過去最高「売上高370億円」の大戸屋 創業家の新社長が挑む「次の一手」

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2026年07月11日 10:10  ITmedia ビジネスオンライン

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蔵人賢樹前社長(左)と三森智仁新社長(アイティメディア今野大一撮影)

 売上高370億円──。2026年3月期決算において過去最高業績を記録し、かつての赤字からV字回復した定食チェーンの大戸屋ホールディングス(以下、大戸屋HD)が、創業家の新社長の下で再出発する。


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 同社は6月22日、前取締役(非業務執行)である三森智仁氏が社長に就任すると発表した。


 大戸屋HDに対する敵対的TOB(株式公開買い付け)は2020年9月、外食大手のコロワイドによって実施・成立。これにより大戸屋はコロワイドの傘下に入り、外食業界初の敵対的買収劇として話題となった。


 その後、大戸屋は蔵人賢樹前社長の下で再建。健康的な手作り感のあるメニューを提供することで来店客数を増やしてきた。社長交代後も、外食産業の厳しい競争環境の中で、さらに業績を伸ばしていけるか。


 「『からだにうまい。』をスローガンに『第3の創業』を目指したい」と意気込む三森新社長の力量が問われる。大戸屋の今後の経営方針について、新旧社長に横浜本社でインタビューした。


●最高売上370億円 再建のプロが下した「トップ交代」の理由


 蔵人前社長は、このタイミングで社長交代に踏み切った理由を、こう打ち明ける。


 「6年前は大赤字の会社でした。(業績が回復した)いまこそ、いろんなことができるタイミングだと思いました。2年ほど前から『次の社長は誰かな』と考えた中で、6年間一緒に仕事をしてきた三森さんが、会社に対する思いを誰よりも強くお持ちだと感じました。安心して任せられるなと思っています」


 新たに打ち出したのは「第3の創業」だ。大戸屋の創業者、故・三森久実氏が築いた「第1の創業」。コロワイド傘下で失った顧客の信頼回復と再建に努めた「第2の創業」。そして、創業者の長男である三森新社長を迎えての今回を「第3の創業」と位置付けている。


 蔵人前社長は「(この6年間で)ある程度の経営基盤はできました。一段落ということで(コロワイドとしての)私の仕事はここで終わって、私がやらなかったことを三森さんにやってほしい」と新社長の手腕に期待する。


 三森新社長に今後何を目指すかを聞くと「答えは現場にあると思います。大戸屋の良いところは残しながら、コロワイドグループのノウハウとリソース(経営資源)を融合させていきたい。奇をてらって何かをするというのではなく、6年間で蔵人前社長が作ってくれたものをベースに考えていきたい」と控えめに話した。


 業績面は順調だ。2026年3月期の決算では、売上高370億円と前年同期比17.9%増で、過去最高を記録。来店客数、客当たりの単価も着実に増えたという。


 4月には食材価格の高騰や人件費の上昇に対応して、価格を約4%値上げした。しかし、足元の来店客数は伸びているようで、客のリピート率も上昇。いまのところ値上げによる客離れは起きていないという。


 業績が順調に伸びてきた理由について、蔵人氏は「サービスの改善を地道に続けてきた結果。健康という軸を貫いてきたことが、時代背景にもマッチしたのではないか」と振り返る。実際にコロワイドグループに入ってからは、食材の仕入れの効率化、店舗運営の標準化、メニュー改定によって収益性は向上し、コロナ禍後から業績は大きく改善した。


●コロワイドのインフラ活用 「店内調理」と合理化の境界線


 コロワイド傘下に入った時に注目されたのが、大戸屋の売りだった「店内調理」という、手間がかかる調理方法が維持できるかどうかだった。


 店内調理を維持したい大戸屋側の強い意向に対して、合理化を追求して経費を抑えたいコロワイド側の対応が注目された。蔵人前社長は、店内調理の基本方針を残した経緯を説明する。


