
60代のAさんは、同年代の妻と穏やかな日々を送っています。二人とも再婚同士で、双方ともに子供はいません。大きな不満もなく互いを支え合いながら、夫婦水入らずの生活を送っていました。
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そんな幸せな日々は、突然終わりを告げます。不慮の事故により、Aさんの妻は帰らぬ人となってしまったのです。深い悲しみに暮れるなか、Aさんは亡き妻の相続手続きを進める必要に迫られました。
妻には子供がいないと聞いていたため、手続きは滞りなく進むだろうと考えていたのですが、思いもよらない事実が明らかになります。手続きのために戸籍謄本や除籍謄本を調べていると、Aさんの妻には以前の夫との間に子供がいたことが判明したのです。
Aさんは言葉を失いました。再婚同士の夫婦の場合、一方の配偶者に先妻や先夫との間に子供がいると、相続は一体どうなるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。
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“関係無い”では済まない!トラブルを防止には「生前からの準備」を
ー再婚時に子供の存在を知らされてなかった場合、手続きはどうなるでしょうか
亡くなった配偶者に前の配偶者との間に子供がいた場合で、現在の配偶者がその存在を知らなかった時には相続手続きで行き詰まることが多い印象です。
戸籍等で存在が判明した子供は、法律上「法定相続人」となります。法定相続人全員で「遺産分割協議」を行い、誰がどの財産をどれだけ相続するのかを話し合って決定し、その内容を記した「遺産分割協議書」を作成する必要があります。
これまで存在すら知らなかったお子さんに連絡を取り、遺産分割について話し合わなければならないのですが、このお子さんの戸籍(除籍後の現在の戸籍)を調べ住所をたどると、まず困難に直面します。市町村によっては、個人情報保護の観点からこれらの発行を拒まれるケースがあるからです。
なんとか所在が確認できたとしても話し合いのテーブルについてくれるかどうか。いくつかの経験のなかでは、母親と別離したお子さんによっては、当時母親に「捨てられた」と感じている方も多い印象で、話し合いのテーブルにつくこと自体を拒まれるケースもあります。話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停や審判を申し立てることになります。
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ーAさんの妻は、遺言書を作っておくべきだったのでしょうか
Aさんの妻が「全財産を夫であるAさんに相続させる」という内容の有効な遺言書を作成していれば、状況は大きく異なっていたでしょう。遺留分侵害の問題が残るとしても遺言書があれば、原則としてその内容に従って相続が行われるため、法定相続人全員での遺産分割協議は不要となります。
またこの遺言書に遺言執行者が定められていれば、Aさんはお子さんへの協力を求めることなく手続きを進められます。もっとも遺言執行者には、お子さんに遺言内容を通知する義務や作成した相続財産目録を交付する義務は生じます。
ー再婚のケースで相続でもめる例はほかにもありますか
死亡した再婚相手の連れ子との関係が悪く、遺産分割協議が難航したケースがあります。その他、子供がいない夫婦の亡くなった配偶者の両親それぞれに前婚の子供がおり(亡くなった配偶者にとっては兄弟姉妹いわゆる『半血兄弟』にあたる)、関係性が希薄な相続人の数が多く、一部に法定相続分以上の分割を強硬に主張する相続人が登場し、話し合いがまとまらなかったケースもあります。
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これらのトラブルを防ぐためにも、再婚家庭においては、「自分の財産は大したことがないから関係ない話」とは考えず、生前の話し合いや、遺言書の作成などの対策が不可欠でしょう。
◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 長崎県諫早市出身。大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ行政書士事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。
(まいどなニュース特約・八幡 康二)