「妻にも稼いでほしい」多部未華子主演ドラマから学ぶ、男性の意識を変える専業主婦という“生き方”

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2025年05月15日 11:00  週刊女性PRIME

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多部未華子主演のTBSドラマ『対岸の家事』(公式サイトより)

 ワーキングママが多い現代においては、「働かないなんて贅沢だ」と少し分が悪い専業主婦。だけど『対岸の家事』の放送で、その存在価値が高まってきている。これまで専業主婦に否定的だった世の男性陣の意識も変えるドラマになるかも…?

子育てと仕事の両立

『対岸の家事』は専業主婦の詩穂(多部未華子)が主人公。居酒屋店長である夫・虎朗(一ノ瀬ワタル)の稼ぎだけで、娘の苺(永井花奈)を育てている。

 マンションの隣室の礼子(江口のりこ)は夫の量平(川西賢志郎)と共働き。2人の子どもを産んだ後に復職したが、独身時代にバリバリ働いていた営業部には戻れず、総務部へ。子育てと仕事の両立に苦労している。

 第1話では詩穂に対して「絶滅危惧種だね」と礼子が陰口を言い、専業主婦vsワーママの構図を期待した人もいたようだが、その後の展開はちょっと違う。礼子は子どもが病気の時に助けてもらったりして、現在では詩穂の生き方も理解するようになっている。そして5月13日放送の第7話ではついに、礼子も夫の転勤に合わせて専業主婦になるという、衝撃の発言があった。

 ただ実際問題、世の中には「専業主婦はラクでいいなあ」と思っている人が多いだろう。特に男性なら、「自分ばっか働くんじゃなくて、妻にも稼いでほしい」と思っている人がほとんどなはず。

 かくいう筆者(50代・男性)もそのうちの一人だった。甲斐性がないためいまだ独身だが、「三食昼寝付き」という言葉を羨ましく思い、ママ友同士で優雅にランチする光景を見て「旦那さん、可哀想に。俺は結婚しないで本当に良かった」とすら思っていたほどだ。

 でもそんな筆者でも、『対岸の家事』を見ていると、

「専業主婦の大変さ」
「専業主婦の必要性」
「なぜ専業主婦でいたいのかという理由」

 この3つが、よく理解できるのだ。

幼児と二人きりという専業主婦の大変さ

 まず「専業主婦の大変さ」については、詩穂のパパ友・中谷(ディーン・フジオカ)の第2話の独白がわかりやすいだろう。中谷は厚生労働省のエリート官僚で、娘が生まれて2年間の育休を取得中。その分、妻の樹里(島袋寛子)が外資系でバリバリ働いている。

「すぐ泣く、すぐこぼす、日本語が通じない。幼児と二人きりの日々に精神が蝕まれていく。育休を取ってからの毎日は同じことの繰り返しで何一つ進んでいる感じがしない。永遠にタイムリープしているのではという気がしてくる」

 確かにこれは、精神的にきつい。掃除、洗濯、料理などより数倍負担は大きいだろう。休みの日に夫がちょっとだけ子どもの相手をするのとはわけが違う。

 でも、だからといって、中谷のセリフのように「働いてる方が楽だった」とまでは思わない。労働して対価を得るには、時には死ぬほど嫌な思いをしながら、理解のない相手と折り合わねばならないという、幼児相手とは別種の苦労が付きまとうからだ。

 そして子どもは成長すればある程度楽になるのに対し、定年までは気が遠くなるほど長い。だから単純に「外で働くより専業主婦の方が大変」とは思わないけど、専業主婦の大変さのほんの一端は理解できた気はする。

専業主婦の必要性

 「専業主婦の必要性」については、第3話で礼子の子どもが立て続けにおたふく風邪に罹った時に、詩穂が預かってあげたり、第7話で先輩主婦の坂上(田中美佐子)に認知症の疑いが出た時に、気にかけてあげるエピソードがあった。

 専業主婦の必要性というのは、こうした「何か緊急事態が発生した時に対応できるよう、どんと構えていること」なのではないか。

 そして詩穂は、普段は余力のある分、自家製プリンを作ったり、カレーの日は大人用と子供用の2種類を作ったりして家族を“応援”する。それくらいゆとりを持った存在の仕方も、素敵なことではないか。第5話で金魚鉢に反射した光が天井にゆらめくのを、苺と二人で寝転がって眺めるシーンも、ゆとりがあるからこそ経験できる大切な時間だと感じた。

 子どもを預かってもらったお礼に、礼子は詩穂に8万円を渡そうとする。そこで筆者は「これから主婦の強みを生かした仕事が始まるんだ!」と想像して期待してしまった。この辺は、常にお金を稼ぐことを第一に生きてきた者ならではの発想だが、その感覚を裏切るように、詩穂はそのお金を断り、「子どもを預かるのを仕事にしたいとは思ってないんです」と言うのだ。

なぜ専業主婦でいたいのかという理由

 これこそが「なぜ専業主婦でいたいのかという理由」につながっている。

 当初、詩穂は「私は不器用で、二つのことは同時にできないから専業主婦になった」と話していた。この言い方は「贅沢だ」とツッコまれやすい。だが第3話で「私は私にとって一番幸せだなあって思うものが見つかったら、そこに全ての時間をかけようって。だから家族のための家事を仕事にする、そう決めたんです」と話すのを見て、すごく腑に落ちた。

 これは贅沢とか贅沢でないとかの問題でなく、自分が何を最優先にしたいのかという問題なのだ。社会的な仕事を最優先したい人がいるのと同様に、家庭を最優先したい人もいる。ごく当然のことなのに、筆者を含む多くの人は、そのことを忘れていたのではないだろうか。

 もちろん、家事を専業にすれば、生活に必要なお金は入ってこない。だがそれが許される状況なら、専業主婦を選んだって、いいではないか。単純に働きたくないだけで選ぶ専業主婦だと困ってしまうが、誰もが自分の理想の生き方を求める権利はあるからだ。詩穂は独身時代は美容師をしていたため、苺が成長する中で、もう一度働きに出た方がいいか悩む場面もあるが、きっとその時々で選択をしていけばいいのだ。

 原作者の朱野帰子さんには数年前、小説『わたし、定時で帰ります。』について取材をさせていただいたことがある。その作品も、具体的なエピソードを積み重ねて、絶対に残業しない主人公に共感させられる内容だったが、今回もその手腕で、男である筆者も専業主婦に対する見方を大きく変えられてしまったようだ。

 もっとも、自分の結婚相手が「専業主婦になりたい」と言い出した時に、すんなり受け入れられるかは、また別問題なのだけど……(それ以前に、結婚相手が見つからないことのほうが大問題だ、というツッコミはご勘弁を)。

 夫婦でいる人や、これから結婚を考えている男性も女性も、一度『対岸の家事』を観て、自分は、そして相手はどう思っているのか、考えてみてはどうだろう?

古沢保。フリーライター、コラムニスト。'71年東京生まれ。『3年B組金八先生卒業アルバム』『オフィシャルガイドブック相棒』『ヤンキー母校に帰るノベライズ』『IQサプリシリーズ』など、テレビ関連書籍を多数手がけ、雑誌などにテレビコラムを執筆。テレビ番組制作にも携わる。好きな番組は地味にヒットする堅実派。街歩き関連の執筆も多く、歴史散歩の会を主宰。

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  • 働く必要性なかったから就職してないけど‥家族が納得してるのなら別に良いと思う。両親は私が就職したら卒倒しそうというよりお金を渡してでも反対する
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