※画像はイメージです―[貧困東大生・布施川天馬]―
みなさんが、自分の子どもを行かせるなら、公立中学校でしょうか、それとも私立中学校でしょうか。
私立派は「良い環境を目指したい」「受験まで視野に入れたい」とする一方で公立派は「中学受験にお金がかけられない」「公立中学校で多様な人間関係を築いてほしい」などの意見が目立ちます。
私自身も中学受験をしていますが、その理由は「地元の公立中学が荒れていたから」でした。つまり「良い環境を目指したい」に含まれる。
一方で、小中を私立で過ごすと、良い意味でも悪い意味でも多様な価値観を持った人との暮らしを知らずに育ってしまう危険性があります。私自身も、勉強が退屈だったりいじめられたりしましたが、公立小学校で過ごした6年を貴重だと考えています。
私立中学は中高一貫校が多く、高校受験をスキップできるのも利点です。公立中に通っても高校受験対策で塾に通えば、結局出費はかさむ。総合的に見れば、私立中高一貫校に入れたほうが、コスパはいいかもしれないのです。今回は、中学受験のコスパを考えます。
◆公立中学と私立中学の違い
文部科学省が2023年度に発表した「子供の学習費調査」によれば、私立中の授業料など学習費総額は3年間で467万円でした。2012年度では388万円だったのが約80万円増加している形。物価上昇に伴って、学習費も値上がりしています。
公立中学校であれば、150〜160万円程度で済むことを鑑みれば、私立中学校は公立中学校の約3倍程度お金がかかる。ですが、公立は高校受験対策の通塾にかかる出費も考えなくてはいけません。
通塾費用を、3年間で100万円程度かかるとすれば、高校受験の負担がかかるにせよ、公立中通いのほうが、総合的な金額は低そうです。
ただし、中学受験ルートならば高校受験をしなくてよい利点があります。高校受験には内申書に記載される点数である「内申点」が大きく影響します。
そして、これはペーパーテストの点数だけではなく、課題の提出状況や授業態度などの平常点も加味されるため、「お勉強ができる」だけでは高得点が狙えません。
◆子供の特性によって“コスパの良さ”は変わってくる
認知能力の発達が早く、コミュニケーション能力などの発達が相対的にやや遅いような子の場合には、中学受験をした方が、総合的に有利な進学先を得られる場合があります。つまり、ペーパーテストで突破できる中学受験で高校までを決めてしまう。
そのためには追加出費で少なくとも300万円がかかりますが、高校受験での苦労を帳消しにできるのであれば、安いと考える人もいるでしょう。
ただし、中学受験の場合には失敗リスクも考えなくてはなりません。多くの地域で少数派となる中学受験者は、実質的に地元の公立中学への進学の道が閉ざされがちです。
多少偏差値が落ちる滑り止めの中学しか受からなくても、「中学受験に失敗した」というレッテルを貼られることを避けるために、世間体を考えて入学を余儀なくされるケースも想定される。その場合には、結局高校受験をする羽目になるかもしれない。
大学受験の志望校は、ある程度進学先の高校に左右されます。クラスの大半が東大を志望し、毎年数十人の東大合格者が出るような学校ならば、「東大に行く」と言いやすい。数年〜十数年に一度しか東大合格者が出ないような学校で「東大に行く」とは、なかなか言い出せません。
東大合格者が続出する学校が、なぜ毎年安定して東大生を輩出できるかと言えば、毎年安定して東大合格者が出ているからなのです。
そのため、大学受験を見据えて高偏差値の高校を選ぶのは、選択的に間違っていません。ただ、それが中学進学時から始めるかは、子ども一人一人の発達具合や意向によるでしょう。
私が見渡した少ない例の限りでは、中学受験で成功しているタイプは例外なく「頭が良すぎて小学校で浮いてしまう」ような子でした。少なくとも、学校の勉強で難儀するようなレベルの子が踏み込む世界ではないのです。
◆中学受験に求められる覚悟
まとめると、コスパを考えるならば、やはり公立進学が一番です。ただ、高校受験するならば「先生の言うことに従える子」もしくは「空気を読める子」である必要がある。
思春期の子どもたちに、社会的な立場を気にした校内政治を期待するのは難しいでしょう。これを嫌うならば、追加出費で中学受験を狙う道もある。
ただし、こちらはそもそも超上澄みの勉強エリートしか生き残れない世界なので、勉強面で自信がないのであれば、おとなしく公立校へ進学するべきといえるでしょう。
それに、せっかく受験するのは高校受験をカットするためですから、それなりの名門校に合格したい。そのためには、当然上澄みたちを押しのけて合格を勝ち取る必要がある。当然要求される勉強量は加速度的に増加します。
朝起きてから夜寝るまで、一切息抜きせず勉強し続ける生活に抵抗があるならば、中学受験はお勧めできません。もちろん、親も朝は早起きし、夜は遅くまで起きて子どもの勉強をサポートし続ける体制が要求されるため、親の覚悟も問われます。
◆親と子の意向を合致させることが大前提
中学受験は単純に「コスパ」で測れません。だからこそ、「右にならえ」ではなく、各家庭での親子の対話が必要となります。親の意向と子どもの意向が一致しないまま中学受験に突入しても、良い結果は得られない。
何かと「タイパ」が重視される世の中ですが、時間をたっぷりとって将来を話し合う場が日常的に要求されるのかもしれません。
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)