
皇族数の確保に向けた「皇室典範」改正の議論が、大きな山場を迎えている。「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」「旧宮家の男系男子を養子に迎える」という2案を軸とした「立法府の総意」がまとまり、政府は皇室典範の改正案準備に入った。
【写真を見る】「今更苦労する気はない」旧宮家の男性が語る“男系男子養子案”への困惑 皇室典範改正の裏で議論進まぬ“お金”と“皇位継承”の問題【edge23】
しかし、その水面下では、養子案の対象となりうる旧宮家の困惑や、女性皇族の身分保持で浮上する「お金」や「配偶者の身分」など数々の課題が山積している。そして、今回の議論では先送りされた「皇位継承」のあり方はどうなるのか。
一見、前進したかに見える議論の裏側で、何が問われているのか。TBS政治部与党キャップの川瀬善路記者と、社会部宮内庁キャップの岩永優樹記者が取材でつかんだ関係者の証言や議論の経緯から、その現在地と今後の焦点を読み解く。
「今戻れと言われても…」旧宮家の男性が語る困惑皇族数の確保策について、与野党各党が参加する全体会議は2つの案を「了とする」内容を「立法府の総意」として政府に示した。一つは「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」案。そしてもう一つが、「旧宮家の男系男子を養子に迎える」案である。
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このうち、旧宮家からの養子案について、宮内庁キャップの岩永記者は、この案の対象者となりうる人物に直接話を聞いた。戦前は皇族だった旧久邇宮家の男系男子にあたる久邇朝宏さん(81)。3歳で皇籍を離脱し、80年近くを一般国民として生きてきた人物だ。
久邇さんに、もし皇族に戻るよう言われたらどうするか、と問うと「宮様に戻るんだったら小さい頃から教育を受けてないと。今戻れと言われても相当無理な話」と言い切った。
「今更そんな苦労する気はない」制度設計にも課題その背景にあるのは、皇族としての振る舞いや公務を担うことの重みだ。幼少期から帝王学をはじめとする特殊な教育を受けていない人間が、突然その役割を全うできるのか。久邇さんは「特別な教育を受けてもそこに自分を適応させて皇族として日本国民のために動くということは無理」と、その困難さを強調する。
事実上可能性は極めて低いが、仮に自身が養子の対象となった場合についても、「今81歳なんですよ。今更そんな苦労する気はないし、苦労しても生きるための苦労は今更したくない」と、戸惑いを隠さない。
この養子案は、そもそも制度として機能するのかという根本的な問いを突きつける。対象者とされる旧宮家の男系男子は約10人程度いると言われるが、宮内庁もその意向を把握しているわけではない。養子になる人の年齢や、親となる皇族の範囲についても「慎重に制度設計を行う」と記されるにとどまり、具体性を欠いたままだ。
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さらに、この案にはより本質的な懸念もつきまとう。「旧宮家といっても一般国民」であり、その人たちを血筋だけを理由に特別扱いすることが、憲法14条が禁じる「門地による差別」にあたるのではないかという指摘だ。また、養子となった男性の子どもが女子であった場合、皇族の数は増えても、男系男子による皇位継承の安定にはつながらないという問題も残る。
夫と子は「一般国民」か「皇族」か “最大公約数”に残る課題もう一つの柱である「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」案。こちらは日本保守党や共産党などを除く多くの党・会派が「了」としており、養子案に比べると合意形成は進んでいるように見える。しかし、ここにも議論が尽くされていない重大な論点が残されている。
それは、身分を保持した女性皇族の配偶者と子どもの身分をどうするかという問題だ。自民党や日本維新の会などが「一般国民」とすべきだと主張する一方、中道改革連合や立憲民主党などは「皇族の身分を付与すべきだ」と求め、意見は真っ向から対立した。
