夢洲障がい者用駐車場)でした。マイナス250円というのは、阪神高速道路の中心部を迂回したことによるインセンティブ払い戻しです。
もし、ここで「エネルギーコストゼロ」という文言に違和感を覚えた人がいたら、あなたは間違っていません。実は、自宅において100%まで充電して出発しているので、自宅充電分の2000円弱のコストが発生していることになります。従って正確には、「道中充電のエネルギーコストゼロ」が正確な表現です。盛ってしまいました。ごめんなさい。
横浜の自宅から万博駐車場までのバッテリーのSOC(State Of Charge)を記すと下記のようになります。
1. 横浜の自宅を100%で出発、三重県のみえ川越スーパーチャージャーに17%で到着
2. 充電開始から約5分、ナビのトリップアドバイザーにより、SOC35%で「目的地まで走行可能」とアラートが表示されるが、余裕を見て40%まで充電
3. 充電時間8分、40%になったタイミングで切り上げて出発
4. 万博駐車場にSOC10%で到着し充電開始
5. 会場内を散策中、20時30分頃にアプリに100%充電完了の「通知」
とまあ、このような段取りです。筆者自身理想的な充電スケジュールが遂行できたと自負しています。トリップアドバイザーが到着時SOC10%残と予測した通り、正確に10%残で万博駐車場に着きました。トリップアドバイザー的な機能は、米Tesla以外には、独メルセデス・ベンツのEVにも搭載されているそうですが、この機能、全てのEVのナビに最低限搭載すべきものだと強く感じました。
●一杯3850円そばの元祖「ほんもの」を食べる
万博見学の翌日は岡山の実家に行き、その翌日は、小学生のときに見学して以来の、姫路城に立ち寄り横浜に帰ってきました。帰路は、(1)神戸北スーパーチャージャーで、約1時間かけて、SOC14%から100%まで、(2)新東名高速道路の遠州森町スーパーチャージャーで約10分で44%から65%まで充電し、自宅にはSOC26%で到着しました。
最後に万博会場で話題の一杯3850円のそばにまつわる話を書いて筆を置きたいと思います。姫路市名物の「えきそば」で有名な「まねき食品」が「究極の神戸牛すき焼きえきそば」という触れ込みで3850円のそばを会場内で提供していることがニュースになりました。
ただ、夫婦2人で食すと7700円です。旅で財布のひもが緩んでいるとはいえ、さすがにそばに7700円を支払う気にはなれません。という話を兵庫県たつの市出身の友人に話したら、姫路駅のホームに行けば、"ほんもの"の立ち食い「えきそば」を食べることできると教えてくれました。
友人いわく「ワシは姫路の高校に通うとった。ほぼ毎日、まねきそばを食うとったで、神戸牛すき焼そばなんぞ邪道じゃ。"ほんもの"を食すべし!」と力説するので、そこまで言うならと、姫路城見学を終えた足で姫路駅の5・6番線ホームに入場券で入り、"ほんもの"のまねきそばを食べてきました。確かに中華麺に絡むまろやかな鰹ダシのつゆは、うまみが効いてなかなかのものでした。立ち食いそばの域を超えていることは確かです。でも、3850円のそばも体験してみたかった、というのが今の本音です。
【訂正:2025年6月23日午後6時】自動運転バスの運用に関し、一部不正確な記述があったため訂正しました。
著者プロフィール
●山崎潤一郎
音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla
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