「本当にこれでいいの?」 親子の“価値観の違い”で対立も…… 100万箱以上売れた「家庭科のドラゴン」、人気再燃の理由

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2025年02月08日 08:03  ねとらぼ

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「家庭科のドラゴン」のデザインを手がけるサンワード取締役営業部長の上田一郎さん。デザインを前面に押し出したいので取材時はマスクをつけているとのこと

 子どものころに家庭科の授業で見かけた「ドラゴン柄の裁縫箱」が、いま再び注目を集めている。キャラクターを手がける企業は、2024年からブランド露出、各社とのコラボレーションを積極的に展開。かつての愛用者や、ドラゴン柄に憧れを持っていた20〜30代を中心にリバイバルブームが到来している。人気再燃の背景を取材した。


【画像】インパクト抜群「家庭科のドラゴン」を見る


●2001年に誕生した「家庭科のドラゴン」


 「懐かしい」「ウケる」「影響力やば」――。1月、人気アイドルグループ「SnowMan」のラウールさんがバラエティー番組に出演した際に持参した、躍動感あふれるドラゴン柄の書道セットがネット上で注目され、番組放送後に「完売」となったことが話題を呼んだ。


 ドラゴン柄のデザインを手がけるのは、サンワード(大阪市)。キャラクターのデザインを扱う企業として1988年に創業し、著名なものでは、駄菓子「オリオンサワーシガレット」の白い犬のキャラクター「リトルボブドッグ」のデザインでも知られる。


 同社取締役営業部長の上田一郎さんによると、特徴的なドラゴン柄が誕生したのは2001年。当時の裁縫箱は男の子向けなら野球やサッカー、バスケットボールといった、スポーツをモチーフにしたデザインが主流だった中、学習教材メーカーの新学社(京都市)との打ち合わせの中から「ドラゴン柄はどうか」という提案を受けた。


 先述の白い犬のキャラクターのように、サンワードはもともとファンシーなデザインに強みを持っていた。それでも、新学社との打ち合わせを受け開発者である男性担当者が描いた、力強く一風変わったドラゴンのデザイン案を見て、当時の社長が「やってみよう」と展開を決断した。


 ドラゴンは「強くかっこいい」ものを求める小学生の感性に見事に刺さり、裁縫箱は累計100万箱以上売り上げた。このヒットを契機に、他社もドラゴンをデザインした学習関連教材に相次いで参入。一大ドラゴンブームが生まれた。


●親子の「価値観の違い」は「良いアピールの場に」、一方で「お子さんの自主性の芽生え」も


 小学生にとって、スタイリッシュなドラゴン柄はあこがれの的。ひとたび裁縫箱のカタログが配られると、クラス男子の「一番人気」になることもしばしばだった。しかし、保護者の視点で見ると、少し話は変わってくるようだ。


 長く使うものだから、将来的な感性の変化を想定して無難なデザインにしてほしい――。母親の感性には合わない――。保護者の間にはそうした声も根強く存在し、SNS上では冗談交じりに、子どもとの「意見の対立」があったことを伝える投稿も確認できる。


 ねとらぼ編集部の取材に応じた、小学生の息子を持つ母親は、息子が学校で使う「絵具セット」を選ぶ際に「ドラゴン柄」を希望されたという。当時の心境をこう振り返る。


「母としては『小学生男子、本当にドラゴン好きなんだ!?』という驚きが一番に来ました。個人的にドラゴン柄に対してカッコ悪い、ダサいという思いはないのですが、『他にキャラもの(ポケモンやマリオ)もあるのに本当にこれ(ドラゴン)でいいの?』とはつい言ってしまいました」


 こうした「ドラゴン柄」をめぐる親子の価値観の違いについて、デザインを手がける企業はどう捉えているのだろうか。


「保護者の方としても、お子さんが反発すればするほどに母親にとっては記憶に残るものになると思うので、お子さんと親御さんにもある意味、良いアピールにつながっていると思います。お子さんのドラゴンが欲しい、そしてその後も使い続けると意思を示し、責任感と自主性を育む良い機会でもあるのではないかとも考えています。またおそらく今の小学生世代の親御さんは30代後半から40代の『家庭科のドラゴン』を通ってこなかった世代の方が多いためギャップもあるかと思いますが、これからは家庭科のドラゴン世代の方たちが親世代になっていきます。そんな中で、ギャップもなくなり親子で楽しめる、思い出としての価値をも共有し合える――。そんな時代の到来を感じています」(サンワード上田さん)


