スベリヒユのサラダ。スベリヒユのクセがアクセントになり、食が進む 野菜の原種でもある雑草は、野菜以上に豊かな栄養素を持っている。夏においしい「スベリヒユ」は、若返り成分とも称されるオメガ3脂肪酸を植物のなかでもっとも豊富に含むといわれ、スーパーフードのような存在だ。
日本のほとんどの場所では雑草だが、実はヨーロッパでは野菜として普通にスーパーで売られている。
そんな「スベリヒユ」のおいしい食べ方と採取法を、『おいしい雑草図鑑』の著者で雑草料理研究家の前田 純氏に聞いた。
◆夏バテにも最適なスベリヒユ
――前田さんおすすめの、6〜7月の時季においしい雑草を教えてください。
前田 純氏(以下、前田):ホウレンソウの仲間の「シロザ」は食べやすくて初心者におすすめですが、クセがなさすぎて雑草らしさをあまり感じられないかもしれません。
――雑草らしいクセも楽しみたいと。
前田:はい。「スベリヒユ」は酸味とぬめりがあって、雑草らしさを楽しめながらも、一般の方にも食べやすいんです。山形では「ヒョウ」と呼ばれ、郷土料理の「だし」にも使われていたと思われます。
夏バテで食欲がないときにもよいですし、オメガ3脂肪酸が植物の中でもっとも多く含まれているといわれています。
美容と健康、脳の働きを高めることなどにもよいとされ、ヨーロッパでは普通に野菜として売られているんですよ。
◆酸味とぬめりがあって、雑草らしさも楽しめる「スベリヒユ」をあえてサラダで
――それはすごいですね! 美味しい食べ方はありますか?
前田:私は炒め物をおすすめすることが多いですが、あるシェフは生のままサラダに使っていました。その青臭さがアクセントになって、ナッツと合わせると非常に美味しかったですね。
手でちぎって、オリーブオイルと塩、お好みのドレッシングで和えるだけでも美味しいです。茹でると青臭さが取れますが、あえて青っぽさを活かすのも面白いと思います。
――ここまで有用な雑草なら、栽培したいという人もいるのでは?
前田:栽培するのはまったく問題ありません。以前、保健所に確認したこともあります。
たとえばダイコンが食べられるのは、昔から食べられてきたという「食経験」があるからなんです。論文で安全性が証明されているわけではない。
ですから、毒性がなく、食経験のあるものであれば、栽培して食べても大丈夫です。ただし、「オオキンケイギク」のような「特定外来生物」に指定されているものは栽培してはいけません。
◆疑わしきものは食べず、分かったものだけ食べる
――怖いのは間違えて毒草を食べてしまうことです。注意点はありますか?
前田:『おいしい植物図鑑』でも書きましたが、日本には強い毒性を持つ植物は30種ほどあります。
――その30種を避ければ、基本は何でも食べられるということですか?
前田:いいえ。園芸種の植物もたくさん生えていて、なかにはスイセンのように毒を持つものがあります。スイセンは葉だけではニラなどと見分けがつきにくい場合があるので注意が必要です。
ですから、図鑑などでしっかり確認して、名前がはっきり分からないものは食べないということを徹底すべきです。そうすれば、よほどのことはないと思います。
――衛生面で気を付けることはありますか?
前田:都会ではあまり心配ないかもしれませんが、山間部などでは動物の糞尿やダニなども気になります。ダニが媒介する病気もありますので、衛生的によくない場所のものは避けた方がいいでしょう。
◆山菜を採ってはお菓子をゲットしていた子供時代
――前田さんのプロフィールを見ると、京都大学の雑草研究室出身と書かれています。その研究室を選んだのは、やはり幼少期からのご経験が?
前田:はい。父が山菜などに詳しかったんです。山へ行って「こういうの食べれるよ」みたいに教えてくれました。それがきっかけのひとつですね。幼稚園のときにはもうほぼ自分で採れちゃうぐらいになっていました。
――そんな年からですか?
