教育と療養の連携不足という“見えない壁” 元教員が始めた、親子のための新しい支援の形

2

2025年03月15日 21:21  All About

  • 限定公開( 2 )

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

All About

「教育と療養の連携不足」という社会課題を痛感し、退職した元教員・相澤勇佑さん。学校現場と療育施設の溝に橋を架けるべく起業した相澤さんが、両方の経験を活かして作り出す新たな支援の形とは? 親子の悩みに寄り添う「ふきこぼれ教員」の挑戦。
最近、教育を変革したいという思いで学校を離れた教員を指す、 「ふきこぼれ教員」という言葉が出てきています。筆者が主宰するコーチング塾には、そういった教員を辞めて別の形で教育に携わっていきたい、 独立したいという教員が集まってきます。

今回はその1人、学校内でリーダー的な立場であったにもかかわらず、教育と療育の連携不足という社会課題解決のために2024年に起業した「ふきこぼれ教員」を紹介します。

療育に通う児童を受け持って実感した、学校と療育施設の連携不足

現在、ANCHOR New-Educationで代表を務める元教員で、教育コンサルタントの相澤勇佑さんが転機を迎えたのは、通常学級で担当した児童の中に、療育施設に通う児童がいたことでした。療育施設とは、障害(発達障害含む)のある子どもの発達を支援する施設です。

当時相澤さんは、校長が目指す学校教育の方針を現場の教員と共に形にしていくポジションに就き、通常学級に特別支援教育の視点を取り入れ、多様な違いを尊重しながら共に学び合う「インクルーシブ教育」の実現を目指していました。
教員時代に教育サークルを立ち上げセミナーをする相澤さん

しかし、その過程で強く感じたのが、学校教育と療育施設との連携不足。学校の先生は療育のことをほとんど知らず、施設の職員は一斉教育が基本となる学校教育に対して批判的な見方をしていることが多いという実態を知りました。

「療育施設を利用している子どもは、学校でうまくいっていないことが多く、保護者も悩んでいる状況です。でも施設の職員は、学校での困りごとを具体的な姿でしっかりと把握できていない。学校と施設側の連携がなければ、両方に通う子どもたちの教育は成り立たないのではないか、と疑問を抱くようになったのです」

相澤さんは強い課題感と使命感を抱き、「自分の教員としてのキャリアアップよりも、療育を理解し、教育との連携を強化できる社会を作りたい」と考えるようになりました。

しかし、学校教育しか知らない自分では、療育施設側に適切な働きかけをすることは難しいと感じ、学校を退職することに。まずは現場を知るために、療育施設の職員として働くことを決意しました。その経験を経て、教育と療育が強く結びついた施設を立ち上げるというビジョンを描いたのです。

療育施設に通っていない親子の行き場のない悩み

実際に療育施設で勤務する中で、相澤さんは新たな発見をしました。

「施設の職員に相談する保護者を見て、学校では解決できなかった子どもの問題や悩みに寄り添ってもらうだけでも大きな価値があるんだ、ということを実感したんです。

また、通う子どもたちが幸せそうだったことに心を揺さぶられました。教員時代に感じていた学校と施設の連携不足を問題視する前に、まず子どもが安心して過ごせる環境づくりや保護者が困ったときに寄り添ってくれる存在が重要なんだと感じました」

その一方で、療育施設に通っていない、いわゆる「発達障害グレーゾーン」の子どもを持つ保護者などの悩みが非常に多いことも分かりました。学校に相談しても話が伝わらない、適切な対応が得られないという不満を持つ保護者が多く、行き場のない悩みを抱えていたのです。

そのことを知ったのは、相澤さんが施設で「元教員であり、療育施設も経験している私に、勉強や子育ての悩みを相談しませんか?」という趣旨のイベントを開催したときのこと。その場には、学校に相談しても適切な対応を得られず困っていた中学生の不登校児童を持つ保護者も参加していました。

学校に話をしても理解してもらえず、どこにも相談できない状況だったのです。
療育施設で子どもと遊ぶ相澤さん

相澤さんは、その保護者に対し、学校とのコミュニケーションの取り方をアドバイスしました。「学校の担任ではなく特別支援コーディネーターに、『元教員の療育職員に相談したところ、こうすべきだとアドバイスを受けた』と伝えてください」と。

その結果、学校側がスピーディーに対応し、子どもが通学できるようになりました。学校の先生と保護者が関わる機会は年に数回しかなく、その短い時間の中で信頼関係を築くのは容易ではありません。そのような関係性の中で、「こんなことを言っていいのだろうか」と子育ての悩みを担任に相談することに迷う保護者も多いようです。

一方で、感情的に意見を述べる保護者に対し、学校側は「モンスターペアレント」と捉えてしまうことがあるのも事実です。こうした課題を解決するためには、学校と療育の間に立ち、保護者の不安や悩みをサポートする存在が必要だと気付きました。

相澤さんは、保護者や学校の先生が円滑に連携できる仕組みを構築するとともに、どこに相談していいのか分からない保護者の悩みに寄り添い、支援が必要な子どもたちが適切な環境で成長できるよう、親子をサポートする活動を続けていくとのことです。
ANCHOR New-Education代表の相澤勇佑さん


教員経験を活かしたチャレンジが、よりよい社会につながる

相澤さんが教員を退職し、起業するまで、筆者はコーチングを通じてサポートをしてきました。教育と療育の両方に携わった経験を活かし、「教育コンサルタント」として独自の価値を社会に提供していくことに、大きな可能性を感じています。

一時期はビジネスとして成り立つかどうかの懸念をお持ちでしたが、さまざまな療育施設を見学したり、悩んでいる保護者の個別相談を重ねることで、ビジネスとしての輪郭ができつつあるようです。

ビジネスを知らない教員が、ゼロからイチを生み出すことはとても大変です。しかし、相澤さんのような熱い思いと使命感を持っている人は、必ず周囲が応援したくなると思います。たとえ相澤さんが今後また教員に戻ったとしても、以前とは全く違う視点で学校や子どもたちと関われるのではないでしょうか。

筆者は教育革命家として、学校の中にいても外にいても、チャレンジを忘れずに人生を楽しんでいる大人たち、そしてそんな背中を見られる子どもたちを増やしていきたいと考えています。

相澤勇佑さん プロフィール

株式会社ANCHOR New-Education 代表取締役。大学卒業後、特別支援学校教諭として勤務。病棟教育で医療的ケアが必要な児童の教育にも携わる。その後、小学校で1〜6年生までの全ての学年の担任を経験。2年間は特別支援学級の担任も経験した。教員退職後、札幌市の児童発達支援・放課後等デイサービスで児童発達支援管理責任者として、子どもの個別支援計画の立案、児童指導員への指導、経営戦略に携わる。現在は、教育コンサルタントとして、教育と療育の2つの視点から障害のある子どもへの家庭生活や学校生活における困りごとに対してのアドバイスを行う事業を展開。


坂田 聖一郎プロフィール

教員を13年間経験した後、独立し「株式会社ドラゴン教育革命」を設立。「学校教育にコーチングとやさしさを」コンセプトに、子どもたちがイキイキと学べる教育を実現できる世の中を学校の外から作りたいという想いで活動する教育革命家。
(文:坂田 聖一郎(子育て・教育ガイド))

    前日のランキングへ

    ニュース設定