「履くだけで疲れにくくなる」は本当か 急拡大する“リカバリーシューズ”の各社戦略

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2026年05月22日 07:20  ITmedia ビジネスオンライン

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リカバリーウェアの次は、足元?

 「リカバリーシューズ」の勢いが拡大している。日本リカバリー協会によれば、 2025年のリカバリー市場規模は、前年比1.27倍の7兆6638億円に。2035年には21兆円を超えると予想されている。


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 そんな中、血流促進効果をうたった「リカバリーウェア」に続き、足への負担を軽減し、回復に導くとされる「リカバリーシューズ/サンダル」が、次なるトレンドになりつつある。


 リカバリーシューズのパイオニアとして知られるのは、米国発のリカバリーシューズブランド「OOFOS(ウーフォス)」。日本展開を開始した2018年2月から好調に推移し、2025年の年間売上高は42億8000万円に達し、83万5000足を販売した。


 疲労回復パジャマ「BAKUNE(バクネ)」シリーズを累計150万セット販売した「TENTIAL(テンシャル)」(東京都品川区)では、2021年から展開する「リカバリーサンダル」が近年好調だ。2026年8月期第2四半期には、サンダルカテゴリーの売上高が前年同期比234%となった。


 老舗靴ブランド「マドラス」(名古屋市)では、医療用の超柔軟ゲルを活用した血行促進効果のある「リカバリーmetaインソール」を独自開発。反響が大きいことから、今春から全製品への搭載を決めた。


 いずれも血行促進をうたうリカバリーウェアと異なり、リカバリーシューズやサンダルは、各社のアプローチが異なる点も注目されている。ウーフォス、テンシャル、マドラスの3社に成長戦略を聞いた。


●女性が約7割、ファション性が高い「ウーフォス」


 2011年、米国マサチューセッツ州で創業したウーフォス。リーボックやナイキ、アディダスなどで要職を務めたベテラン勢が運営し、ランナーの間で急速に広がった。現在は世界中で販売されており、2025年度の全世界売上高は、約1億6500万ドル(約260億円)に上った。


 同社では、足への負担を抑えることによって「疲労回復を促す」アプローチを取っている。特殊素材の「OOfoam(ウーフォーム)」により、一般的なEVA(エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂)のミッドソールよりも衝撃を37%軽減。


 さらに、特許取得のフットベッドが土踏まずをサポートすることで、従来の靴と比較して、足首にかかる負荷を最大47%軽減するという。価格はサンダルが1万円前後、シューズが2万円前後が中心だ。


 国内では、輸入商社のアルコ(大阪市)が独占販売権を獲得し、2018年2月から全国発売。当初から反響が良く、2018年3〜6月の4カ月で年間目標の4万足を販売した。その後も好調が続き、アルコの売り上げをけん引するブランドに成長しているという。


 「当社では、Fashion(ファッション)、Function(機能)、Fun(楽しい)、Future(未来)、Wellness(心身の健康)のコンセプトを掲げています。ウーフォスは、まさにここに当てはまりました。機能性もファッション性も高く、ファッションブランドとコラボすれば、より注目されると考えたのです」(アルコ PR Div. Manager 村松正規氏)


 このアルコの目論見が日本市場にハマった。Yohji Yamamoto(ヨウジヤマモト)などファッションブランドとのコラボ製品は毎回完売する人気ぶりに。現在は1シーズンに4社とのコラボモデルを発売し、ブランドの認知や価値の向上につなげているそうだ。


 国内では、オンラインと約700の実店舗で販売。約6割が量販店を含めたスポーツ店、4割がアパレル店となる。直近では、4月下旬の土日に原宿でポップアップストアを開催し、2日間で約500足を販売。過去最高の販売数を記録した。


 「現状、売上高の9割近くを『サンダル』が占めています。顧客は約7割が女性で、コア層は30代です。サンダルはファッションアイテムとして定着していますが、スニーカーは成長余地があります。まずはスポーツ売り場での展開を強化し、通年で売れるブランドに育てていきたいと考えています」(アルコ 村松氏)


●ウーフォスやホカを追う「テンシャル」


 疲労回復パジャマ「バクネ」で知られるテンシャルも、じわじわとリカバリーサンダルの売り上げを伸ばしている。2021年5月の発売からシーズンごとに改良やラインアップの拡充を重ね、累計販売数は22万足に上る(2026年2月時点)。


 2025年秋冬には、開発に約3年を費やした大幅リニューアルを実施。日本人約40万人の足型データを活用して「安定性」や「フィット感」を追求した。


 「製品開発の過程では、『エビデンスの再定義』を行いました。シューズ業界では、ソールがゆりかごのように丸みを帯びた『ロッカーボトム構造』が歩きやすいという定説があります。しかし、さまざまな構造のソールで歩行時の圧分散や履き心地などを検証したところ、ロッカーボトムよりも良い結果となったソールがありました。『データ』と『感覚』の両軸を追い求めた結果、当社独自の設計が生まれました」(テンシャル 商品本部 企画開発グループ 守屋俊治氏)


