五輪の放送が赤字、テレビ局のお荷物に…NHK、受信料で放映権料770億円

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2024年08月31日 18:10  Business Journal

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(c)次世代メディア研究所

 7〜8月にパリオリンピック(五輪)が開催され、現在はパリパラリンピックが開催中だが、民放テレビ各局は多額の放映権料を負担して赤字となるにもかかわらず、わずか数日しか競技の生中継ができず、五輪放送が重い荷物となっている。また、NHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアムが支払う五輪放送権料1100億円(2018〜24年の4大会)のうち、7割を負担するNHKにとっても、1年換算で100億円強の支出となり、今後は受信料を支払う国民からの反発も予想される。


 次世代メディア研究所代表の鈴木祐司氏は、黒字化のカギは1社による放映権独占にあると指摘する。現在の五輪放送の問題点、そしてマネタイズ成功の方法について鈴木氏に解説してもらう。


従来とは異なる方式を検討すべき時期に

 パリ2024パラリンピックが始まった。しかし、残念ながら五輪と異なり、テレビの生中継はほとんどない。不満に思う人は少なくないだろうが、実はパリ五輪でも日本人が出場する競技で生中継がないものもあった。また、サッカー、バスケットボール、テニスなどの日本人が出場しない名勝負でも生中継がないものもあった。インターネット配信はNHKプラスとTVerに分かれ、使い勝手は決して良くない。


 放送したテレビ局にどれだけメリットがあったかのといえば、かなり怪しい。どうやら五輪の放送は、従来とは異なる方式を検討すべき時期にきているのではないだろうか。


民放5局は軒並み赤字

 まず問題は、五輪中継は民放にとってお荷物になり始めている点だ。2018〜24年の五輪4大会の放送権料は1100億円。夏季大会が東京とパリ、冬季が平昌と北京だ。12年のロンドン以降、リオ、東京と夏季3大会は、民放全体の収支は赤字だった。時差も円安も関係なく日本人選手が活躍した東京大会ですら赤字だったので、良い時間の中継が少なく、円安で制作コストが上がった今回は赤字は避けられない。


 五輪の放送は毎回NHKの圧勝だ。冒頭のグラフはビデオリサーチが調べるパリ五輪関連番組の関東地区の視聴率データから作成したもの。横軸はL字帯(GP帯や土日昼間)の平均個人視聴率、縦軸は春クールの各局プライム帯の平均視聴率比での上昇分。そして円の大きさは、期間中に放送された番組のGRP(Gross Rating Point:一定期間に放送されたテレビCMの視聴率の合計)に比例する。


 上昇率(グラフ縦軸)が最も高いのはテレビ東京。バレーボールや柔道など注目種目を中継した7月28日の2時間あまりの個人視聴率は7.7%となった。普段の数字が低い同局にとって、上昇分は5%強と最も大きい。ただし中継できたのはこの1枠のみ。GRPは極端に少ない。


 フジテレビも悲惨だった。中継の対象はNHKと民放各局による「くじ引き」で決まる。運に見放されたフジテレビは、女子バレーの日本×ケニア戦などしかなく、2時間足らずの中継の個人視聴率は5.4%、普段と比べて2.1%高い程度に終わってしまった。同局は2002年のサッカーW杯で日本×ロシアという最高の中継を当時の亀山千広編成制作局長が引き当て、「神の手」ならぬ「亀の手」ともてはやされた幸運もあった。ところが今回は最悪のくじ運に沈んだのである。


ジャパンコンソーシアムは崩壊へ

 TBS、日本テレビ、テレビ朝日はそこそこだった。視聴率の平均は6〜7%、普段より2%強上がっていた。ところが中継できたのはTBSと日本テレビが2日だけで、GRPは大きくない。くじ運がよく4日放送があったテレ朝は放送全体に好影響が及んだが、それでもNHKには遠く及ばなかった。


 つまり民放全体は赤字で、かつ局によってはくじ引きで悲惨な状況となった。今後テレビ広告費は減少を続けるので、赤字額は拡大の一途となる。


 では、NHKは順風満帆だろうか。五輪の放映権料は全体の7割をNHKが負担している。NHKと民放連で構成するジャパンコンソーシアム(JC)での取り決めだ。結果として人気の試合をとり、ほぼ毎日NHKは中継を放送し、視聴率も好調となる。普段は若年層の視聴率が低い同局にとって、五輪期間は接触率が急伸する絶好の機会となる。いわば五輪は毎回、NHKの一人勝ち状態なのである。