●危機に立ち上がった創業者の息子


 親子の「激しいせめぎ合い」がありつつも、小学生のヒーローとして愛されてきた家庭科のドラゴン。しかし、2020年代に入ると状況が一変する。


 裁縫用具の軽量化ニーズや、割れやすいなどの課題を受け、長年愛されてきたハードケースの製造が2021年に終了。さらに、サンワード創業者が病気になり、事業継続に暗雲が立ち込めた。


 ドラゴン、そして会社の危機に立ち上がったのは、創業者の息子である上田さんだった。2023年冬にそれまで勤めた企業を退職し、家業に就いた。まず着手したのは、辰年でもある2024年に、かつての「ドラゴン世代」へ向けて、ドラゴンの存在を再びアピールすることだった。


 2024年夏に開催された大規模同人誌即売会「コミックマーケット104」(コミケ)に出展することを公式X(Twitter)で告知すると、「懐かしすぎる」「ワイの裁縫箱!!」と大きな話題を呼び、約4万件の「いいね」が集まった。


 裁縫箱やアパレルなどオリジナル商品を携えて出展したコミケでは、「かつての小学生たち」がブースに続々と来訪した。上田さんが驚いたのは、ブースに訪れた2〜3割程度の客が女性だったことだ。


「小学生のころにドラゴンの裁縫箱が欲しかったけど、親に『女の子だからやめなさい』と言われて買えなかったという方もいらっしゃいました。ずっと我慢してきた思いを、大人になってようやく解放できたという方も多かったと思います」


 同年にはロックバンド「超能力戦士ドリアン」による「家庭科のドラゴン」をモチーフにした楽曲「ドラゴンの裁縫セット(笑)」のミュージックビデオにイラスト素材などを提供した。同曲では、ドラゴンを愛好していた小学生時代を回顧し、「マジで何がよかったんだ」などと、保護者たちが心配したような「感性の変化」に向き合う姿が自虐的に歌われている。


 コメント欄には「公式コラボでウケる」「サビでボロクソ言っているのにコラボ許可くれるドラゴン側懐広すぎる」などの反応があり、その後販売された、バンドのマスコットキャラ「ピーチボーイ」とドラゴンのコラボTシャツは完売したという。


 その後も公式Xでは、家庭科のドラゴンの動く裁縫箱、裁縫箱がドラゴンに変形するガチャガチャアイテム、ドラゴン柄の「おせちの重箱」といったユニークなアイテムを紹介し、いずれも大きな反響を呼んだ。


 現在は家庭科のソフトケースや彫刻刀セットなどの教材をはじめ、アパレルやクリアファイル、アクリルキーホルダーなど多様な商品を展開。2025年はサンワード公式サイトのリニューアルを実施するなどの施策で露出量を増やす。異業種とのコラボレーションも積極的に行っていく方針で、5月にはカードゲーム「Z/X (ゼクス)」とのコラボも決定。こうしたコラボの引き合い、問い合わせは「増加している」といい、企業からも熱い視線が注がれている。


 あるとき、上田さんは取引先から「家庭科のドラゴンは、思春期特有の心の移り変わりや純粋なカッコイイといった感情を呼び覚ますような『概念のような存在』だ」と言われ、はっとさせられたという。


 「ドラゴン業界の最強、裁縫業界の最強、学習教材の最強など様々なコンテンツの中で懐かしさと強い物へのあこがれなども含めて最強と呼ばれる存在を目指し、様々な皆さんとコラボレーション等を通じて思春期の代名詞、家庭科のドラゴンを楽しんでもらいたい」と、さらに広がる未来を見据える上田さん。家庭科のドラゴンが、国民的キャラクターとして君臨する日も、そう遠くはないのかもしれない。


【2025年2月8日修正】記事中で紹介した楽曲名に誤りがあったため、修正しました。おわびして訂正します。



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  • 学校でもらった絵の具セットのカタログにスパイラルドラゴンがあったので、ガン無視してネットで無難なのポチりました。
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