手塚治虫、横山光輝、大友克洋が築いた“SF”の世界観…現代のヒット漫画に引き継がれる聖火

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2025年03月21日 08:40  ORICON NEWS

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『鉄腕アトム』『鉄人28号』『AKIRA』
 手塚治虫、横山光輝、大友克洋…漫画の潮流を変え、以前以後で語られる作家たち。結果、日本ではコミック(漫画)は独自進化を遂げ、世界でも英語で「MANGA」と日本語のまま、別ジャンルのように扱われ人気を博している。その意志は今も脈々と受け継がれ、先ごろ発表されたマガデミー賞にノミネートされた今話題の作品たちにも、この世界観が確実に引き継がれているといえる。先人たちは漫画表現にどのような功績をもたらし、そこから現代の漫画はどのような新しい潮流を生んでいるのか、改めて考えてみる。

【画像】SFの先にある日常を描く傾向も? 漫画賞ノミネート作品に共通点

■以前・以後で語られる作家たちは漫画の何を変えた?

 日本の漫画において、長編ストーリーを取り入れた立役者が、漫画の神様・手塚治虫である。彼の功績は枚挙にいとまがなく、名作も多々あるが、簡単に列挙すれば、三部作『ロストワールド』『メトロポリス』『来るべき世界』のほか、少女向けストーリー漫画の先駆けとされる『リボンの騎士』、「生命」をテーマに人類の発生から滅亡という壮大なスケールが描かれた『火の鳥』、ロボットと人間の関係性を描いた『鉄腕アトム』などを生み出した。風刺や単発のエピソードの連続だった漫画に“文学性”を持たせ、漫画における“物語の可能性”を広げたのは明らかに手塚治虫であり、漫画がアルファベットで「MANGA」足りうるのは確実に彼の功績が大きい。

 一方で横山光輝は『鉄人28号』を生み出し、手塚の『鉄腕アトム』と人気を2分するほどのヒット作に押し上げた。実際に乗り込んで操縦する巨大ロボットを発明したのは永井豪だが、そもそもこの『鉄人28号』がなければ、ロボットものがここまで一つの大きなジャンルとして成立し得たか、難しい。また『魔法使いサリー』は、本邦初の少女向けアニメという位置づけにあり、『伊賀の影丸』では現代につながるバトル漫画の礎を作った。さらに『三国志』では大長編大河ドラマの手法を確立。作風やテーマは多岐にわたり、漫画のストーリー、表現、設定の幅を大いに広げた。

 そして“脱手塚”として到来した白土三平らによる劇画ブームから、一線を画した画風や技法で漫画に革新を与えたのが大友克洋である。彼は幼少期、『鉄腕アトム』や『鉄人28号』を模写していたことで知られ、漫画の表現史を画するものとして「大友以前、大友以後」という言葉がしばしば用いられる。建設業界でも通用するレベルの建物などの遠近法、パースを背景に用いたほか、「漫画記号的な顔」と「写実的な肉体」を持つ、より立体的な造形を漫画界に持ち込んだ。結果、「SFやオカルトをいかに日常に埋没させるか」という部分でのリアリティを底上げし、漫画が「MANGA」であることのさらなる補強の祖となった。

■諸刃の剣「漫画記号」を逆手に、現代風に昇華させた『サンダー3』

 先月ノミネート作品が発表された『第4回マガデミー賞』では、『日本三國』、『サンダー3』、『カグラバチ』にもこれらの影響を感じることができるのではないだろうか。ノミネート作品である『サンダー3』、『日本三國』、『カグラバチ』から見てみることにする。

 設定賞にノミネートされた『サンダー3』(講談社・池田祐輝著)は、手塚治虫的な「記号的な漫画」と大友克洋のような「写実的な漫画」を融合させた意欲作だ。どこにでもいる家族の子ども、ぴょんたろうはある日、友人と三人で教師のドクの家へ遊びに行く。そこで雑誌『ムー』の通販で8万円で買った、異次元と繋がるディスクを借り、ゲーム機のPS5で起動。ぴょんたろうたちはいわゆる漫画的なデフォルメされた記号的なキャラクターで描かれるのだが、テレビ画面に映し出されたのは、奥浩哉の『GANTZ』を思わせる写実的な世界。その世界へ侵入した彼らは「アニメが動いている」と住人たちに揶揄されるが、実は現実とは違う「漫画の世界の住人」ゆえのスーパーパワーを持っていることが判明。侵略してきた宇宙人と戦う。絵柄の落差という漫画としか表現できない世界観が秀逸だ。

 「手塚治虫氏が提唱した漫画記号論というものがあり、その記号を使いすぎると陳腐に映ってしまう現代において、諸刃の剣。だがこれを逆手にとって、いかにも現代風に昇華したのが同作品」と語るのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「漫画記号論というのは、漫画を記号の集合体であるとした論です。これは例えば人物の造形にしても、この作品の顔、この作品の髪型、この作品の肉体、のように絵というより記号として捉えて組み合わせていくもの。ちょうど漢字の部首とつくりのような関係で絵が表現されているということであり、さらには焦った時の汗や、何か思いついた時の電球など、典型的な表現もこれに当たります」(同氏)

