
「父が亡くなってからなんとなく後を引き継いで続けていた夏のラジオ体操のハンコおじさん。地域内の子供が減って、とうとう今年は参加者が0になった。これで僕の役目もおしまい。楽になったけどなんか寂しい。」
青森で小学校教諭を務める前多昌顕さん(@johnnymaeta)が、夏のラジオ体操についてXに投稿し、大きな反響が。前多さんとNPO法人全国ラジオ体操連盟に取材しました。
前多さんによると、約40年前、ご自身が小学生の頃から、夏の朝といえばお父様が地域のラジオ体操でハンコを押す係をされていたそう。そのお父様が亡くなった後、前多さんがなんとなくその役目を引き継ぎ、自前のラジオを持参し、気づけば17年間「ハンコ押しのおじさん」をされていたとのことです。
父が入院直前まで継続、途絶えさせたくない一心で…
前多昌顕さんに、これまでのラジオ体操への様子や思いなどを伺いました。
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――この40年以上で参加人数にどんな変化が?
私が小学生の頃は50人くらいはいたような気がします。その後、私もラジオ体操から離れていたので詳しいことはわかりませんが、私が大人になり自分の子どもをラジオ体操に連れて行くようになった頃でも20人以上はいたような。
私が後を引き継いでから徐々に人数が減り、最後の3年間は1家族(子ども1、親1、祖母1)でした。
その子がこの春に小学校を卒業したので、「今年は誰も来ないだろうな」と、どこかで覚悟しつつ、念のため初日だけ会場へ行ってみたところ、結果は予想通り。参加者はゼロでした。
――長年決まった場所で?
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公園の駐車場です。参加者はみなさん徒歩5分圏内くらいにお住まいでした。人数が多かった時代は自転車で来ている子も多かったです。
――地域や子どもたちへの案内は?
特にお知らせはなく、昔から夏になったらやるものとして定着していました。人数が減り始めた頃は学校に周知文の配付をお願いしたこともありましたが、手続きが煩雑なのでやめました。
――夏休みの間ずっと開催を?
父がやっていた頃は毎日開催していましたが、私に変わってからは予定表を作成して、私が不在の日はお休みにしていました。また、徐々に期間を短縮して、最近ではお盆までにしていました。
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――ハンコカードはどのように?
以前は学校で配布していましたが、最近は配られなくなっていたので、私が郵便局にお願いしてカードを用意しておりました。
――皆勤賞や粗品など、参加者に何か特典は?
とりあえず、中日と最終日におやつを用意していました。以前は町内会から費用をいただいていたのですが、それも出なくなりました。人数も少ないので、私が自腹で用意していました。
――前多さんが色々ご負担されていたのですね。毎朝どのような気持ちで会場に?
正直ちょっと面倒くさいなと思いながらも、父が入院する直前まで続けていたラジオ体操を失いたくないという気持ちから、ずっと続けていました。
――子どもたちがラジオ体操に参加されなくなった理由として考えられることはありますか?
少子化が一番かなと思います。地域の子どもの数が減りました。地域の子ども会組織もなくなっています。
――ラジオ体操のない夏休みももうすぐ終わります。
父の代から続いた地域のラジオ体操と、僕の17年間の役目は、静かに終わりを告げました。なんだか肩の荷が下りて楽になったような、でも、ぽっかりと穴が空いたような、少し寂しい気持ちになりました。
空いた朝の時間は今までよりも、動画作成や原稿執筆に割ける時間が増えております。
――本当にお疲れさまでした。投稿にも大きな反響がありました。
こんなにバズるとは思っていませんでした。たくさんの方に共感をいただき嬉しい反面、一部の否定的なコメントの存在に妙に納得しています。
子ども達のデジタル・シティズンシップ教育の教材として「どんな投稿に対しても、一定の割合で否定的なコメントをしてくる人は絶対にいる。だからそれを相手にしてはいけない」という授業をしようかなと思っています。
今回の前多さんの話を受け、「NPO法人全国ラジオ体操連盟」(東京都千代田区)にもお話を聞きました。
「夏休みラジオ体操会」は減少 普及のための取り組みを実施中
――夏休み中のラジオ体操について「減っている」「なくなった」といった声は?
子どもたちが参加する「夏休みラジオ体操会」は、主に地域の自治会や子ども会が主催しています。統計的なデータはないのですが、これらは以前より減少しています。
――どういった理由で減少していると?
