『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか?』より 一を聞けば十がわかる――。そんな鋭い人が周りにいないだろうか。「あの人は頭がいいなぁ」と思われているような人だ。
【画像】誰でも再現できる!『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか?』書影 偏差値35から二浪で東大に合格。現在は教育事業を手掛け、TBS日曜劇場「御上先生」「ドラゴン桜」の監修も担当した西岡壱誠さんは、そんな人は1つの事実から複数個の解釈を得ていると指摘する。
西岡さんが一生ものの「頭の良さ」を身につける方法に迫った著書『なぜ、東大の入試問題は、「30字」で答えを書かせるのか?』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成して届ける。
■一を聞いて十を知るとはどういうことか?
まず前提として、「解釈」というのは複数個あるということをみなさんにはお伝えしなければなりません。
たとえば1つ、こんな実験をご覧ください。
(1)自分の親しくしている人2人と、個人的に嫌いで苦手にしている人1人をリストアップする
(2)その人に対して考えている「その人のいいところ」と「その人のダメなところ」を考えてみたとする
(3)「いいところ」と「ダメなところ」を、どれくらい普段からその人に指摘しているかを考える
これを行なうと、次のような結果が出ました。
・「その人のいいところ」は、親しくしている2人には伝えている場合が多いが、嫌いで苦手にしている人には伝えていない場合が多い
・「その人のダメなところ」は、本人と親しいかどうかにかかわらず、本人には教えていない場合が多い
・「その人のダメなところ」は、本人に教えていない代わりに、嫌いで苦手に思っている人も含めて本人以外の人には伝えてしまっている場合が多い
結論:相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい
なかなか面白い実験だと思うのですが、みなさんはここから、どんなことが言えると思いますか?
もちろん結論として「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい」と書いてありますから、これが言いたくてこの人はこの実験の概要を書いたんだと考えられます。
でも、先ほどと同じように、結論に対する言い換えを考えるような次の問いを考えるとすると、多くの人は難しいと考えるのではありませんか?
「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい」とはどういうことか?
この問いが難しいのは、人によって答えが変わってくるものだからです。
人によってはこの実験は、「人の悪口が伝わるメカニズムがわかる実験だ」と感じるでしょう。「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい。だから、人の悪口は伝播しやすい」ということを示す実験だと感じられるかもしれません。
違う人からすると、この実験は、「相手に対してはどんどん欠点を伝えなきゃダメだという教訓を教えてくれる実験だ」と感じられるかもしれません。「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい。だから、相手に対しては意図して欠点を伝えるべきだ」という結論だと考えているということです。
逆に、「自分の欠点を知るのは難しいから、自分の悪いところを指摘してくれる友達は良い友達だ」と解釈することもできるかもしれません。その人にとっては、「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい。だからこそ、それでも自分の悪いところを指摘してくれる友達は大切にするべきだ」という結論になるでしょう。
こんなふうに、1つのエピソードに対する解釈・反応・教訓は、千差万別なわけです。
事実自体は変わりませんし、増えたりはしません。『名探偵コナン』では「真実はいつも一つ」なんて言っていますが、それはまさにその通りです。しかし、そこから得られる解釈は人によって異なります。
ここで重要なのは、その「複数の解釈」を考えられる力を得ることです。東大生はこういう実験や複数のことが考えられる事実から、いろんな教訓を考える能力が高いです。1個の教訓で満足せずに、5個10個と教訓を考えて、いろんな場所で応用していくことができるのです。
頭のいい人のことを、「一を聞いて十を知る人」なんて言いますが、あれは別に、「1つの事実から、10個の別の事実を知ることができる」ということを言っているわけではありません。1つの情報には、1つの情報量しかありません。でも、「解釈」は複数個あるかもしれません。「相手の欠点は本人には伝えにくく、本人以外には伝えやすい」とはどういうことか?という問いの答えがたくさんあったように、1つの事実から、複数個の解釈を得ることは確かにできます。
■西岡壱誠(にしおか・いっせい)
カルペ・ディエム代表。1996年生まれ。偏差値35の学年ビリから、2浪で自分の勉強法を一から見直し、どうすれば成績が上がるのかを徹底的に考え抜いた結果、東大に合格。著書『東大読書』シリーズ(東洋経済新報社)は累計40万部のベストセラーに。漫画『ドラゴン桜2』の編集やドラマ日曜劇場『ドラゴン桜』『御上先生』の脚本監修を担当。MBS『100%!アピールちゃん』『月曜の蛙、大海を知る。』にてタレントの小倉優子さんの受験をサポート。勉強法や思考法の研究と実践に基づいた著書は、多くの受験生や教育者から支持を集めている。