2年にわたる議論でも折り合いがつかなかったこの点について、今回の取りまとめでは結論を明記せず、あえて曖昧なままにする「ファジー」な決着が図られた。政治部与党キャップの川瀬記者は、今回の議論のポイントを「最大公約数」だと指摘する。対立する法案のように数で押し切るのではなく、各党が一致できる点だけを記すことで「総意」という形を取り繕った格好だ。
この決着に対し、立憲民主党の長浜博行議員は「アリバイ作りのような形で若干むなしさを感じる」と不満を隠さない。意見を表明しても反映されず、シナリオ通りに物事が進んだだけだというのだ。
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だが、この曖昧さが新たな課題を生む。仮に、政府の有識者会議の報告書が示唆するように夫と子が一般国民のままとした場合、様々な矛盾が生じる可能性がある。
皇族にはない選挙権を家族が持つことになり、皇室の「政治的中立性」に影響が及ぶ懸念。また、家族は職業選択の自由を持つが、特定の職業に就くことで皇族の品位が損なわれる事態はないのか。生活の拠点となる住まいや、生活費の問題も避けては通れない。
特に深刻なのが「お金」の問題だ。宮家の皇族には、品位保持のための生活費として「皇族費」が国から支出される。しかし、この金額には明確な男女差が存在する。
仮に女性皇族が結婚後に新たな宮家の当主となった場合、2026年度の計算では、内親王(女性)に支給される皇族費は1525万円。これに対し、親王(男性)は3050万円と、実に倍額だ。
岩永記者はこの差の背景について、ルールが作られた当時の「男性の方が活動量が多い」「女性はいずれ結婚して皇室を離れる」といった前提の影響が考えられると指摘する。しかし、愛子さまや佳子さまが多くの公務を担う現代において、この前提はもはや合理的とは言えない。
さらに、夫と子が一般国民のままであれば、皇族費を家族の生活費に充ててよいのかという法的な問題も浮上する。川瀬記者によると、全体会議の議論に関わった関係者は「一般国民のままだと皇室経済法も改正しないといけない」と指摘しているということで、さらに検討課題が増える可能性を示唆している。
「女性・女系天皇」の現在地 合意形成“極めて困難なテーマ”今回の議論は、あくまで「皇族数の確保」に焦点が当てられた。悠仁さま以降の皇位をどう安定的に継承していくかという、より根源的な「皇位継承のあり方」をめぐる議論は、今後の課題として「引き続き検討する」とされたに過ぎない。
その背景には、4年前に政府の有識者会議がまとめた報告書の考え方が色濃く反映されている。「次世代の皇位継承者がいらっしゃる中での大きな仕組みの変更は十分慎重でなければならない」という一文。これは、皇位継承の議論と皇族数確保の議論を「分けて考える」という現在の流れを決定づけた。
「女性・女系天皇」の容認をめぐる議論は、各党の意見の隔たりが大きく、合意形成が極めて困難なテーマだ。初代とされる神武天皇から男系で続いてきた歴史こそが皇室の根幹であるという考え方も根強い。そのため、より意見がまとまりやすい「皇族数を増やす」というトピックが優先された側面は否めないと、川瀬記者は指摘する。
一方で、国民の意識は変化している。JNNが4月に行った世論調査では、「女性が天皇になること」について「賛成」が61%にのぼり、「反対」の8%を大きく上回った。この数字の背景には、多くの国民が「愛子さまが天皇になること」を念頭に置いている可能性がうかがえる。ただ、岩永記者は議論の前提として「悠仁さまが皇位を継承される」ことがあると話す。
制度設計に求められる“生身の人間”への配慮6月11日、天皇陛下は会見で皇族数確保の議論に触れ、「国民の皆さんの理解が得られるものとなることを望みます」と述べられた。このお言葉が示すように、国民の総意が不可欠であることは言うまでもない。
しかし、皇位継承をめぐる議論は、制度論や抽象論に陥りがちだ。岩永記者は、議論の行方を見つめる上で重要な視点を指摘する。
「制度の対象となるのは、生身の人間。そこで決められた制度によって、誰がどのような立場を担い、どのような影響を受けるのか。その行方を丁寧に見つめていく必要性がある」
皇族という立場は大きな責任を伴う一方で、自由が制約される側面もある。今回の「立法府の総意」を元に、今後、国会で法案審議が進められる。そのプロセスにおいて、積み残された数々の課題にどこまで踏み込み、生身の人間の人生に寄り添った制度設計ができるのか。その行方を注意深く見守る必要がある。

