
車のヒューズが切れてしまうと、そのヒューズを通って電源を供給している電装品が作動しなくなってしまいます。そのため、早急に原因の特定と復旧が必要になります。
なぜヒューズが切れてしまうのか、その時の症状や修理費用がいくらくらい掛かるのかを現役の整備士が解説します。
車のヒューズが切れると起こる症状の例
車に使用されているヒューズは大小さまざまで、1台の車につき少なくとも数十個のヒューズが使用されています。
ヒューズはバッテリーからの電源を供給する回路の上流(配線上でバッテリーに近いところ)に位置付けられています。
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ヒューズが切れたときの症状は、それらの下流側に使われている電装品によって異なるので、一概にどのような症状が起きるかの説明は困難です。
その中でも、もっとも身近なヒューズ切れのケースと、最悪のケースについてご紹介します。
▽ヒューズが切れた際の症状:身近な例を紹介
よくある症状の例として、アクセサリー電源のヒューズ切れによって以下のような不具合が発生します。
・ETCが使えない
・アクセサリーソケット(シガーソケット)が使えない
・ドラレコが起動しない
・ナビが起動しない
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ETCが使えない場合には、そのまま気付かず高速道路のETCレーンに入ってしまうと、バーが開かずに衝突してしまうリスクがあるので非常に危険です。
▽最悪の場合エンジンが掛からなくなり走行不能となるケースも
ヒューズはあらゆる電気で動くものの電源線の上流側に用いられています。
場合によっては、エンジンそのものが掛からず走行できないようなケースもあり得ます。
車のヒューズが切れる(飛ぶ)原因
何らかの電気的な異常があり過電流が流れたとき、回路を保護する目的でヒューズが切れます。
過電流が流れるケースはさまざまです。主なケースについて紹介します。
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▽大電流が流れることでヒューズが溶断する
本来流れている電流よりも大きな電流(過電流)が流れると、配線や電気部品が熱を持ってしまいます。
最悪の場合、部品や配線が焼損・溶損しますがその際に発火を伴い、火災につながる恐れがあり非常に危険です。
ヒューズがあると、定格電流以上の電気が流れたときにヒューズが切れて電源を遮断するので、こういったリスクを回避することができます。
つまり、ヒューズは電気回路を保護する安全装置の役割があるのです。
続いて過電流が流れてヒューズが切れる原因について解説します。
▽回路がショートする
回路がショート(短絡)する原因はさまざまです。
たとえば、コネクタ内部に水が入ると水は電気を通しやすいので、端子間で水を介してショートしてしまいます。
ほかには、配線の被覆が剥けて中の銅線が剥き出しになると、その銅線部分が他の配線の同じく銅線部分と接触したり、車の金属部分に接触してしまうリスクを伴います。
特に電源(プラス)の配線が金属部分(ボデーアースとなり得る場所)やアース(マイナス)側の配線にショートしたときが危険です。電源からきた電気が、途中で何も抵抗物を介さずにアースに流れてしまう状態です。
電気を水に例えると分かりやすいのですが、流れる回路に抵抗物が無いと、電気は勢いよく流れてしまいます。(=大きな電流が流れる)
結果、回路を保護する目的でヒューズが切れてしまいます。
▽電気回路で接触不良が発生している
回路がショートしなくても大電流が流れてヒューズが切れるケースがあります。
コネクタ部などの端子部分で端子間の接触不良が発生すると、スパーク(火花)が飛ぶことがあります。
このとき、電気の流れが点の一極に集中することで過電流となり、ヒューズ切れの原因となります。
▽ヒューズの容量を超える電装品を使う
前章で「車のヒューズが切れると起こる症状の例」としてアクセサリーヒューズ切れの例を挙げましたが、アクセサリーヒューズはアクセサリソケット(シガーソケット)に電源を供給しています。
アクセサリソケットはとても便利で、アフターパーツを使用すればスマホを充電したり、扇風機や照明、ポータブルナビを使用したりといったさまざまな使い方ができます。
しかし、自宅のコンセントにも使用する家電の消費電力の上限があり、それを超えるとブレーカーが落ちるのと同じように、ヒューズの容量を超える電気を使うとヒューズが切れてしまいます。
アクセサリソケットの挿せる箇所を増やすアダプターも販売されていますが、上記の理由により電装品を複数使用するときは注意が必要です。
特にスマホ充電は思いもがけない大電流が流れることがあり、アクセサリーヒューズが切れる理由として、わたしたち整備士も実際によく出くわす事例です。
▽【補足】強い振動や衝撃でヒューズが切れる
稀な例ですが、強い振動や衝撃を受けたことでヒューズが切れてしまうこともあります。
過電流によってヒューズが切れると破断面が溶断するので、焼け焦げたり溶けたような破断面となりますが、衝撃や振動でヒューズが切れるとそのような破断面にはなりません。
またヒューズの両端の付け根のところで切れてしまうと、一見目視では切れたことが分からないようなケースもあります。
ヒューズが切れているかの確認方法
ヒューズが切れているか確認する方法を手順を示したうえでまとめました。