・世話人の自治会の会長や役員の方が高齢化する中、ラジオ体操会開催の負担が大きいこと
・特に都市部では、アパート住まいの独身の方や共働き世帯が多いため、自治会やこども会への入会者が減っていること (体操会を世話できる人が少なくなります)
・猛暑で朝6時台でも暑いこと
・事故が起きたときの責任問題
・早朝からのラジオ体操会に対する苦情
などの理由からです。
以前は、夏休みのラジオ体操会には「朝に参会して、子どもたちの生活にけじめをつける」ことも狙いとしていましたが、今の子どもたちは、塾や習い事でそれなりに充実した夏休みを過ごしていることも影響していると思われます。
――開催減少に対するお考えや取り組みは?
子どもたちの「夏休みラジオ体操会」への参加には、以下のようなメリットがあります。
・子どもたちが地域の人達と会話したり、交流することで、社会勉強や人間形成にも役立つ
・朝早くから参加することで、夏休みの子どもたちの生活にけじめがつけられる
・全身運動であり、全身の健康に繋がる
前述の複合的な要因により減少していますが、「夏休みラジオ体操会」が行われないと、子どもたちがこれらのメリットが受けられなくなります。
夏休み期間中には、かんぽ生命・NHK・当連盟主催で「夏期巡回ラジオ体操・みんなの体操会」を毎年開催していますし、「ラジオ体操出席カード」の配布(かんぽ生命が実施)も行っています。
――生活面でも健康面でも良い効果をもたらすのですね。
以前に比べ、学校の授業でも子どもたちがラジオ体操を行う機会が減っています。当連盟では、小学生や小学校の先生、将来教師等を目指す現役大学生を対象にしたラジオ体操講習会を実施し、子どもたちへのラジオ体操の普及活動にも取り組んでいます。
また、幼少期からラジオ体操に親しんでもらうため、未就学児を対象にしたラジオ体操教室なども実施しています。
ラジオ体操は運動習慣づくりに効果的で、“「いつでも、どこでも、誰でも」できる ”を基本理念としています。道具も要らず、約3分のシンプルな全身運動で、ケガのリスクも小さく、日常の生活サイクルに組み込みやすいので、ぜひご家族みなさんで行ってみてください。
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今回の前多さんの投稿に、
「夏休みの朝の日差しの眩しさと会場に向かう寝ぼけた近所の子供達。眠かったけどいい思い出です」
「長い間お疲れ様でした!今までハンコもらった子たち、思い出の中にきっとハンコおじさんの笑顔があると思います」
「夏の風物詩が無くなっていくのは寂しいですね」
「子供の頃には気づかなかったけれど、私たちは優しい大人たちに守られて幸せな夏休みを過ごしていたんですね。ありがとうございます!」
「お父さんもきっとおつかれさまって言ってくれますよ」
「少子化に加えて、早朝から暑いから外出控えますよね。日が出るとあっという間に30℃ですもん」
「夏休みでも同じ町内の子供たちが集まるのは安否確認や生活にメリハリができる点で良かったし、子供だけでなく近所のお年寄りや保護者も参加することあって楽しかったな」
と、みなさん子ども時代の記憶に思いを馳せたり、前多さんとお父様を労う声がたくさん寄せられています。
お父様から前多さんへのハンコのバトン、そしてお二人が出会ってきた何人ものお子さんたちの早朝の歓声が聞こえてくるようで、想像してなんだかジーンといたしました。長い間、本当にお疲れ様でした。
【前多昌顕さん関連情報】
青森県小学校教諭。青森県プログラミング教育研究会発起人・事務局長として、ICT教育の推進に取り組む。Microsoft認定教育イノベーター、Microsoft認定教育フェロー。Google for Educationトレーナー。教育現場でのデジタルツール活用に積極的に取り組み、近著に『先生のためのCanvaハック60+α 全仕事に役立つ万能ツール活用術』(明治図書)など。
【NPO法人日本ラジオ体操連盟関連情報】
ラジオ体操の普及活動の一環として「春季・秋季講習会」を全国13エリアで開催。各講習会の午前中の「指導者講習会」はどなたでも参加可能。ラジオ体操第1・第2及びみんなの体操の各運動のねらいとポイントを中心に実技指導を実施。詳細は連盟HPで確認を。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・太田 真弓)