2026年のル・マン24時間レースを制した7号車トヨタTR010ハイブリッド 6月13〜14日にかけてフランスのサルト・サーキットで行われたWEC第3戦/第94回ル・マン24時間レースは、大接戦の末、14番グリッドスタートだった7号車トヨタTR010ハイブリッド(トヨタ・レーシング)が制した。トヨタとしては4年ぶり、6度目のルマン総合優勝となった。
レース後のパドックより、各種トピックスをお届けする。
■3人目のオランダ人ウイナーが誕生
トヨタはル・マン24時間レースで6度目の総合優勝を果たし、メーカー別歴代優勝回数ランキングでベントレーと並び5位に浮上した。さらに、トヨタTR010ハイブリッドは、このレースで総合優勝を飾った15台目のハイブリッドプロトタイプとなった。
ハイパーカープログラムのチーム代表も務める小林可夢偉とマイク・コンウェイは、2021年の優勝に続き、2度目のル・マン制覇を成し遂げた。一方、ニック・デ・フリースは、ギース・ファン・レネップ、ヤン・ラマースに次いで、このフランスの耐久レースで総合優勝を果たした3人目のオランダ人ドライバーとなった。
ラマースは1988年の優勝以来、オランダ人ドライバーとしてこれまで最後にル・マンを制覇したドライバーであった。
「今週、そしてレース中も、長い道のりだった」とデ・フリースは語った。
「さまざまな挫折や困難を乗り越えなければならず、正直に言うと、優勝争いから脱落したと思った時もあった。しかし、決して諦めてはいけないということを改めて実感した。すべてがうまくかみ合い、この素晴らしいマイルストーンを達成するためにチームが尽力してくれたことに心から感謝している」
■トヨタは勝率5割。コンウェイは10シーズン連続優勝
トヨタは世界耐久選手権で51勝目を挙げ、勝率を50%にまで回復させた。7号車はグリッド14番手からのスタートで、WEC戦での総合優勝者としては最低スタート位置からの優勝となり、昨年このレースでAFコルセ83号車フェラーリ499Pが記録した13番手という記録を更新している。
なお、グリッド14番手からのル・マン総合優勝は今回で2度目。前回は1969年、ジャッキー・イクスとジャッキー・オリバーがJ.W.オートモーティブ・エンジニアリング・フォードGT40 Mk.で優勝した時だった。これはアメリカのメーカーがル・マン24時間レースで総合優勝した最後の例であり、今回キャデラックが目指していた偉業だった。
今年末にトヨタを離れると予想されているコンウェイは、これでWECで10シーズン連続優勝を達成したことになる。チームメイトのセバスチャン・ブエミと並び、これを達成した2人目のドライバーだ。一方、小林可夢偉はWEC通算19勝目を挙げ、ペドロ・ラミーと並んでシリーズ3位タイの勝利数となった。
優勝した7号車トヨタはドライブシャフトのトルクセンサーの不具合によりレース中にセーフモードに切り替えざるを得なかったこともあり、371周のレースのうちわずか44周しかトップを走れなかった。 キャデラック・ハーツ・チーム・JOTAの12号車キャデラックVシリーズ.Rが最多の128周をリードし、20号車BMW Mハイブリッド V8が79周、8号車トヨタが74周でそれに続いた。
■8号車のトラブルと、セーフティカーという救い
トヨタ・レーシングのテクニカルディレクター、デビッド・フローリーは、トヨタが勝利に至るまでに「多少の幸運」があったことを認めた。
とくに8号車の左フロントブレーキ冷却ドラムの緩みを修理した後に発生した2度目のセーフティカー導入が、その大きな要因となった。このマシンは、その修理のために1分間のタイムロスを喫していたが、セーフティカー導入によってその遅れを取り戻し、より徹底的な修理を行うことができた。
フローリーはこう説明している。
「ドラムのネジが2本緩んで、リムが削れてしまった。ピットストップ後に埃が舞っているのに気づいて、リムが削られているのを発見した。その後、ピットエリアの地面にネジが落ちているのを見つけた。我々は予備のサスペンション部品を使い、そのネジがどこから来たのか特定しようとした。2回修理したが、2回目はセーフティカー走行中だったので、運が良かった」
