
子どもは成長していくことで、さまざまな変化を見せていきます。特に突然の体のクセや無意識の動きが続くと、親御さんは心配になってしまうものです。
漫画家の柿ノ種まきこさんは、5歳になる娘のなごみちゃんに現れた「チック症状」についてのエピソード『娘にチックがでた話』をX(旧Twitter)で投稿しています。症状に気づいた時の戸惑いや、娘さんとの向き合い方、そして周囲への伝え方について語った投稿が、多くの反響を呼んでいます。
年長になり新学期が始まった幼稚園児のなごみちゃんは、ある日ご飯を食べている時に「んっ」声を出すようになります。最初は気にしていなかったものの、2〜3日後には寝る前にも同じクセが続くようになり、テレビを見ているときも、無意識に繰り返すようになりました。
当時の様子について柿の種さんは「家庭では卒園して小学生になるという時期だったので、必要なものを買いに行ったり準備をしていました。そういったなかで娘は、環境が大きく変わる雰囲気を感じ取っていたのかもしれません。」と話しています。
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なごみちゃんの症状は数日後には頻度がさらに増し、無視できないほどの回数に。突然の変化に戸惑いながらも、柿ノ種さん夫婦は「子どもを見守ることが大切」と考え、娘さんに対してチックのことを指摘せず、普段通りの生活を続けることにしました。
しかしある日の夜、なごみちゃんと柿ノ種さんが寝室で眠ろうとしている時、なごみちゃんが涙を浮かべながら「ままぁ…しずかにねたいのにっ、かってにでちゃってやだ」と自らのチックに気付いていることを話します。柿ノ種さんは、なごみちゃんを励ますように「ママは全然気にならないよ」と言いました。
その後、なごみちゃんにチックの自覚があることが分かったため、本人が気にしてストレスを感じないためにも、通っている幼稚園と学習塾に状況を報告し、様子を見ていくことにします。柿ノ種さんは、これで周りの大人がなごみちゃんのチックについて見守る体制ができたと思っていたのですが、すべてが上手くいくわけではありませんでした。
ある日柿ノ種さんが幼稚園になごみちゃんを迎えに行くと、先生が「なごみちゃんのチックのことですが…」と園での状況をなごみちゃんの前で話し始めたのです。できるだけ大人が心配している素振りをなごみちゃん自身に見せたくなかった柿ノ種さんは、この対応にショックを受けてしまいます。
この事を振り返って柿ノ種さんは「本人が意識せず普段通り過ごせるのが一番良い環境だと思うので、できるだけ周りの方にも気にしないでもらえるのが良いのですが難しかったです。
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我が家の場合はチックがまだ出始めた頃に、相手に指摘される前に先手を打って伝えました。学校や習い事の先生方には指摘しすぎると悪化する可能性もあるので、見守っていただけるとありがたいと伝え、お友だちの保護者の方には、チックが出ているから見守っているんだとさらっと伝えておきました。
相手に悪気がなくても面と向かってチック症を指摘されると、やはり本人も気にしてしまうと思うので先に周りに伝えておいて良かったと思います。」と話しています。
その後もなごみちゃんのチックは、まったく出ない日もあれば、悪化している日もある状況が続いているようです。具体的な解決策がないなか、柿ノ種さん一家はできる事はサポートしつつ、なごみちゃんを見守り続けています。
このようなチック症について、精神科専門医の清水聖童さんに話を聞きました。
ーそもそもチック症はどのような症状が出るのでしょうか?
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チック症は、子どもによく見られる神経発達症の一種で、主に4〜7歳ごろに発症しやすく、ストレスや環境の変化によって症状が悪化しやすい特徴があります。例えば、新学期や進級、引っ越しなどのタイミングでは、子どもがストレスを感じやすく、症状が現れることが多いですね。疲れや緊張、不安も誘因となるため、新しい環境に適応する時期は注意が必要です。
チック症の症状は運動チックと音声チックに分かれます。運動チックは、瞬きが増える、顔をしかめる、首を振る、肩をすくめる、手足をピクピク動かすなど身体に反応が出るものです。
一方、音声チックは咳払いやうなり声、今回のような「あ」「え」などの短い言葉を発する、しゃっくりのような動きなどを指します。なごみちゃんの場合はこの音声チックと思われます。症状には個人差があり、一時的に出て消えることもあれば、長く続く場合もあります。
ー子どもがチック症ではと感じた時の対応は、どうするのが正解ですか?
まず、無理にやめさせようとするのは逆効果です。気にしなくて大丈夫だよと安心させることが大切ですね。また、ストレスを減らすためにリラックスできる環境を整えたり、十分な睡眠をとることも効果的です。
学校や周囲の理解を得ることも重要ですので、柿ノ種さんのように先生に事前に話しておくのは有効的な方法ですね。
ー幼稚園でのトラブルのように、大人がチック症で悩む子どもの前で話すことは避けるべきでしょうか?
そうですね。本人の前で症状について話すことは、子どもにとって負担となる可能性があります。
ただ、逆に本人がチックをオープンにしている場合は、不自然に周囲がその話題を避けることはむしろ逆効果にもなり得ます。本人がチックの話題をどのように感じているのかモニタリングしつつ、支援者は、成長の過程でよくあることとして受け入れ、暖かく見守ることが重要です。
ーチック症はどれくらいの期間症状が出るのでしょうか?
チック症は1年以上症状が持続する症例は10%程度で、成長とともに自然に軽くなることが多いので、温かく見守ることが大切です。
◆清水聖童(しみず・せいどう)
精神科専門医・医療法人社団燈心会ライトメンタルクリニック理事長。心理療法、生活習慣、栄養学など幅広い知識を背景とした精神予防医学を専門とし、病前から介入する精神医療を模索したクリニック「ライトメンタルクリニック」を立ち上げる。メンタルヘルスに関する記事監修や講演、取材対応も積極的に行い、専門的な知見を広く発信している。
(海川 まこと/漫画収集家)