 ただしNHKにも課題がある。18〜24年の五輪4大会でNHKが負担する770億円(=1100億円の7割)の放送権料は、1年換算だと100億円強の負担だ。年間予算が7000億円ほどあった時代にはさして過大ではないが、26〜32年の4大会でJC全体の支払額は 975億円であり、そのうちNHKが負担するのは680億円強であり、年間100億円弱。2030年代には受信料収入は5000億円程度まで減少する可能性があるので、1.5%程度だった予算比率は2%に上昇する。


 国際的にスポーツ放映権料は上昇の一途だ。円安がさらに進めば制作費も膨らむ。こうして予算比率が上がり続けると、娯楽番組に莫大な費用を投入し続けることに対し、受信料を支払う国民からの反発が大きくなるだろう。つまり、JCはいずれ崩壊せざるを得ないのである。


1社独占の可能性

 米国の五輪事業はどうなっているのか。NBCの親会社コムキャストが1社で独占しているが、14〜20年までの放映権料として44億ドルを支払っていた。1ドル150円とすると、日本のJCの18〜24年の1100億円の6倍である。それでも東京五輪では総計7000時間あまりの番組を放送や配信で送り届け、広告枠販売が過去最大となり、黒字となったようだ。中継・録画・ハイライト・オンデマンドなどを放送・有料チャンネル・ストリーミング・VODを駆使してマネタイズした結果だろう。


 パリ大会ではAIも導入されている。AIを使って自動でコメントやテロップをつけたりと、低コストで大量のコンテンツを放送・配信した。こうすればマイナーなスポーツにも一定数のファンがいるので視聴者数は拡大する。従来は放送されなかった試合には、有料でも見たいという高いニーズも存在する。つまり大量かつ多様な試合を、必要とする多様な視聴者に、あらゆるインフラを駆使して利便性高く送り届ければ、ビジネス的に成功する可能性は高まる。


 米国の人口が日本の3倍ゆえの成功というわけではないだろう。放映権料が日本の6倍なので、国民一人あたり換算で2倍のマネタイズに成功している計算だ。つまり日本でも、どこか1社が独占して視聴者を増やし、1視聴あたりの単価を上げれば黒字になる可能性がある。


可能性は日テレかフジ

 では、どの局が1社独占放送をする可能性が高いのか。筆者の見立てでは、日本テレビかフジテレビに可能性がある。地上波・BS・CSと多様な放送波を持ち、huluやFODなどのネットインフラを自前で保有しているからである。


 例えば地上波では、開催期間中は五輪一色にすれば勝機が高まる。毎日ハイライトや見どころ紹介を夕方と深い時間に放送し、視聴率のとれる人気競技の生中継をする。翌日午前や午後のワイドショーでも独占放送し、高視聴率を終日・連日にわたり続けられる。2週間ほどで普段より格段に高いGRPを実現できるだろう。


 ただし地上波の広告収入だけで放映権料のすべてを賄うのは難しい。BSでの広告収入やCSでの新規加入者からの収入などで最大化を図らなければならない。さらにHuluやFODなどで日本人以外の試合も含めて全試合をストリーミングとVODで見られるようにすれば、加入者が増え広告料や有料収入を上げられる。しかもCSや有料サイトは、一度加入者が増えればその後の工夫次第で収入増は続く。


 さらに「ヒトIP」という発想もある。すでに音楽の分野では人気アーティストの権利料や出演料などで収入増を果たしている局もある。しかも五輪は大量のタレントを輩出する最高の場だ。放映権を独占した局は、ここでも大きなアドバンテージを得られる。五輪開催期間が終わっても、新たな収入増の道を創れるのである。


 以上のように五輪はハイリスクだがハイリターンだ。うまくマネージできれば、米国NBCのようにビジネスは大きく成長するし、メディア事業の進化も果たせる。問題はテレビ局の経営体制だ。サラリーマン社長にその気概・勇気・実行力があるか否かだ。多様なインフラを視野に入れたトータルデザイン力があれば、ユニークなメディアを誕生させることにつながる。その可能性は決して小さくないが、大きな賭けであることは間違いない。


 やがて破綻するか、縮小均衡する道をたどるJC。この枠組みの中でずるずる落ちるに任せ、画期的な道に踏み出せないテレビ界の末路だけは勘弁してほしい。


(協力=鈴木祐司/次世代メディア研究所代表)



このニュースに関するつぶやき

  • 長いから読んでないけど自国の五輪でもなければ興味ない人も多いからCSとかにお任せすれば?そもそも観たい人が観たいもの観るようにできたんだから。IOCも金儲けしか考えてないみたいだし。
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