生まれつき指先や手首から先、あるいは肘から先が無い人たちがいる。あるいは事故などで失った人もいる。
しかし、彼らがそれぞれの状況に合わせたカスタムメイドの義手を手に入れるには、1万ドル以上などといった高額な費用が必要になる。義手は量産品では無いからだ。それぞれの手の状態に合わせて高度な技術によって作成しなければならない。
しかし、テクノロジーを活かして義手をローコストで製作し、必要としている人たちの役に立てる活動をしようというコミュニティがある。『e-NABLE』だ。
彼らは3Dプリンターを活用して、低コストでカスタマイズされた義手を出力し、必要としている人たちに提供するという活動をしているのだ。
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3Dプリンターを使えば、カスタムメイドの義手が50ドル以下で作れるという。
『e-NABLE』は米ロチェスター工科大学のJon Schull氏らが立ち上げたコミュニティで、義手職人やエンジニア、アーティスト、作業療法士、そして3Dプリンターメーカーなど5,000人以上が参加している。
少女がクリスマスに祈ったのは義手だった
2014年当時、9歳の少女だったSheaちゃんは、生まれつき右手の指が無かった。去年のクリスマスに祈ったのは、義手が欲しいということだった。
しかし、義手は恐ろしく高価でおいそれとは手が出ない。それでもなんとかならないかと、少女の母親はインターネットで情報を探した。
そして見つけたのが『e-NABLE』だった。『e-NABLE』のメンバーは少女の手に合う義手をデザインし、彼女が好きなピンク色の義手をプレゼントした。
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3Dプリンターを活用して作られたこの義手は50ドルもかかっていないが、高額な義手以上に少女の手にフィットしていた。しかも彼女の成長に合わせてアップデートすることが容易なのだ。
そしてこの義手のデータは、他の人たちのデータと同様にオープンソースとして公開された。
Sheaちゃんはその後も『e-NABLE』の義手制作のテスターとして協力を続けている。
そして夏になるとついに、義手を装着してプールに飛び込んでしまった。彼女は義手を使って泳げるかどうかを試してみたのだ。
この結果は、『e-NABLE』にとって、義手が水中でどのような状態になるかというテストになった。
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Googleのインパクトチャレンジで助成金を得る
『e-NABLE』は2015年6月に、Googleから60万ドル(約7,452万円)の助成金を獲得した。
これはGoogleのインパクトチャレンジという、テクノロジーがよりよい社会を作るアイディアをもった非営利団体を支援するプログラムの『Disabilities』部門で選ばれたことによる。
そして、その直後にロサンゼルスで行われた、スペシャルオリンピックスのGoogleのブースを訪れたAriちゃんという少女も、生まれつき左手の指が無かった。
ところが、Ariちゃんが訪れた会場にはサプライズが用意されていた。『e-NABLE』が彼女のための義手を用意していたのだ。
これは『e-NABLE』が自分たちの活動をより広く知ってもらうために行ったのだが、Ariちゃんにとっては嬉しいプレゼントとなった。
テクノロジーが可能にしたコミュニティ
義手の制作には高度な技術が必要であり、使用する人ごとの手に合わせて制作しなければならないため、高額な費用が必要であった。しかも、特に子供は成長するため、義手がすぐに合わなくなってしまうという問題もあった。
しかし、3Dのモデリングソフトと3Dプリンターの技術が進歩し低価格化したため、低コストで高度な義手を制作することが可能になった。しかもデータ化された義手は、成長に合わせて作り直すことが容易だ。
『e-NABLE』は義手を必要としている人と義手を制作できる人、出力できる人達をマッチングするコミュニティだ。
そして、制作された義手のデータは、無料の共有ソースとして利用できる仕組みを用意している。
『e-NABLE』の活動はまだ米国を中心としているが、彼らの支援を必要としている人たちが世界中に居る。
銃やミサイルまで出力を始めた3Dプリンターが、義手も出力できるのだということが、もっと知られるようになれば良いと思う。
【参考・画像】
※ e-NABLE – Enabling The Future