布袋寅泰のギタープレイ徹底解剖 彼の奏でるフレーズはなぜ耳に残るのか? 

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2014年12月24日 10:11  リアルサウンド

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布袋寅泰『New Beginnings』

 10代の頃、ほうきを抱えてCOMPLEX「BE MY BABY」のPVを真似てみた。憧れのギターを手に入れて一番最初にしたことは、音を出すことでもコードを覚えることでもなく、窓ガラスに映るギターを抱えた自分の姿にニンマリとしながら、あのステップを踏んでみた……。そうしたギターキッズがどれだけいたことだろうか。弧を描くような右手の軌道、リズムに合わせて軽やかに上がる脚の動き… どれを取ってみても、ギターを弾く姿が絵になる。ありきたりの賛詞ではあるが、まさにその言葉を贈るに相応しい。今なお、ギターキッズ、ロックファンが憧れる“唯一無二のギターを持つシルエット” 布袋寅泰。ソロ活動開始から25年を越える今でも、アーティスト以上にギタリストである。そんな布袋のギタリスト像に迫ってみる。


■踊りながら弾く、クレイジーギター


 「日本にギタリストは腐るほどいるけど、こんなにカッコイイヤツはコイツしかいねェぜ、クレイジーギター 布袋寅泰!!」BOØWYのライブ、氷室京介によるお馴染の紹介がすべてを表す、踊りながらギターを弾く稀有なギタリスト。華麗な速弾きを見せるわけでも、ブルージーなソロをキメるわけでもない。当時としては珍しいギターヒーロー然としないスタイルながら、圧倒的な存在感でバンドとともにシーンを魅了した。ソリッドでタイト、スピードとビート、どんな名ギタリストがカバーしようとも、どこか何かが違う、誰も真似ることの出来ないギタースタイルである。


 多くのBOØWYのコピーバンド、ギタリストは必ずと言っていいほど、ライブ盤をコピーする。BOØWYはライブバンドであり、布袋のギタープレイの真骨頂はライブにあるからだ。


 バンドの初となる日本武道館公演を収めた『”GIGS” JUST A HERO TOUR 1986』(1986年)は、ライブバンドとしての姿を打ち立てたライブアルバムであり、布袋のプレイを世の中に知らしめた作品である。かつて6人組のツインギターであった時代の楽曲はもちろん、新譜を始めとする多くの楽曲をライブ用にリアレンジしている。そこには音を重ねて作りあげる作品と、小細工なしの一発勝負のライブは全く別モノであるという、作品におけるプロデューサーの顔とは別の、ライブを司るいちギタリストとしての姿がある。スタジオ音源では聴くことのできないカッティングでリズムにメリハリを、白玉音符のアルペジオでキーボード的な拡がりを添えていく。最小限のバンド編成、ギター1本で楽曲にどれだけ多彩な色を持たせるかを表現する、練りに練ったプレイである。それはロックギターのバッキングでありながら、弾き語りの伴奏に近いアプローチでもある。


■卓越したキャッチーなメロディーセンス


 バッキングだけではなく、歌メロディーに踏襲した印象的なリードギターも大きな特徴だろう。ギターを弾かない人でも耳に残り、口ずさむことのできるギターソロ、リフである。「Greatest Guitar Medley」(2011年)では、そんな数々のキャッチーな名フレーズをメドレー形式の1曲として成立させている。同年2月に日本武道館で行われた『30th ANNIVERSARY HOTEI THE ANTHOLOGY “創世記"』ではオーディエンスがボーカルを務め、丸々2曲を合唱するという一幕があった。ボーカリストがバンド時代の楽曲を歌うことは珍しくないが、ギタリストによるボーカルレスのバック演奏でファンが熱狂するという光景は、他のどこにあるのだろう。布袋ギターの存在感を改めて感じた瞬間でもあった。


