王の帰還
毎年、全日本ロードレース選手権をまわり、シャッターを切り続けるカメラマン「Nob.I」がお届けする『カメラマンから見た全日本ロード』改め、今回は9月26〜28日に開催された2025年MotoGP第17戦日本GPを取材した『カメラマンから見たMotoGP』をお届けします。
* * * * * * *
鈴鹿8耐が開催された、うだるような夏から季節は移り、だいぶ涼しくなってきまししたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか?今年もGPサーカスが日本に戻ってきました。MotoGP撮影のオファーを出していただいた編集部に感謝です。
全日本ロードのもてぎとオートポリスラウンドが抜けているのでは?と思われたそこのアナタ。鋭い指摘、そしてご愛読ありがとうございます。
夏のもてぎは、暑(熱)すぎて、撮影するだけでいっぱいいっぱいでした。選手もかなり疲弊しており、メディアをはじめとした関係者も皆しんどそうで、かなり辛い現場でした。オートポリスは寄稿しようと思っていたものの、JSB1000以外は濃霧により中止された状況で断念し、気づけば日本GPとなっていたのでした。
毎度のこと、レースや日本人選手の活躍は編集部にお任せし、私の視点でお送りします。
それでは、カメラマンから見たMotoGP2025をお楽しみください!(2024年版を復習してから読むとより楽しめます:https://www.as-web.jp/bike/1142087?all)
まず、ご登場いただくのはこの方。
当ブログをご愛読いただいている方にはおなじみ、autosport web準レギュラーのアルパインスターズ中村さん。毎度お世話になっています。
ここ最近は装備品に興味津々の筆者です。余談ですが、2024年版で紹介したヘルメット『スーパーテック R10』はつい先日、日本で発売開始となりました。
「木曜の搬入日であれば、気になりそうなアイテムがどっさりありますヨ」という中村さんの甘い誘惑にかられ、甘い蜜に群がる虫のごとく、アルパインスターズのオフィスを訪れた筆者なのでした。
まずは、上記の写真通り、梱包された装備品がたくさん置いてありました。前戦終了後、イタリア本社にて補修し、今戦での返却待ち状態だそうです。レースウイーク中ではまずお目にかかれない光景。ちなみに、中村さんによると、レーシングスーツ(以下:ツナギ)は選手によって5〜6着所持しているそうです。レース毎に新品だと思っていましたが、補修しながら着ているんですね。
筆者がまじまじ見ていると、マルケス兄弟のツナギを出してくれました。
ん???肘のスライダーがなんか違う?
スタンダードはアレックス・マルケス選手(BK8グレシーニ・レーシングMotoGP)の仕様(写真左)ですが、マルク・マルケス選手(ドゥカティ・レノボ・チーム)の仕様(写真右)は削れにくいように金属のパーツを追加しているそうです。肘スリの登場時は非常に驚いたものですが、もう肘スリは当たり前で、今や肩スリの時代です。そのうち肩のプロテクターにも金属が付いたりして……
そんな空想を膨らませていると、中村さんが「こういうところも選手の要望に合わせているんですよ〜」と脚部の内側を見せてくれました。
選手によってはニーグリップしやすいように、シリコン製の生地を当てているそうです(写真上光沢のある個所)。
アレックス・マルケス選手の仕様(写真左)は面積が少なく、マルク・マルケス選手の仕様(写真右)は面積が多いようです。さらに、膝のプロテクターの内側のパーツにもシリコン生地が使用されています。アレックス・マルケス選手のツナギは内股部が汚れており、新品ではないことが分かります。また、マルク・マルケス選手の同生地の箇所にはパンチング加工が施されています。
「せっかくだから補修中の写真を撮れるとおもしろいんだけどなぁ……」とつぶやいたところ、「さすがにウイーク中は補修していないけど、代わりにこんなのはいかが?」
フランセスコ・バニャイア選手(ドゥカティ・レノボ・チーム)のブーツを出してくれました。
左足のプロテクター部は汚れていて使用感が分かりますが、右足のソール部は削れておらず、張り替えたのが確認できます。
「ブーツのつま先ってこんな感じでしたっけ? もっとゴツゴツしていたような記憶が……」と尋ねると、
「アルパインスターズ製のブーツを履いているGPライダーのつま先部は、ほとんどの選手がプラスチック製に特注加工しています」と面白い小ネタを教えていただけました。
「ツナギもブーツも市販品モデルではないのですか?」
「基本的に市販品がベースになっていますが、MotoGPで使用されているアルパインスターズ製品のほとんどがプロトタイプになります。製品開発のため、バイクがあれこれパーツを試すのと同じように、装備品も色々と試行錯誤しています。グローブの方が分かりやすいかも」と今度はグローブを出してもらえました。