▽1.取り扱い説明書でヒューズの位置を確認
ヒューズ切れが疑われるとき、まずはヒューズがどこにあるかを車の取扱説明書を見て確認します。
多くの車では、車内とエンジンルームの2箇所にヒューズボックスが配置されています。
取扱説明書には、それぞれに配置されているヒューズが主にどういった電装品に関連するか記載されています。
ヒューズボックスの裏蓋にも記載されていることがあります。
作動しない電装品と照らし合わせながら、関連のあるヒューズの位置を確認しましょう。
ただし、最近では車両システムが複雑になってきていることから、ユーザーが自分自身で点検できないようにあえて記載されていないメーカーもあるので、その場合には該当するヒューズを特定するためには整備工場に依頼しなければいけません。
▽2.該当するヒューズを抜く
次に該当するヒューズを目視で点検するためにヒューズを抜きます。
ヒューズボックス内または、ヒューズボックスの裏蓋にヒューズを抜くためのツールが備わっていれば、そちらを使用してヒューズを抜くことが可能です。
ツールがない場合には、ラジオペンチを使用して抜くことをおすすめします。
ラジオペンチは100均でも購入可能です。
▽3.ヒューズを目視点検する
外したヒューズを目視点検します。過電流によってヒューズ切れが発生した場合には溶断しています。
一方で振動や衝撃、ヒューズ不良のような場合にヒューズ切れが生じたときは、見た目で判断が困難な場合があります。
※4.サーキットテスターがある場合
見た目での判断が困難な場合、またはより正確に判断したい場合には、サーキットテスターを使用してヒューズの両端にテスターのリードを当てて導通点検を実施します。
導通があればヒューズは正常、導通が無ければヒューズが切れています。
ただし、専門的な知識が必要な項目となるので難しければ、無理に実施する必要はありません。
車のヒューズを交換する費用の目安
ヒューズボックス内にあるようなヒューズであれば、交換費用は工賃と合わせても1,000円程度〜となり、そこまで高額となるケースはほとんどありません。
ただし、「バッテリーのプラスとマイナスを逆に接続させてしまう」「事故の発生」といった特殊な要因に伴い、電気回路図上で見るとヒューズボックス内のヒューズのさらに上流側にある大きな定格電流のヒューズ(例:メインヒューズなど)を交換する場合は、高額な修理費用が発生する可能性があります。
こういったときは、エンジンがかからないといった致命的な不具合が出ているケースが多く、診断料が必要になったり部品代そのものも高くなりがちです。費用の目安は数万円程度ですが、車種や状況によって大きく異なります。
ヒューズの交換方法
ヒューズボックス内にあるヒューズの交換は、「章:ヒューズが切れているかの確認方法」でヒューズを取り外す手順を解説しているので、その手順に従ってヒューズを脱着すればOKです。
電気関連の整備をおこなう際は、念のためにバッテリーのマイナス端子を外しておくと万全でしょう。
ヒューズの交換に際して、気を付けなければいけない点は以下のとおりです。
・ヒューズの種類(形)を間違えない
・ヒューズの定格電流はかならず同じものを使用する
▽ヒューズの種類を間違えると交換できない
車に使われているヒューズにはいくつか種類があります。ひとつの車種でも、適材適所でこれらは混在しています。
DIYでも交換ができるものだと、以下のような種類のヒューズがあります。
(上から下にいくほど新しい種類のヒューズです)
・平型ヒューズ
→ヒューズ本体に足(差し込む端子)が生えた見た目
・ミニ平型ヒューズ
→平型ヒューズを小さくしたもの
・低背ヒューズ
→ミニ平型からさらに小型化されており、差し込みの端子部分が飛び出しておらず、ヒューズ本体に入り込んだ形となっている
・マイクロ2ヒューズ
→ミニ平型ヒューズの形をそのままスリムにしたような見た目
それぞれサイズが異なるので、間違えるとそもそもヒューズを装着することができません。
・【補足】管ヒューズ
→ETCやドラレコの電源線の途中にあるヒューズ。円柱型のケースの中に入っている
▽定格電流はかならず同じものを使用する
ヒューズは万が一の事態から電気回路のみならず車を守るための重要な部品です。
定格電流はかならず守ってヒューズを交換しなければ、本来のこの役割を果たせなくなります。
定格電流の異なるヒューズを装着するとどうなるかを以下にまとめました。
定格電流より大きいヒューズを装着
→不具合があったとき、回路に本来許容できる以上の電流が流れてしまうので、電装部品やコンピュータの故障や、配線などの溶損、火災につながる
定格電流より小さいヒューズを装着
→正常な電流しか流れていないのに、ヒューズが切れてしまうおそれがある。
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【整備士のまとめ】
車はあらゆる場所に電気で作動する部品が使用されています。
車が正常な状態で正しく使われていれば、突然ヒューズが切れることは基本的にありません。
ヒューズが切れるということは、何かしら電気的に問題があったと考えられます。
いまは大丈夫でも、電気で作動する部品が劣化していたり、配線に無理が生じている合図かもしれません。
ヒューズを交換して正常に復帰したとしても、念のため整備工場で不具合や使い方に問題がないか診断してもらうことをおすすめします。
(まいどなニュース/norico)