トヨタがグリッド後方から追い上げてきたこと、そしてフローリーがレース前にLMDh勢はLMH勢よりも有利だと感じていると語っていたことを踏まえ、彼はレース前の準備段階でペースを「隠していた」という憶測を否定した。
「もっと苦戦すると思っていた。予選は不運だった。ハイパーポール2には2台とも進出できたはずだったが、できるだけ早くトップに返り咲くために戦略を調整した。我々のペースを隠していたとは思わない。テストデーのラップタイムを見れば、レースで達成したタイムと矛盾するものではないと思う。我々はレースに向けてできる限りの準備に集中していたのだ」
■依然、タイトル争いに加わるBMW
レース終盤の6時間で2度目のセーフティカー導入により優勝争いから脱落し、2位に甘んじることになったものの、BMW Mモータースポーツのディレクター、アンドレアス・ルースは週末のレースからポジティブな要素を見出した。
ロビン・フラインスとレネ・ラストはハイパーカードライバーズポイントランキングで2位につけ、優勝したトヨタの3人組とは4ポイント差。トヨタは4位から一気に首位に躍り出た形だ。
「ダブルポイント制なので、ここはいつも良いレースになる」とルース。
「ル・マンで良いレースをすれば、チャンピオンシップ争いでも有利になる。とはいえ、まだ3戦目が終わったばかりで、残り5戦、獲得できるポイントはたくさんある。最終的には、正しい方向に向かって大きな進歩を遂げていることを実感できて、とても嬉しい。今後もコンスタントに上位争いに加わり、良い結果を残せるよう頑張りたい」
■101号車にさまざまなタイヤを履かせたキャデラック
キャデラックはレースをほぼ支配していたにもかかわらず、表彰台を逃した。JOTAの2台のマシンは合計184周をリードし、これはレース全体の50%に相当する。
チーム共同オーナーであるサム・ヒグネットはラジオ・ル・マンに対し、「このチームの成果には大きな誇りを感じている。結果は伴わなかったがね。夜中にパワーステアリングの不具合で38周も失った。最後のフルコースイエローが決定打だった。4位が精一杯だ。まさにル・マンの洗礼だった」と語っている。
ウェイン・テイラー・レーシングの3台目のキャデラックVシリーズ.Rは、フルコースイエローまたはスローゾーンでの速度違反で4回ものドライブスルーペナルティを受け、最終的に9位に終わった。そのうち3回は、フィリペ・アルバカーキがステアリングを握っていた午前中の2時間足らずの間に発生したものだった。
101号車はその後、12号車キャデラックの『テストカー』となり、アメリカのチームはさまざまなタイヤを評価した。その中には、昼間に暑さが増す中での、ミシュランのハードコンパウンドへの交換も含まれていた。
「序盤、タイミングの悪いフルコースイエローと午前中のペナルティで出遅れ、セーフティカー導入時には周回遅れになってしまった」とジョーダン・テイラーは語っている。
■“最後のルマン”はチャンスなし
アルピーヌのスポーツディレクター、ニコラ・ラピエールは、今年末でのWEC撤退を前に、ワークスチームとして予定されていた最後のル・マン参戦で、A424の最上位マシンが6位に終わったことについて、「複雑な心境」だと語った。
「オペレーションと戦略の面では、ミスはなかった」とラピエール。
「しかし、レース自体は非常にクリーンな展開だったので、結局はペースが勝敗を分けた。最終的にはキャデラック、BMW、トヨタの方が速かった。戦略面でできることはほとんどなく、大きなチャンスもなかった」
ラピエールは、6位に入った35号車(シャルル・ミレッシ、アントニオ・フェリックス・ダ・コスタ、フェルディナンド・ハプスブルク)が経験したブレーキとタイヤの空気圧の問題については、それほど深刻ではないと強調した。
「夜間、ブレーキディスクが1枚冷えてしまい、苦戦したが、大した問題ではなかった。タイヤの空気圧を完璧に調整するのは難しかった。今週は路面温度がこれほど高かったことがなかったし、ハードタイヤの経験もあまりなかったからね」
■力を出し尽くしたアストンマーティンとプジョー