 2026年春夏には、さらなるリニューアルを実施した。足裏が触れるフットベッドには柔らかいEVAを、地面と接するアウトソールには硬度の高いEVAを採用する「2層構造EVA」を搭載した「リカバリーサンダル プロ」シリーズを新たに発売。「履いた瞬間の柔らかさ」と「歩いたときの安定性」の両立を実現した。


 春夏の新製品では、機能性の向上だけでなく、ピンクや紫、イエローなどの色展開を増やしてファッション性も高めた。


 「価格が8000円弱の『リカバリーサンダル スライド』シリーズは、パイオニア『ウーフォス』をベンチマークにしています。ファッション性も重視し、どちらかというと女性がターゲットです。価格が1万円を超える『リカバリーサンダル プロ』は『HOKA(ホカ)』をベンチマークにしていて、男性がターゲットです」(テンシャル 執行役員 事業統括本部 新規事業開発部 部長 石川朝貴氏)


 同社のリカバリーサンダルは、約6割の顧客が女性となる。一方で、プロシリーズに限っては男性が多い。プロシリーズは発売から3カ月とまだ間もないが、想定以上の反響を得ているという。


 1人1人に合った靴を作るのは、洋服以上に繊細で難しいことから、テンシャルでは、今後もリカバリーサンダルの改良を続けていく方針だ。同社では寝具も好調だが、いずれにしても「ネクストバクネの創出を目指す」と守屋氏は話した。


●訪日外国人にも人気 「マドラス」独自インソール


 100年以上にわたって靴づくりを担ってきたマドラスは、「リカバリーシューズ」に舵(かじ)を切ったところだ。創業は1921年で、1994年に全世界のマドラス商標権をイタリアのマドラス社より譲り受けた。イタリアの靴づくりの伝統を踏襲しつつ、日本人が求める履き心地と機能性、デザインを追求してきた企業だ。


 同社では、超柔軟ゲル素材の専門メーカー・タナック(岐阜市)と協業して、医療用のクリスタルゲルを使用した「リカバリーmetaインソール」(1万3200円〜)を2023年2月に発売した。


 土踏まず部分の盛り上がった形状が、歩行中の足裏を指圧のように刺激し、歩くたびに血行を促進。従来のインソールと比べて、足の血行促進率は120%になるそうだ。また、高伸張性と高反発弾性を持つ素材が足裏にかかる圧を分散するなどして、足への負担を軽減できるという。


 同社は長らく「紳士靴」をメインにしてきたが、同インソールの発売後は、子どもを除く幅広い男女へターゲットを広げた。


 「開発に1年以上を費やし、足が触れる場所によって硬度を変えるなどの工夫を取り入れ、特許も取得しました。現在の指圧の基盤を築き世に広めた浪越徳治郎さんの4代目継承者である浪越友哉さんにも、指圧効果のお墨付きをいただきました」(マドラス 岩田社長)


 開発後、応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」で発売すると、想定を超える300万円以上が集まった。そこで、マドラス銀座店を「リカバリーmetaインソールのコンセプトショップ」として、2024年9月にリニューアルオープンした。


 「オープン直後は『metaインソール』として売り出していたのですが、リカバリーウェアの盛り上がりを受けて、『リカバリー』という言葉を取り入れたところ、大きなインパクトがありました。立地柄、同店の顧客は半分以上が訪日外国人で、旅行中に立ち寄って有名スニーカーから当店のインソールを搭載した靴に履き替える人も多くいます」


 銀座店では、リニューアル後のインバウンド売り上げが前年比3倍超となった。海外向けのインフルエンサー施策を強化し、「たくさん歩いても疲れにくい靴がほしい」という旅行客の需要に沿うようアプローチした。高機能インソールを搭載した靴は単価3万円前後と高価だが、スニーカーや革靴だけでなく、ヒールの高い靴も売れ行きがいいそうだ。


 「7センチヒールの靴でも歩きやすいとして、40〜50代の女性を中心に人気です。しばらく履くと他の靴を履けないほど気に入る人もいて、口コミで高い評価をいただいています。婦人靴は特に伸びしろがあると考えています」


 マドラスでは、セカンドラインの「MODELLO(モデロ)」と「madras Walk(マドラスウォーク)」にも、独自のシリコンで開発した、metaインソールより安価な「リカバリーインソール」の搭載を決定。スニーカーが約1万5000円と買いやすい価格帯にして、新規顧客の獲得を狙う。来年以降は、海外展開も本格化する考えだ。


(小林香織、フリーランスライター)



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