プライベートジェットで「料金後払いの世界旅行」を実現する方法

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2016年02月23日 17:51  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

「いま、手元に五ドルあります。二時間でできるだけ増やせと言われたら、みなさんはどうしますか?」――これは『20歳のときに知っておきたかったこと』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)という本の書き出しだ。スタンフォード大学の起業家育成のエキスパート、ティナ・シーリグが"イノベーションの心構え"を説いた同書は、日本だけで32万部というベストセラーになった。


 冒頭の問いは「どんな問題もチャンスと捉え、工夫して解決できることを示す」ための大学の演習を紹介したものだったが、このたび刊行されたシーリグの新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)でも、別の演習のエピソードが紹介されている。自分の生活では不可能と思えるような挑戦を考える、というものだ。


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 シーリグによれば、イノベーションのカギは、時間も心もうまく配分し、最重要課題に集中することだ(ここで、いわゆる「マインドフルネス」も関わってくる)。そしてもうひとつ重要なことがあり、それを以下、本書の「第6章 フレームを変える――脳に刷り込む」から抜粋する。


【参考記事】心が疲れると、正しい決断はできない


◇ ◇ ◇


 私が学生や企業幹部を対象によくやる演習があります。まず、航空業界や動物園など、ひとつの業界を取り上げ、その業界について当たり前とされていることを挙げてもらいます。つぎに、それとは逆のことを挙げ、常識をひっくり返したらどうなるかを考えてもらうのです。例として、ホテル業界について、あるチームが常識だと考えることを挙げましょう。


・部屋の鍵 ・小さな石鹸 ・旅行客 ・ルームサービス ・廊下の喧騒 ・自宅から遠い ・枕元に置かれたチョコレート ・鍵のついたミニバー ・チェックアウトの時間 ・コンシェルジュ ・部屋のテレビ ・ハウスキーピング ・高い食事代  ・モーニングコール


 こうした常識とされることのひとつひとつは、疑ってみる余地があります。たとえば、チェックインとチェックアウトの時間を柔軟にするには何が必要でしょうか。コンシェルジュではなく、地元住民が案内をしてくれるのはどうでしょう。オープンキッチンがあり、二四時間いつでも好きなときに軽食をつくれるホテルはどうでしょう。飛行機の座席のように、客が部屋を指定できるとしたら。遠方から客を迎え入れるのではなく、地元住民が友人や家族と憩える場としてのホテルも考えられます。自分たちが常識だと考えることのリストを使って、それを逆転してみることで、斬新なホテルのアイデアを思いつくのです。


 映画館について見直したチームもあります。常識だと思うものを挙げ、それを疑ってみると、面白い映画館のアイデアが出てきました。ムービーにかけた「楽して動いて(Move Ease)」は、自転車漕ぎと映画館を組み合わせるアイデアで、観客はじっと座っているのではなく、エクササイズをしながら映画を鑑賞します。映画を見終わった時点で料金を支払えばよく、運動量が多いほど料金は安くなる仕組みにして、しっかり運動するよう促します。


 フレームを変えて問題を捉え直すには、思いきりばかげたアイデアを出す、という方法もあります。詳しくは『20歳のときに知っておきたかったこと』に書きましたが、ばかげたアイデアを考えることは、何ができると思っているのかを探っていくことでもあり、それによって自分の思い込みがあきらかになります。朝食にお菓子を食べる、毎日おなじ服を着る、職場にヒッチハイクで行く、といったアイデアはばかばかしいと思えるかもしれませんが、そうしたものを挙げていくことが、新しい朝食や新しいファッション、そして新しい通勤スタイルのアイデアにつながったりするのです。


【参考記事】起業家育成のカリスマに学ぶ成功の極意


 最近、ある学生グループに、彼らの生活では不可能と思えるような挑戦を考えてもらいました。全員で話し合って出てきたのは世界旅行でした。世界中を旅したいけれど、資金がまったくありません。タダで世界を旅するなんて、とても無理だと思えます。次に、これを実現するのに、最悪と思える案を考えてもらいました。多くのアイデアが出ましたが、そのなかのひとつが、プライベートジェットを予約して料金を後払いにする、というものでした。ばかばかしく、到底理屈に合わないアイデアに思えます。


 そこで、もう一度、ブレインストーミングをして、どうすれば実現できるか考えてもらいました。すると、ものの数分で、うまくいく可能性のある方法が出てきたのです。二〇歳の若者のグループが各国を旅して、現地でビジネスを始める様子を記録したリアリティ番組を制作しようというのです。毎週、違う国や都市を取り上げ、現地のニーズに合わせた事業を考えます。視聴者は、さまざまな地域の暮らしや現地の事業環境を知り、若者が事業を立ち上げる様子を楽しみます。これを実現するために、地域ごとにスポンサー企業を探します。


 こういう風にみると、資金なしで世界を旅行することは、それほど手の届かない目標ではないように思えてきます。学生はこのアイデアをこれ以上深めことはしませんでしたが、問題を違った視点からみると斬新なアイデアが浮かんでくることに気づきました。このようにフレームを変えることが、イノベーションのもうひとつのカギなのです。


◇ ◇ ◇


 シーリグによれば、思い描く未来にたどり着くために必要なことは3つある。第一が起業家的な心構えで、それは『20歳のときに知っておきたかったこと』にまとめたという。第二は、問題を解決し、チャンスを活かすためのツール。それは2作目の著書『未来を発明するためにいまできること』(高遠裕子訳、三ツ松新解説、CCCメディアハウス)で取り上げた。


 そして第三に必要なのが、ひらめきを形にするためのロードマップだ。最新刊『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』のテーマである。このシリーズでは、本書に収められたさまざまなエピソードをいくつか抜粋し、シーリグのメッセージと共に紹介していく。


※スタンフォード大学 集中講義(1):悪行をやり尽くした末、慈善活動家になった男の話


※スタンフォード大学 集中講義(2):レゴ社の「原点」が記されていた1974年の手紙


※スタンフォード大学 集中講義(3):ある女性の人生を変えた、ビル・ゲイツがソファに座った写真


※スタンフォード大学 集中講義(4):やる気の源を尋ねたら、その会社は数か月後に行き詰まった


※次回は2月26日に掲載予定です。


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『スタンフォード大学 夢をかなえる集中講義』


 ティナ・シーリグ 著


 高遠裕子 訳


 三ツ松 新 解説


 CCCメディアハウス


『20歳のときに知っておきたかったこと


 ――スタンフォード大学 集中講義』


 ティナ・シーリグ 著


 高遠裕子 訳


 三ツ松 新 解説


 CCCメディアハウス


『未来を発明するためにいまできること


 ――スタンフォード大学 集中講義II』


 ティナ・シーリグ 著


 高遠裕子 訳


 三ツ松 新 解説


 CCCメディアハウス


スタンフォード大学でティナ・シーリグが行った「5ドルを2時間で増やす演習」をテーマにした講義(2009年)



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