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和歌山県田辺市の資産家で「紀州のドン・ファン」と呼ばれた野崎幸助さん(当時77歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして、殺人と覚醒剤取締法違反の罪に問われた元妻、須藤早貴被告(28)の裁判員裁判の判決で、和歌山地裁は12日、無罪(求刑・無期懲役)を言い渡した。福島恵子裁判長は「野崎さんが覚醒剤を誤って過剰摂取した可能性がある」と述べた。
須藤早貴被告の無罪を導いた判決は、野崎幸助さんが覚醒剤を過剰摂取した可能性を重視した。事件性自体に疑問を投げかけ、被告が殺害したとするには決め手に欠けると慎重な判断を見せた。専門家は「疑わしきは被告人の利益に」とする刑事裁判の原則に従ったと評価した。
判決は野崎さんが覚醒剤を常用していた可能性を否定したが、その人脈や経済力から「覚醒剤の入手は可能だった」と推量した。
そのうえで着目したのは野崎さんと交友関係にあった女性の証言だ。野崎さんが死亡する約20日前までに「覚醒剤やってるで」と電話で告げられたことがあると述べていた。
この発言について、判決は「何の背景事情もなく発言するとは考えられない。一概に冗談と決めつけられない」と指摘。何かのきっかけで野崎さんが覚醒剤に関心を抱いていた可能性があり、自殺も否定できるのであれば、致死量を一度に摂取した「事故」との見方は否定できないと判断した。
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検察側は状況証拠を積み重ねることで「被告以外に犯人はあり得ない」とする消去法での立証を進めてきた。判決後、裁判員を務めた20代の男性会社員は記者会見に応じ、「直接的な証拠がないこともあり、答えを出すのに苦労した」と語った。
近畿大の辻本典央教授(刑事訴訟法)は無罪の結論について「覚醒剤を摂取した方法が具体的に立証されなかったことが大きな要因と言える」と指摘。「有罪に向けた立証不足だとしたのは事件・事故の間で、裁判員らの疑問が解明されなかったことの表れでもある。証拠を入念に検討した結果と言えるが、裁判員らにとっては難しい判断だっただろう」と語る。【安西李姫、土田暁彦】
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