ハリー・ティンクネルは、アストンマーティン・ヴァルキリーがハイパーカーのトップ争いに加わるには「ペースが足りなかった」と認めた。彼と共同ドライバーのトム・ギャンブル、ロス・ガンは、ハート・オブ・レーシング・チームが運営する007号車でクリーンなレースを戦ったものの、8位に終わった。
「テスト初日から、トップ争いに加わるだけのストレートスピードがないことは明らかだったと思う」とティンクネル。
「テスト初日から全開走行していたし、その時は調子が良かったから、他のメーカーはそれほど本領を発揮していなかったんだろう。ペナルティもトラブルもなかったので、8位は僕らのベストだった。その点では満足しているよ」
プジョー・スポールのチーム代表、エマニュエル・エスノーは、2台の9X8で11位と12位に終わったことについて、「持てる限りの力を尽くした」と述べた。
83号車フェラーリと101号車ウェイン・テイラー・レーシングのキャデラックはマニュファクチャラーズポイントの対象外であるため、プジョーはWEC選手権で9位と10位のポイントを獲得している。
エスノーは記者団に対し、「大喜びというわけではないが、少なくとも良い仕事ができたという実感はある」と語った。
「ル・マンに来たからには、上位争いをして良い結果を出したいと思っているが、できる限りのことをして満足しようとしている。チームはいつものように、実行面で素晴らしい仕事をしてくれた。ペナルティはストフェル・バンドーンがスローゾーンでスピード違反をしたことによるドライブスルーひとつだけだ」
「また、94号車は振動があったため、今朝リヤエンドを交換したが、ガレージには入れなかった。マシンは非常に信頼性が高かった」
■新参ジェネシスは1台が完走
ジェネシス・マグマ・レーシングは、ル・マン初参戦となるGMR-001を完走させた。マシュー・ジャミネ、ポール・ループ・シャタン、ダニ・ジュンカデラがドライブした19号車は13位でフィニッシュし、マニュファクチャラーポイント獲得まであと一歩のところまで迫った。
しかし、17号車ジェネシスは、マティス・ジョベールが17時間目に右フロントサスペンションの故障に見舞われ、ピットに戻ることができなかったため、リタイアした4台のハイパーカーのうちの1台となった。
「何が起こったのか、正直よく分からない」とジョベールは語った。
「縁石にサスペンションがぶつかったのだと思う。少し不運だったが、原因を突き止めるには部品をきちんと点検する必要がある」
また、BMWのハイパーカーで完走できたのは1台のみだった。ドリース・ファントールがドライブする15号車はレース序盤にアクシデントに見舞われ、修理のためガレージに戻った。その後、残り7時間を切ったところで電気系統のトラブルが発生。ルースは記者団に対し、まだ原因を完全に特定できていないものの、ステアリングホイールを交換しても問題は解決しなかったと語った。
ルースによれば、6時間目にファントールがジョン・ファラーノのDKRエンジニアリング3号車オレカ07・ギブソンと接触し、右リヤタイヤがパンクしたため、ピットまで何とか戻らざるを得なかったが、そのダメージは当初の予想よりも大きかったという。
「ピットイン直前に接触したのだが、最終的にはどれほど深刻な状況だったのか、パンクしていたのかが分からず、彼は1周も走らなければならなかったのだ」とルースは語った。
■新タイヤでロングスティント化が進む
新型パイロットスポーツ・エンデュランスタイヤのル・マン初走行となったミシュランは、ハイパーカー史上初めて、ハイパーカーチームにタイヤの4スティント連続走行を許可した。この承認は、レース序盤でミシュランのエンジニアが3スティント走行したタイヤの摩耗状態を評価した後、下されたものとみられる。
最大14セットのタイヤが用意されていたにもかかわらず、ほとんどのチームが12セット以下のタイヤでレースを完走したとミシュランは発表している。これは昨年のレースと比較して、全体で約150本のタイヤを節約できたことを意味する。
■破竹のル・マン10連勝
クバ・スミエコウスキーは、オレカ07・ギブソン時代において、LMP2クラスで唯一3度目の優勝を果たした。インターユーロポル・コンペティションは、2018年と2019年にシグナテック・アルピーヌが達成して以来、ル・マン24時間レースでLMP2クラス連覇を達成した2番目のチームとなった。