前田:姉たちが普通に外で遊んでいる間、私はおばあちゃんの大きなカゴを背負って山に入り、春夏秋冬、季節の山菜を採っていました。
子どもだからウドなんかは美味しくないんですけど、それを採っては親戚の人にあげて、お菓子をもらっていました。そのお菓子は全部姉たちに食べられてたんですけどね……。
――結果は切ないですが、やり手の子どもですね。
前田:小学校ぐらいになると山に入るのが面倒くさくなって、畑に植え始めたんです。
知識はないので、とにかく抜いてきては植えるのを6年ぐらい繰り返していたら、そこに育つようになっちゃって。もう採りに行かなくてよくなったんです。
そのときに自分のなかでひとつの形が完成したな、みたいな感じになって。それがやっぱり「好き」っていうことなのかなと。
◆ニッチ過ぎる雑草の利用を研究する恩師と出会って
――そうした経緯があって、京都大学で雑草研究室に入られたのですね。
前田:そうですね。ただ先に言っておきますと、人気のない研究室です。農業というと作物やらが人気で。ただ、農薬会社さんなどには就職しやすいので、そのような意味ではよいルートかもしれません。
――意外な進路があるんですね。
前田:研究室では、雑草をどうコントロールしていくかが主な研究内容です。予算もそちらに多く出ますから。でも、うちの恩師はちょっと変わっていて、そのなかで雑草の「利用」を研究していたんです。
雑草学の中で99%ぐらいが雑草のコントロールを研究しているなかで……。私はそれがすごく面白かった。
――前田さんにぴったりの先生に出合われたと。
前田:はい。たとえば「チガヤ」という雑草があるんですが、それを畑の法面(のりめん)に植え付けて土壌流出を防ぐといった研究をしていました。
チガヤは日本の伝統的な植物で管理もしやすい。しかし遺伝子などでは全然研究されていなかったので、そうした新しい分野に触れることができました。
――食べるだけが利用ではないのですね。
前田:私はいま、セイタカアワダチソウの栽培をビジネスにしているのですが、恩師にも「セイタカアワダチソウなんてよく売れるね」なんて言われたほどですけど(笑)。
研究者らしく商売は下手なものの、「いいものがあるのになんで世の中に広まらないんだろう」という思いが、自分で起業するきっかけになりました。
◆海外では野菜やサプリメントに利用される雑草も
――著書の『おいしい雑草図鑑』に書かれていましたが、日本では雑草扱いされているものが、海外では野菜として普通に食べられていたり、高級食材として扱われていたりするものが結構あるんですね。
前田:そうなんです。タンポポなんかも、海外ではサプリメントになって1万円とか2万円で売られていたり、高級レストランで野菜として出てきたりします。
皆さんが知らないだけで、実はすごい高級食材だったりすることもあるんです。
――海外で野菜として育てられているものが、日本でそう思われないのはなぜなんでしょう?
前田:やはり料理人の知識の差じゃないでしょうか。「売られているものが食べるもの」との認識が強いのかもしれません。
最近はご自身で農業をされる料理人の方も増えてきていて、そうした方々が「雑草も食べてみようかな」と私のところに来てくださることもあります。
実際に使ってみると、その個性的な味が新しいハーブのような感覚で、付加価値になると捉えてくださるんです。
――雑草を食べることがもっと広がれば、日本の食卓がより豊かになりそうですね。
【前田 純(まえだ・じゅん)】
1982年8月、石川県生まれ。雑草料理研究家。京都大学農学研究科農学専攻雑草学研究室で雑草学を学び、在学時より、NPOや野外調査等にて雑草を題材として、ダッチオーブンや七輪等を用いて料理を行う。2015年2月に合同会社つむぎてを設立。休耕田や耕作放棄地で無農薬・無化学肥料の雑草を栽培して、食品や化粧品を販売している。著書に『おいしい雑草図鑑』(扶桑社)がある。
〈取材・文/川添大輔 写真提供/前田 純〉