 「コロワイドのセントラルキッチン(CK)を使って、経営を改革していくと周囲からは思われていました。ですが、大戸屋らしい店内調理を強みとすることも必要だと判断しました。良い食材を使って調理することは捨てずに、手間がかかる店内調理を残すことにしました。一方、あまりインパクトのない食材の調理はCKを使っていくような、店内調理とCKとのバランスを取っていくのが一番大変なところでした」


 三森新社長も「私も(運営を)見てきましたが、ほぼ変わっていません」と基本路線が維持されたことを確認している。


●ビジネスパーソン頼みからの脱却 ファミリー層獲得の立地戦略


 大戸屋の客層を見ると、男性のビジネスパーソンが多いイメージがある。確かにランチ時になると、都心部の店舗はビジネスパーソンであふれている。しかし、売り上げをさらに伸ばしていくためには、ファミリー層や女性客の獲得が必要になるはずだ。


 担当者は「商業施設に入っている店舗では、ファミリー層や女性も多く来店しています。店舗ロケーションの工夫という面で、この6年間で幅ができてきたのではないでしょうか」と説明する。その点は三森新社長も認めているものの、筆者から見ると、全体的にはまだファミリーの比率は低いように思われる。


 筆者も時々利用しているが、大戸屋は他のファミリーレストランと比べても、店内スペースが狭いイメージがあり、開放感に乏しい。子ども連れの客は、それほど多くない印象だ。新しい客層を獲得するためには、店舗の立地によるものの、メニュー面もファミリーや女性層の嗜好(しこう)に合ったものを開発する必要があるように思う。


 大戸屋の店舗数を見ると、国内は直営店が156、フランチャイズ(FC)店が164、海外は直営店が9、同FC店が132で合計461店ある。直営とFC、どちらを増やすかについて、蔵人前社長は「基本的にはFCを伸ばしたい。ですが粗利益を考えると、直営の方がいい部分もあります。時代に合う形で店舗を展開していきたい」と話す。


 また全国的には関東、東北に店舗が多い。一方、関西を含めた西日本地域には少ないため、今後は西日本の店舗を増やしていきたいとしている。海外についてはタイへの出店が最も多く、インドネシアやフィリピンへの出店も増やす意向だ。


 3年前、米ニューヨーク店を訪れた筆者の目を引いたのは、日本の定食屋とは一線を画す高級和食レストランとしての佇まいだった。この海外市場のブランディングについて蔵人氏は「いまの大戸屋ニューヨーク店の価格は高いか安いかというと、ミドルに位置しています。カジュアルにジャパニーズフードが食べられるような新しい業態を開発してもよいのではないかという意見が、社内にはあります」と指摘。新しい業態の展開も考えているようだ。


●鍋物集中による厨房の停滞 調理スピードと差別化の課題


 店内調理でひと手間かけたメニューを売りにしてきた大戸屋は、課題も抱えていた。冬場に鍋物などの注文が集中すると、調理場のコンロが足りなくなり、注文してから料理が届くまでの時間がかかりすぎるのだ。


 これに関して担当者は「メニュー作りのことなので、営業部と商品部で話し合って、注文を分散させるなどして提供時間を早めようと、今動いている」と説明する。


 コンビニが健康志向の弁当を売り出して人気を集めるなど、外食業界の市場環境は競争が激化する一方だ。この環境下で成長するためには、メニューを含めたサービスの差別化が求められる。4月に発表した「からだにうまい。」という抽象的なスローガンだけでは、顧客にはアピールできない。健康志向、無農薬野菜など食材にこだわる路線は継続する必要はあると思うが、サービス面で他社との違いがないと新規顧客の獲得は難しいだろう。今年度の目標売上高は、前年より10億円増の380億円と堅めに設定している。


 外食産業では、配膳ロボットを導入する企業が増えている。三森新社長は「店のロケーションによって変わると思いますが、基本的には時代の流れの中で、いつか使ってみることはあるかもしれません。ただ現時点では、大戸屋に期待されているものがあるので、導入する考えはない」と述べた。


