大沼浩二さん(仮名・52歳)。休職や降格があっても文句を言わず、親身になって支えてくれた妻と郊外の団地で暮らす。「通勤に1時間半かかるのが辛いですね」現在41〜54歳の氷河期世代はまさに“受難の世代”だ。就職難から始まり、なんとか会社に潜り込めても、リストラに怯え、退職後は年金までむしり取られるのは必至。時代に翻弄され続ける彼らの実情に迫った!
◆管理職昇進が貧困転落の要因に
昇進かと思いきや、名ばかりの管理職という立場に苦しむ氷河期世代が増えている。’19年にパーソル研究所が発表した調査では、負荷の大きい中間管理職の多くが、「目の前の仕事に追われて価値創出に繫がる業務ができていない」と回答。加えて、職場での責任や孤立に苛まれやすく心身の状態が悪化している。
実際に管理職昇進が貧困転落の要因になったのが、都内のソフトウェア会社で働く大沼浩二さん(仮名・52歳)。現在の年収は300万円まで下がってしまったという。何があったのか?
「就職難を乗り越えて、今の会社に“補欠”で入社したので『生き残りたい』という一心でがむしゃらに働き、38歳で部長に昇進できました。しかしその後、会社の業績悪化による人員整理があり、自分の部署も30人ほど派遣切りをすることになりました。なかには、『子供がもうすぐ生まれる』『来年結婚する予定だった』という同世代もいました」
それでも業績は戻らず、大沼さんは子会社に出向。それがさらに歯車を狂わせた。
「管理職に就いたのですが、部下は年上の先輩ばかりで指示を聞かない。出向先の上司は部下に責任転嫁する人で孤独にトラブル対応に明け暮れました。昼間は会社で働き、夜は取引先を訪問して始発までメンテナンス作業をするという地獄の日々でした。残業時間は月100時間を優に超えていたと思います」
◆適応障害が完治しないまま職場復帰し…
結局、過労とストレスが原因で適応障害を発症。医者からの勧告で休職したが、完治しないまま半年後に職場復帰した。
「昔の部下から昇進の報告をもらうたびに、『早く戻らないと自分の席がなくなってクビになる』という焦りがありました。それに傷病手当金として振り込まれた金額の少なさを見てゾッとして。賃貸マンションから区営団地に引っ越して、生活水準も下げました」
復職後は親会社のカスタマーセンターに配属されるも、職場では孤立しているという。
「周囲からのプレッシャーを感じてミスを連発。それが査定に響き課長代理から階級が下がり続け、今では若手の平社員と同じ扱いで、年収は300万円まで減りました。若手からすれば年上の老害社員、年下の上司からしたら一度休職した厄介な社員なんですよ」
もう「これから先は行き詰まりしかない」と大沼さん。
「老後の貯蓄も十分になく、リストラされずに定年まで勤められるのか。それに両親の介護も現実的になっている。今はどんなときも共働きで働いてくれた妻だけが支えです」
一度、居場所を失った中間管理職の価値暴落は早い。
取材・文/週刊SPA!編集部 イラスト/神林ゆう
―[[氷河期貧困]の実態]―