 ではいかにして、それを現代風にしたのか。「記号と写実が同居する落差が持つ違和感もそうですが、それだけでは弱い。写実の世界観では表現できない、荒唐無稽なスーパーパワー。これをデフォルメされたキャラが持つからこそ許されるといった落差を大真面目に取り入れた点です。人が死ぬこともあるストーリー漫画に、ダイナマイトでも髪の毛がチリチリになるぐらいで済むある種不死身のギャグ漫画のキャラが入り込んだような作風で、これらは『DRAGON BALL』に登場した『Dr.スランプ』のアラレちゃん、また『こち亀』の両津勘吉が『DRAGON BALL』のフリーザ様を“死なない”と辟易とさせたパロディは以前よりありましたが、これを本格的にテーマに取り入れたその実験性が評価されている。“ポスト”漫画記号論にあたる」(衣輪氏)

■日本の再統一という「緻密なストーリー」で知略の世界を展開した『日本三國』

 次に作品賞にノミネートされた『日本三國』(小学館・松木いっか著)だ。同作は文明が崩壊し、日本が3つの領土(大和、武鳳、聖夷)に分割されたところから始まる。まず“三國”というタイトルから、『三国志』を連想させるほか、漫画の設定として「こんな近未来・SF作品があるのか」と思わせてくれる。横山『三国志』の大河的なつくり。そして戦を軍師目線で描く、単なる派手なバトルではない知略の世界が展開されている。

 「『三国志』、そして知略とくれば、多くの方が諸葛孔明を思い浮かべるでしょう。こうした国盗り物語は、現在の『キングダム』の大ヒットを見ればわかる通り、今も人の心を惹きつけ続ける。その理由として考えられるのは、横山『三国志』が膨大な登場人物たちをデフォルメして役割を与えながら描き、その中に多くの違うパターンの傑物が現れ、“このキャラとこのキャラがぶつかったらどっちが強い? どっちの作戦が勝つ?”とワクワクさせるバトルロワイヤル感にもあります。国盗りの限界状態だからこそクセのある人物が台頭できる世界は和を以て貴しとなす日本文化からすると魅力的なフィクション。さらに昨今はX(Twitter)でも政治のワードが多くトレンドに挙がり、ある種エンタメ化している。そんな時勢に『三国志』、知将・諸葛孔明にスポットを当てたのは、時代に適合している」(衣輪氏)

■大友克洋の“ネームありきで画力がついてきている”を引き継ぐ『カグラバチ』

 最後に、こだわり賞にノミネートされた『カグラバチ』(集英社・外薗健著)だ。主人公は刀匠を志す少年チヒロ。チヒロは、父の下で日々修行に励んでいた。笑いの絶えない毎日がいつまでも続くと思っていたがある日悲劇が訪れる。血塗られた絆と帰らない日常。少年は憎しみを焚べ、決意の炎を心に宿す。

 非常にテンポ感がよく、まるでハリウッドのような日本を描いているほか、主人公の目的がダーク。夢に向かって…といった王道ではなく、復讐という一見すると暗くなりそうなテーマで描かれている。

「圧倒的な画力で現実を映し出し、そこに妖刀や妖術師といったSFやオカルトを埋め込んである。これは直接、大友克洋ではないが、大友以後の漫画の潮流のひとつの到達点であると言えます。もう一つ、共通点があるとすれば、大友氏も外薗氏も、強烈な画力に目が行きがち。ですが吉本隆明も指摘した通り、大友氏の(SFを描き出してからの大友氏)描く漫画は、まずストーリーが面白い。そこに絵がついてきているという形です。『カグラバチ』も同様であり、ストーリーありきの上、そのストーリーの組み立ては横軸よりも縦軸が優先。どんどん物語が進む上、設定などの情報はあれどそこに重きを置かず、寧ろ感情に訴えかける父の言葉などが何度も繰り返される。こういった物語進行は大友氏がやっていなかったことであり、『カグラバチ』は大友氏の遺伝子を受け継ぎながら、そこからさらに飛び出そうとしている意欲作に見えます」(衣輪氏)

 このように漫画=「MANGA」は先代の天才たちが作り出したものを受け継ぎつつも新しく、さらには現代らしい進化を遂げながら今も多くの作品が生まれている。なかでも上記のように評価される作品には、それらの遺伝子が非常に強く現れており、こうした突然変異がさらにあらたな流れを生む普遍の卵として位置づけられるのも特徴だ。ストーリー、設定、画風や技法…これらは年々、新たなものを生んで行っているが、火は聖火のごとく絶えずに燃え続けている。「漫画やアニメで日本が好きになり、日本人にも友好的に接する外国人はとても多い。漫画は平和外交にも大きく貢献しているともっと公式に認めるべきだ」と衣輪氏。これからも聖火のもと、漫画=「MANGA」は日本らしく、ガラパゴスに、独自に、発展していくのだろう。

(西島亨)

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  • 横山光輝御大と言えばSFよりも三国志のイメージ。全巻購入しました。
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