遺体写真をイラスト化、裁判員に配慮 「後回し」される被害者遺族

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2025年11月16日 05:01  毎日新聞

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和歌山県立医科大の近藤稔和教授が遺体の傷をイラストに替えた場合のイメージを伝えるスライド=東京都港区で2025年11月15日午後4時9分、安元久美子撮影

 2009年に始まった裁判員裁判制度は、法廷で遺体の写真や凶器といった「刺激証拠」を示さず、イラストで代替する運用が定着しつつある。裁判所が裁判員の心のケアを優先しているためだ。被害者側はこうした「配慮」が有罪、無罪の事実認定や量刑に影響することを懸念している。


 「被害が一目瞭然だった娘の写真は封印されてしまった」。15日に東京都内で開かれたシンポジウム「『刺激証拠』のイラスト化 隠される真実」で、一人の女性のビデオメッセージが流された。


 女性の娘は、交際相手の男性にゴルフクラブで殴られ亡くなった。検察官が女性に見せた遺体の写真は、頭などの傷が凄惨(せいさん)なものだった。


 殺人罪で起訴された男性は裁判員裁判の公判で「強く殴っていない」などと殺意を否認した。娘の遺体の写真は証拠として出されず、写真を基に作られたイラストで審理が進んだ。裁判所が裁判員の精神的負担を軽減しようとしたためだ。女性は、イラストでは傷のひどさが全く表現されていないように感じた。


 検察側は殺人罪で懲役16年を求刑したが、判決は男性の殺意を認めず、傷害致死罪での懲役10年にとどめた。検察側は控訴せず、1審で確定した。


 女性はビデオメッセージで「遺体の写真を見れば、被告の主張と合致しないことがすぐに分かったはずだ」と訴えた。そして「民意を反映させるための裁判員裁判なのに、被害者のことは後回しでいいのでしょうか。こんな悲しい結果を娘の仏壇に報告することは辛かった。私たちのように深く傷つけられる人がいなくなってほしい」と願った。


裁判所の運用は慎重


 裁判所が「刺激証拠」に慎重な姿勢を示すのには理由がある。裁判員がどれだけショックを受けるかは証拠を見てもらうまでは分からず、実際に体調を崩した人もいる。国民の中から裁判員を選ぶ以上、体調不良が続発し、辞退する人が増えれば、制度が立ちゆかなくなる恐れがある。


 このため裁判所はイラスト化の他に、裁判員候補者に衝撃的な証拠が出ることを伝えて辞退も認める▽衝撃的な証拠を示す際は裁判員に予告する――といった取り組みも進めている。


 15日のシンポジウムで、中央大の椎橋隆幸・名誉教授(刑事法)は「裁判員の精神的な負担を理由に証拠採用されるかどうかが変わることは問題。適正な刑事裁判のために必要な証拠は認められるべきだ」と語り、裁判所が過剰反応しているとの懸念を示した。


 元東京高検総務部長の十時(ととき)希代子弁護士は、防犯カメラの映像や、生きている被害者の傷の写真も証拠から除外される事態が生じているとし、「証拠を見ないまま裁くことは、被告と被害者の両方の人権侵害につながる」と述べた。


 一方、あるベテラン刑事裁判官は毎日新聞の取材に「事実認定や量刑判断に必要性が認められれば、内容を予告した上できちんと生の証拠を裁判員に見てもらっている」と強調する。【安元久美子】



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  • 黒塗り教科書や塗り潰し公文書と同じ。日本人は事実を直視することが苦手で避けがちだが、民主主義ってのは事実を直視できることが前提。例えばカラーを白黒にする程度まで。臭いは無いしね!
    • イイネ!11
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