
40歳以上の推計患者数は1590万人といわれている骨粗鬆症。特に閉経後の女性に多い病気だ。高齢になってからの骨折は、寝たきりや要介護状態につながる重大なリスク。そうならないようにはどうすればいいのか―医師が教える「骨貯金」とは?
「骨の健康にとって最も大事なことは『骨密度の数字』ではなく『骨折をしないこと』です」
そう話すのは医師の石黒成治先生。骨粗鬆症(こつそしょうしょう)と診断されると、多くの方が骨密度の数値に不安を感じ、薬に頼りがち。
骨密度が低い=骨折しやすいは間違い
「骨密度が上がって骨にカルシウム成分が多くついても、転んだら結局骨折します。実際に骨折リスクを決める要因は、骨密度よりも“転倒する頻度”や“重い物を持つ頻度”のほうが重要です」(石黒先生、以下同)
骨折を避けるのに大事なことは、転ばないこと。特に閉経後の女性に多い骨粗鬆症で最も折れやすいのは股関節、腰骨、手首の骨で、これらの骨折はほとんどが転倒によって起こるのだそう。
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骨に必要な栄養素をバランスよく
とはいえ、なるべく丈夫な骨を維持したい。そのためには普段の食生活は大切。骨を形成するには多くの栄養素が関わっている。
「ビタミンDはカルシウムを腸から吸収する上で非常に重要であり、骨へのカルシウムの沈着に対しても大事な働きをします。ビタミンDが不足すると骨を破壊する細胞が活性化してしまいます」
また、ビタミンKも骨の健康に欠かせない栄養素だ。
「ビタミンK1は植物性食品、野菜に多く含まれています。オステオカルシンという骨を形成する細胞が作り出すタンパク質を活性化する補酵素として働きます。
特に納豆などに含まれるビタミンK2はカルシウムやマグネシウム、ミネラル、ビタミンDと相互に働いて骨にいい影響を与えます。ビタミンK2があることによって、骨にちゃんとカルシウムが沈着し、血管や筋肉にカルシウムが沈着しないようになります」
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さらに、マグネシウムやコラーゲンも重要な成分。
「マグネシウムはカルシウムとビタミンK2、ビタミンDと一緒になって骨にしっかり沈着します。マグネシウムの濃度が低いと骨のミネラルは足りなくなってしまいます。また、コラーゲン摂取も骨を強化し、骨粗鬆症を改善するデータもあります」
プルーンで骨密度アップ
中でも注目なのはプルーン(乾燥プラム)。骨密度を高める効果があるそう。
「1日5〜6個のプルーンを食べるだけで、閉経後女性の骨密度が有意に上昇したという研究結果があります。プルーンに含まれるミネラル、ビタミンK、ポリフェノールが骨の健康に有利に働くと考えられています」
ただし、食後のおやつとしては糖分やカロリーが多いため、食べすぎや食べる時間帯などは気をつけたい。
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野菜・果物で骨を作る環境を整える
最新の研究では、炎症や酸化ストレスが骨の健康に強く関わっていることがわかっているそう。
「2021年の論文で、骨粗鬆症や骨折のリスクはCRPなどの炎症マーカーが高いことと関連していることが示されています。
炎症指数の高い食事を取る人は、抗炎症的な食事を取る人に比べて骨粗鬆症の骨密度が下がるリスクが31%、骨折をするリスクが28%上がることが示されています。逆に野菜と果物を食べると炎症が減少します」
野菜や果物の効果は実験でも証明されているという。
「平均32歳の男女29人に、あえて野菜・果物の少ない食事を6週間取ってもらい、その後、野菜・果物をたくさん取る食事を8週間取ってもらって骨に関するマーカーをチェックしました。
野菜・果物を取らないようにすると骨を吸収する活性化マーカーであるCTXがグッと上がり、骨を作ることの裏返しのアルカリフォスファターゼ(BAP)が下がっていました。つまり野菜・果物が不足すると骨を吸収しやすくなって、骨を作りにくくなるのです」
睡眠不足はNG!質のよい睡眠で骨貯金
骨にとって睡眠も大切なのだとか。
「2019年の報告では、短時間の睡眠が骨密度に影響を与えることがわかっています。特に1日5時間以下しか寝ていない人は、7時間以上寝ている人に比べて明らかに骨密度が低かったんです」
そのリスクの大きさは驚くべきものだという。
「股関節で22%、脊椎では28%も骨粗鬆症になるリスクが高かったのです。この骨粗鬆症の程度というのは約1年分の骨の老化に相当します」
睡眠不足が続くと年齢以上に骨が老化していくことになるという。石黒先生は7〜8時間の睡眠確保のためには、生活習慣の見直しが必要だと話す。
「例えば朝6時に起きなければいけなくて7〜8時間寝ようと思ったら、10時くらいには寝なきゃいけないことになります。それくらいに寝るためにはどういった生活スタイルを送るべきかを逆算して考えていくことも重要になってきます」
転倒防止の筋力トレーニング
冒頭でも触れたが、骨折を防ぐ最大の対策は「転ばないこと」だ。
「転ばないためには、しっかりと運動することが大事です。ただ有酸素運動やウォーキングなどはあまり骨の健康には影響がありません」
では、どんな運動が効果的なのだろうか。
「どちらかというと負荷をかけるレジスタンストレーニング、いわゆる筋トレをすることが骨を強くすることになります。骨に対してしっかりと負荷をかけるような運動が必要です」
筋力がつくと転倒リスクが減るだけでなく、骨への適度な負荷が骨密度アップにもつながるという。高齢になっても続けられる適度な負荷の筋トレを日常に取り入れることが重要だ。
「骨の健康に対する考え方は、単に骨の密度の数字を上げればいいのではなく、骨折しない身体づくりという広く大きなテーマで骨というものを見つめてほしいと思います。
骨の密度の数字が少し低いからとか、薬で少し上がったからといって一喜一憂するのではなく、本当に大切な骨のケアを始めていってください」
骨粗鬆症は「骨密度が低い」という状態であり、必ずしも病気ではないと話す。
「薬に頼る前に、食事、睡眠、運動で骨の健康を維持することが大切です。今日からできる骨の健康習慣を始めてみましょう」
教えてくれたのは……石黒成治先生●外科医。国立がん研究センター中央病院で大腸がん外科治療のトレーニングを受け、名古屋大学医学部附属病院、愛知県がんセンター中央病院、愛知医科大学病院に勤務。現在は健康スクールで予防医療を推進するとともに、登録者数50万人以上のYouTubeチャンネル「Dr Ishiguroの健康スクール」にて情報発信中。