なぜ「カレー店」の倒産が続くのか 個人店を追い詰めるチェーンの戦略

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2025年06月12日 06:21  ITmedia ビジネスオンライン

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カレー店の倒産が続く

 帝国データバンクの発表によると、2024年度(2024年4月〜2025年3月)のカレー店の倒産件数が2年連続で過去最高となったという。


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 この背景には何があるのか。「個人店」対「チェーン店」という比較を軸に考えていこう。


●倒産が多いのは、「カレー店」だけなのか?


 大前提として、このニュースの取り扱いには注意が必要だ。「過去最高」という見出しのニュースが出ると、どうしても「大量倒産」を想像してしまうが、実際の数はそのイメージとはズレがある。


 2024年度のカレー店の倒産件数は「13件」で、2023年度が「12件」。2024年(2024年1月〜12月)に過去最高を記録したラーメン店の倒産が「72件」であることと比べると、その数はかなり少ない。従って、まず、このニュースについては「過去最高」という言葉に踊らされず、冷静に捉えることが必要だ。


 そもそも、ラーメン店をはじめ、2024年に倒産件数が過去最高を記録したのはカレー店だけではない。中華料理店や西洋料理店、飲み屋など、飲食店のあらゆる業態で倒産が最多だったのである。


 特に厳しいのが個人店だ。ここ最近のインフレ傾向や人件費の上昇などによる大打撃を受ける中で、比較的値段が安定していたはずのコメの価格高騰が追い打ちをかけた。


 また、制度面の問題として、コロナ禍で行われた新型コロナ緊急融資の返済開始のピークが2024年にあったことから、その返済に追われて倒産した可能性もある。コロナ禍という未曽有の出来事による融資で、結果的に延命させられていた個人店が、せきを切ったように倒産していると見ることもできる。


 こうした要因が重なったことで、飲食業全体の倒産件数が増えているのである。


●個人店を圧迫する「牛丼チェーン2024秋カレー戦争」


 カレー店は他の飲食業の業態と比べると、逼迫(ひっぱく)しているとは言い難い。ただ、倒産件数が徐々に増えているのは、確かな事実だ。では、その背景には何があるのだろうか。


 1つ指摘できるのは、2024年が「カレー戦争」の年だったということだ。


 カレー総合研究所は、「牛丼チェーン2024秋カレー戦争が勃発」というセンセーショナルなタイトルでプレスリリースを出した。その中で、「すき家、松屋、吉野家といった大手牛丼チェーンが、2024年の秋に入り次々とカレーの新商品やリニューアル商品を投入し、牛丼ではなく“カレー”で顧客争奪戦を繰り広げている。この現象はまさに『カレー戦争』と呼べる状況だ」と述べている。


 例えば、松屋は2024年7月に「チキンカレー」をレギュラーメニュー入りさせている。吉野家も9月から「黒カレー」などを再登場させており、すき家は10月にカレーメニューを全面リニューアルした。


 メニューだけでなく、牛丼各社が「カレー業態店舗」に力を入れているのも興味深い。松屋は「マイカリー食堂」を2013年に出店しているが、ここ数年でその数を急速に増やしており、「松屋」や「松のや」ブランドとの複合店舗を拡大している。現在は、専門店と複合店合わせて150店舗ほどを構えている。また、出店を開始したばかりだが、吉野家も2024年に「もう〜とりこ」というカレー専門店の業態を東京・浅草にオープンした。


 このように、牛丼チェーン各社が「カレー」を意識的に推し出すようになったのである。言うまでもなく、こうした巨大チェーンによるカレーは、個人経営店のカレーよりも安価で提供できる。材料や輸送においてスケールメリットを十分に生かせるからだ。


 さまざまなモノの値段が上がり、消費者の生活防衛意識が高まっていることから、外食産業においても、より安い商品のウケが良いのは言うまでもない。


 こうしたチェーン店のカレーに負けてしまう事業者が少なからず出てきたことも、カレー店の「倒産最多」の理由ではないだろうか。もちろん、個人店でも「ここが良い」と思わせるような工夫がある店なら、生き残ることはできるだろう。ただ、その戦いがシビアになっていることは確かだ。