 テクノロジーに関しては「大戸屋ではできないコロワイドグループのシステムを使うことで業績を伸ばせた」と指摘。食材の調達についても、大戸屋とコロワイドグループの他の店舗とクオリティーが合えば、共同で実施する意向を示した。


 大戸屋は現在、ネパール人の社員を大幅に増やしており、店内サービスでも多くのネパール人を採用しているという。注文する際にタッチパネルを導入しているものの、料理を運ぶのはあくまでもスタッフだ。最低賃金が上昇する中で、人件費を抑えながらサービスの質を落とさないことは、店舗運営上の課題になっている。


●不適切動画にパワハラ 過去の不祥事を乗り越えて 


 かつて大阪府内の店舗の従業員が、不適切動画をSNSに掲載したことで、大戸屋はブランドのイメージダウンを余儀なくされた。さらにテレビ番組で放送された経営陣の言動が「パワーハラスメントではないか」と炎上したこともある。社内風土の改善対策について、蔵人氏は「日常の中でフランクな会話をしながら調整を続けてきました」と話す。


 「フラットな関係性というのは一朝一夕にはできません。時間をかけながら、なるべく対話を意識してきました。当時の経営陣は全員退任しました。(コロワイド傘下になってからは)社員からの反発もなく、パワーハラスメントなどということもありませんでした」と指摘。悪いイメージは払しょくされたとみている。


 コロワイドがTOBを仕掛けて以降は、会社のイメージを壊すような勢力はいなくなったという。いまは社員が一丸となって前を向いているようだ。


 三森新社長は「蔵人社長の下で6年間やらせてもらい、本当に別会社のようなブランドに生まれ変わりました。(不祥事が起きた)当時は、店内調理、店内仕込みというやり方が時代の変化に追い付いておらず、われわれのエゴをお客さまに押し付けてしまった。その結果、信頼を裏切ってしまったのが一番の反省点でした。今後はこの盤石な経営基盤を継承していくのが、一番大事なことだと思っています」と話す。独自色を出す前に、6年間の経営路線を継承することを重視する考えを明らかにした。


●求められる「成長戦略」 従業員が腹落ちする「攻めの方針」を打ち出せ


 今回の社長交代は、再建が終了して、創業家の長男の三森新社長に経営が託された形だ。スローガンは発表したものの、具体的な施策は発表していない。


 これまではコロワイドという親会社出身の社長であったため、従業員は赤字から脱却するために頑張ってきたかもしれない。三森新社長は今後、従来路線の継承だけではなく、新しい政策を打ち出す必要があるだろう。さもなければ、従業員は新体制のもとで前を向くことができない。三森新社長には、蔵人前社長が手掛けてきた再建方法とは違う形での、従業員が一致団結できる「成長戦略」が求められている。


 オーナー企業の社長交代は、いくつも見てきた。息子に経営を譲ると「創業家出身の社長だから」という理由だけで、従業員は従う傾向がみられる。だが、就任後に明確な方針を打ち出さないと、社員からの期待感との落差が発生し、社内のベクトルがマイナスに働くこともあった。


 三森新社長は、従業員が腹落ちするような「攻めの方針」を、早い時点で打ち出すべきだ。


 まず国内対策では、大戸屋の基本路線を守りながら、ファミリー層など新たな顧客層をいかにして開拓するかが課題となる。例えば、ファミリー向けに新しいフォーマットの店舗を作るとか、テークアウト・中食を試してみるとか、新しい打ち出し方も必要だ。


 インバウンドも多数来日している。訪日外国人層に、和の定食の良さを訴求できるかがカギだ。インバウンド向けの定食ブランドを提案してみるのももいい。おいしく感じてもらえれば、帰国してからも大戸屋のリピーターになってくれる可能性がある。その意味で、海外市場での売り上げには無限の伸びしろがあるだろう。


 V字回復を成し遂げ、過去最高業績を記録した大戸屋。日本での外食ナンバーワンだけでなく、世界の和食ナンバーワンを目指してもらいたいものだ。


(中西享、アイティメディア今野大一)



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