このポーランド籍のチームにとって3度目のル・マン優勝は、WEC LMP2時代における最多クラス優勝記録でシグナテックと並ぶものであり、2017年にジャッキー・チェンDCレーシングが総合2位と3位を獲得して以来となる、クラスワン・ツー・フィニッシュとなった。
スミエコウスキーは「正直に言うと、ここ数年で最も難しいル・マンレースのひとつだった。レース中にこれほど多くのトラブルに見舞われた記憶はないが、なぜか今年は運が味方してくれて、毎回何とか挽回できた」と語った。
オレカ07・ギブソンは、ル・マンで史上初のクラス10連勝を達成した。初優勝は2017年、前述のJOTAが運営するDCレーシングのオリバー・ジャービス、トマ・ローラン、ホー・ピン・タンの3名によるものだった。
グッドイヤーの『ウイングフット・アワード』は、ファン投票によりエステバン・マッソン(LMP2)、ラウリン・ハインリッヒ(LMP2プロ/アマ)、エドゥアルド・バリチェロ(LMGT3)が受賞した。
■日曜にレースに勝ち、月曜にコルベットを売る
シボレーはコルベットZ06 GT3.Rでル・マン24時間レース初クラス優勝を果たした。
これは、2025年のデイトナ24時間レースでAWAがGTDクラス優勝を果たして以来、24時間レースにおける2度目のクラス優勝となる。また、2001年の初優勝以来、コルベットにとってル・マンでの10回目のクラス優勝ともなった。
ニッキー・キャツバーグとベン・キーティングは、コルベット・レーシングがGTEアマクラスに参戦した最後の年である2023年に、このメーカーとして最後のル・マン・クラス優勝を果たしたドライバーでもある。
肘の骨折から復帰後初のレースとなったキーティングは、WECクラス優勝9回を達成し、グスタボ・メネゼスを抜いて最も成功したアメリカ人ドライバーとなった。
「コルベットで再び優勝できたのは本当に特別なことだが、自分の名前が車体に刻まれているのはさらに嬉しい」とキーティング。
「2023年にコルベットで優勝した時は、まだキーティング・シボレーという名前はなかったんだ。今はキーティング・シボレーがあるので、(自分の)ディーラーの名前を車体に載せることができます。日曜日に優勝して、月曜日にはコルベットが売れるといいね!」
このTFスポーツの33号車シボレーは、LMGT3クラスで17番グリッドからスタートして優勝するという、WECにおける新記録も樹立している。
LMGT3クラスで2番手につけていたチームWRTの69号車BMW M4 GT3エボは、ギヤボックスのトラブルでリタイアした。BMWのルースによると、このようなトラブルは初めてとのことだ。
「このクルマはすでに24時間レースで何度も優勝しており、通常は非常に信頼性が高い」とルース。
「何が起こったのか、きちんと解明する必要がある」
■正式結果は月曜に発表も、パーツの最終検査へ
レースの正式結果は、レース後の車検に参加した全車両が規定に適合していることが確認された後、16日月曜日の夜に発表されている。
しかしながら、例年同様に、7号車と8号車のトヨタ、20号車BMW、12号車キャデラック、33号車コルベット、78号車レクサス、23号車のアストンマーティンから回収された部品の最終検査結果待ちとなっている。
ACOフランス西部自動車クラブは、週末の観客数が過去最高の350万105人に達したと発表した。これは昨年のレースの観客数33万2000人を上回る数字である。
FIA会長のモハメド・ベン・スレイエムが珍しくWECに姿を見せ、レース前のグリッドでマクラーレン・レーシングCEOのザック・ブラウンと談笑する姿が目撃された。両氏ともF1バルセロナ・カタルーニャGPではなく、ル・マン24時間レースを選んだ。ベン・スレイエム会長は、決勝前に行われた水素車両のデモランのパドックでも目撃されている。
WECの次戦は7月10日から12日に開催されるサンパウロ6時間レースだ。一方、ヨーロピアン・ル・マン・シリーズの参戦車両は、その1週間前にイモラでレースに復帰することになる。
[オートスポーツweb 2026年06月16日]