 また、こうした「カレー戦争」が2024年秋から本格化したことを踏まえると、2025年により大きな影響が出る可能性が高い。そうした意味でも、個人のカレー店は引き続き厳しい状況にあると言えるだろう。


●巨大チェーンの新業態進出がもたらす影響


 こうした他業種チェーンにおける新規商材開発の流れの中で、既存の個人経営のカレー店は存続の危機にひんしている。


 しかし、なぜ牛丼チェーンはカレーに目をつけたのか。それは、「牛丼」だけの経営が飽和状態になってきているためだ。すでに牛丼チェーン各社の店舗数は、かろうじて微増ではあるものの、ほぼ横ばいとなっており、出店の余地がなくなりつつある。


 こうした状況下で、大企業がその規模を維持していく、あるいは成長していくためには、新しい業態に進出して顧客数を増やすことが必要となる。牛丼は味の違いを出しづらく、横並びになりがちであることから、競争はより激しくなる。ただ、カレーはレトルトやチルドでの調理が可能であり、牛丼チェーンでのオペレーションでも導入しやすい。そこでカレーに目が向けられたのである。


 チェーン企業の努力は素晴らしい。しかし、こうした状況を取材すると、「不健全だな」と思うこともある。


 なぜなら、大企業による新規業態・商品開発によって個人店が苦境に立たされるということが、多くの業界で起きているからだ。


 その1つがラーメンである。ラーメン店も、2024年の倒産が最多であることは前述の通りだ。


 牛丼チェーンの吉野家は5月に発表した中期経営計画の中で、吉野家の第3の柱を「ラーメン」にするとした。すでに同社は多くのラーメン店、およびラーメン関連企業をM&Aにより買収しており、牛丼だけではない、複数ブランドを展開する外食チェーンを目指している。もちろんこうした買収は、チェーン企業にとっても買われる側にとってもWin-Winであり、何ら批判するところはない。


 ただ、こうした動きが加速すればするほど、多くのラーメン店がチェーンオペレーションとなり、個人店が減っていく。それにより、1店舗だからこそできた斬新なチャレンジや取り組みを行える店が減ってしまうのではないかと、筆者は危惧している。


 もちろん、チェーンオペレーションだから大胆な挑戦ができないなどと言うつもりはなく、そう簡単にチェーン店と個人店が対立することはないだろう。しかし、個人店には独自の良さがあるのは確かであり、チェーン店との対立が進むことで、こうした個人店が生き残りづらくなっていることは明白な事実である。


●あらゆる業界で、個人店が存続の危機に


 カレーやラーメンだけでなく、さまざまなチェーン企業が新業態に進出し始めている。例えば、スシローが「天ぷら定食」を始め、串カツ田中が高級とんかつ店を立ち上げ、コメダ珈琲店がおにぎり専門店を展開した。


 どの業界も成熟が進み、市場規模はすでに頭打ちになっている。そして、人口減少時代で内需に限界があることから、新業態へ果敢に挑戦する。この傾向は今後も変わることはなく、むしろ進んでいくだろう。


 そうなったとき、あらゆる業界で「個人店」は淘汰(とうた)されていくかもしれない。


 それが時代の流れであり、消費者がそれを選ぶならば、その流れに抗っても意味がない。また、本当の意味で顧客に選ばれる個人店であれば、チェーンが進出したとしても生き残るだろう。ただ、このような状況の中で、個人店同士の争いが激しくなり、本来であれば生き残れた店がなくなってしまう……。そんなことも、今後は起こり得るかもしれない。


 「カレー店の倒産件数が過去最多」というニュースからは、そのような個人店とチェーン店をめぐる力関係の一端も見えてきそうだ。


(谷頭和希、都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家)



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