 「ドレミファソラシド」という西洋七音階に対して、五音音階と呼ばれるものがある。1オクターブが5つの音で構成される音階であり、スコットランド民謡や中国音楽、日本でも民謡・演歌に見られる四七抜き音階(ヨナ抜き、四番目「ファ」と七番目「シ」を抜いた音階)がこれにあたる。ギターの世界では主にペンタトニック・スケールと呼ばれる、ギターソロやフレーズにおいて使用頻度の高い、“ロックらしさ”を感じるスケールでもある。


 だが、布袋の奏でるフレーズにはこのスケールがほとんど使用されず、通常の西洋七音階にて構成されている。「音階は音が離れていないほうが耳馴染みがいい」「ギターソロは驚かせるものではなく、聴き手をほっとさせたい」「アドリブっぽくならないように」と、BOØWY時代から徹底的に追求した、本人曰く“簡単だけど耳に残るフレーズ”である。それは映画『キル・ビル』の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」のような、ギター弾きじゃなくとも聴いていて退屈にならないインスト曲にも見られる。このキャッチー性、メジャー感ともいうべきセンスとスタイルは昔も今も変わっていない。デジタルロックやDTMという概念が存在しなかった1988年にコンピューターとギターの融合作『GUITARHYTHM』を作り上げ、その後も常に最先端のサウンドと多様なジャンルを追い求めてきたにも関わらず、自己流のスタイルを一貫している。探究志向の強いアーティストに見受けられるような実験音楽的要素はおろか、ヘヴィサウンドにすら傾向しない確固たるスタイルである。
 
 このメロディーメーカーとしてのセンスはギタリストである以前に、作曲者として遺憾なく発揮されていることは説明不要だろう。愛娘に「パパの曲はみんな同じに聴こえる」と言われてしまうのも、ある意味、“布袋節”ともいうべき安心感であり、ここぞというときの伝家の宝刀でもある。


■夢を追いかけてイギリスへ


 ギター、機材選びにも独自のスタイルがある。フェンダーやギブソンといったトラディショナルなギターを特に好んで使うわけでもなく、ギタリストなら誰もが憧れるようなヴィンテージ機材には目もくれずに最新鋭のシステムを作ってきた。使い込まれたボロボロなギターを抱える姿は想像しにくい。トレードマークの幾何学模様、あの布袋モデルでさえ、BOØWY時代から愛用しているのにも関わらず、使い込まれた感がない。昔からイギリスの少年たちの憧れは、真新しいスーツとピカピカの靴で、カッコいいスポーツカーに乗ることであるという。イギリスの偉大なるギタリスト、エリック・クラプトンもジェフ・ベックも今なお、いつも抱えているのはピカピカの真新しいストラトキャスターだ。デヴィット・ボウイやマーク・ボランに憧れた布袋は、自然と英国少年のような心を持つようになったのかもしれない。


 「あのキル・ビルのカバー、最高だったよ!」初めて布袋のステージを見たイギリスのオーディエンスにそう声をかけられることもあるという。50歳にして家も車も引き払い、新たな夢を追いかけるため、憧れのイギリス・ロンドンへ移住した。「世界中どこへ行ってもギターの弦は6本だからね」まさに布袋らしい言葉である。イギー・ポップをゲストに迎えたことで話題となったニューアルバム『New Beginnings』には布袋の声は入っていない。意外にも30数年のキャリアにおいて、ここまでインストに重きを置いたオリジナルアルバムは初めてであり、そこに新たな挑戦と決意を感じる。とは言え、ギタリストのインストアルバムのようなギタープレイに重きを置くというよりも、楽曲を構築する要素としてのギターがそこにある。それはSF映画のサウンドトラックのようでもあり、ドイツの新型照明システムが導入された『JAPAN TOUR 2014 -Into the Light-』にて、ライティングとサウンドが融合するアートのような、誰も観たことのないステージを創り上げた。


 歌とギター、ロックとギター、アートとギター、常にそこにはギターがある。「最新のHOTEIが最高のHOTEI」進化し続けるアーティスト像とともに、布袋寅泰はギタリストというものの存在感を、そして楽器としてだけではないギターの魅力、カッコよさを教え続けてくれるのだ。(冬将軍)



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