左から、ファビオ・クアルタラロ選手(モンスターエナジー・ヤマハMotoGPチーム)(赤)、ペドロ・アコスタ選手(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)(白)、マーベリック・ビニャーレス選手(レッドブルKTMテック3)(橙)のグローブ。
説明によると、ファビオ・クアルタラロ選手、ペドロ・アコスタ選手のモデルは、手首のプロテクターを革に変更しています。通常は、マーベリック・ビニャーレス選手のモデルの用にプラスチックのプロテクターが付いています(マーベリック・ビニャーレス選手のモデルは左ふたつと異なる)
ファビオ・クアルタラロ選手、ペドロ・アコスタ選手のモデルは、同一であるものの、薬指と小指をつなぐパーツの有無が異なります(ペドロ・アコスタ選手はついていません)。
「ツナギ、ブーツ、グローブそれぞれで、こんなにバリエーションがあって大変なのでは?」と驚いていると、
「選手ごとにナンバリングして管理しています。ペドロ・アコスタ選手のグローブは、おそらく【2025年シーズンの14仕様目】でしょう」
「2025年の14仕様目?ということは、もしかして開幕戦と最終戦では仕様が違うんですか?」
「そうです。シーズンが進むにつれて、選手の意見があれこれ出てくるので、その好みに対応していっています。これらのフィードバックが製品開発に繋がっていきます」
マシンだけでなく装備品まで一品モノだったとは……さすがGP。いつもご協力ありがとうございます、アルパインスターズ&中村さん。この場を借りて御礼申し上げます。
続いて、バイクの装備品といえばやはりヘルメット、ということで、ショウエイ(SHOEI)の臨時オフィスに突撃を試みると、快諾してくれました。ショウエイの皆様、ありがとうございます。
紹介してくれたのはまたまたマルケス兄弟のヘルメットでした。やはり兄弟でランキング1・2位、というのは話題性が大きいですね。
マルク・マルケス選手のスペシャルデザインは昨年同様でしたが、ベースのカラーリングが白に変わり、スポンサーロゴの変更がありました。
アレックス・マルケス選手も日本GP用のスペシャルデザインです。
後頭部にはアレックス・マルケス選手の座右の銘を四字熟語に充てた「進取果敢」の文字が。
ラウンドによってマシンやヘルメットがスペシャルカラーリングだと、「その日限定」という特別感が撮影意欲を沸き立たせます。昨年も同じようなコトを書いていますが、「その日その時その場所で」しか撮影できない、その一瞬を大事にしていきたいです。
余談ですが、個人的にこの選手のこのカラーリングは非常に感慨深いです。
ホンダHRCテスト・チームからワイルドカード参戦の中上貴晶選手。
その日その時その場所で……筆者は、この日本GPを非常に緊張して迎えました。
……もしかしたら世界チャンピオンが決まるかも?もちろん初めての体験であり、それが日本GPで起きるかもしれない。何という巡りあわせなのか。あれこれシミュレーションしたものの、レースウイーク中は緊張のためよく眠れなかったのは内緒です。
編集部と念入りに打ち合わせを行い、役割分担して結果的にはうまく撮りきれたのではないかと思っています。(https://www.as-web.jp/bike/1255630、https://www.as-web.jp/bike/1255485)
良く撮れた写真はほとんど使用してもらえましたが、満足いただけたのでしょうか?これらの撮影の裏話を少々。
世界チャンピオンを獲得したのだから、何かしら祝勝会があるのでは?とチャンピオン記者会見後にピットに向かうと、案の定、チームがマルク・マルケス選手を待っていました!
ここからはもう音楽やらダンスやら拡声器やらシャンパンファイトやらでどんちゃん騒ぎ。喜んでいるチームですが、こちらは必死。なんとか撮影しようと、興奮している人垣を縫って応戦です。
ポジション確保!
シャンパンを浴びてレンズが……
良いシーンなのにポジションがぁ……
押し合いへし合い、うまくカメラを構えられない、シャンパンボトルが割れる、シャンパン浴びてレンズは曇る、オートフォーカスは合わない……どんちゃん騒ぎが終わるころにはシャンパンまみれでビショビショになり、人に揉まれてフラフラになった筆者でした……(動画でないのが残念……)
今戦は、MotoGP王者が還ってきた日本GPとなりました。毎回のごとく、書ききれないネタもたくさんありますが、当ブログは「カメラマンから見た」視点であり、やはり「初体験」を書かずにはいられません。
世界チャンピオン獲得の瞬間をよく撮れた反面、実は反省点も大いに残ったMotoGP日本GPとなりました。毎年「気づいたら終わっていた撮影」になっていましたが、今回は悔しさが残っているので心に少し余裕が出てきたのでしょうか。毎年の鈴鹿8耐のブログにも書き残していますが、この後悔や反省が次回に繋がると思っています。
この場を借りて編集部の協力に感謝申し上げます。
次回もお楽しみに!
[オートスポーツweb 2025年10月16日]