「刑務所ビジネス」に群がる金と企業

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2016年03月14日 17:31  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

 刑務所護送バスの前に立ったセールスマンが、客を車内へと誘導する。鋼鉄製の檻や防弾仕様の窓、ハイテクの監視カメラシステムに、人々は感嘆の声を挙げる。この手の車両のお値段は? 58万ドルほどするらしい。


 護送バスだけではない。ほかにも何百点もの刑務所製品やサービスが、ニューオーリンズで先月行われたアメリカ矯正協会(ACA)の冬季年次総会でお披露目された。主催者によれば、この総会は「刑務所関係者が集う全米最大のイベント」。期間中には数十のワークショップやパネルディスカッションが行われる一方で、展示会フロアでは刑務所をめぐる民間産業の広くて深いビジネスの世界をのぞくことができる。


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 その光景は、一般的な見本市とさほど変わらない。各企業ブースには企業ロゴがプリントされたポロシャツを着た社員が立ち、来場者にペンやトートバッグを無料配布したり、カタログを手渡したりしている。


 開会式のときには、全米屈指の民間刑務所会社であるGEOグループのブースからウエーターが出て、スナックやフィンガーフードを給仕して回った。


 普通の見本市と違うのは、このイベントが一般には非公開で、来場者はほぼ刑務所長や刑務官、州の矯正機関の責任者らに限られている点だろう。展示会の出展者たちは皆、全米で800億ドルにも上る刑務所産業の分け前にあずかろうとしている。


 展示された技術の粋を見るには、実際に会場に行くしかない。コンベンションセンター全域で写真撮影は厳しく禁止されている。今年は全米から240以上の出展者が商品を持ち込み、6日間のイベントで6メートル四方のブースに最大8600ドルの出展料を支払った。


 護送バスのほかにも、売店販売用の食べ物、拘束椅子、エクササイズマシン、拳銃、防護フェンス、監獄用照明、そして当然ながら鍵や手錠なども出展されている。ドイツのデドローン社によるドローン検知システムも登場した。


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本末転倒につながる可能性も


 このイベントでひと儲けしようとしているのは、企業だけではない。多くの州で刑務所は過密状態にあり、関係者は運営費に頭を悩ませている。彼らが期待するのが民間企業からの支援。つまり、刑務所内で受刑者に販売する商品(電話から売店グッズ、電子たばこに至るまで)を卸す企業から手数料を受け取ることで、費用の一部を賄っているのだ。


 主催者のACAはバージニア州アレクサンドリアを拠点とする非営利団体で、アメリカの矯正協会としては最大かつ最古の組織だ。ACAは国内の刑務所の質や基準などを認証評価するシステムでよく知られているが、活動費の収益源は圧倒的にこの年次総会に頼っている。


 2014年大会での収入は900万ドル、利益は99万7000ドルに上った。展示ブースに加え、ACAはさまざまなスポンサーも募っている。例えばGEOグループは来場者バッジに企業名を入れて6000ドルのスポンサー料を支払った。刑務所用電話の通信事業者テルメイトは、充電ブースの設置でやはり6000ドルを出資している。


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 民間の刑務所見本市というアイデア自体、誰しも感心するたぐいのものではない。「収益のために受刑者を収容するというシステムそのものが、良からぬ動機を引き起こす原因になる」と、アメリカ自由人権協会ニューオーリンズ支部長のマージョリー・エスマは言う。それが行き過ぎれば、軽微な犯罪で多くの人を刑務所に入れようということになりかねない。


 最たる例はルイジアナ州だ。その受刑率の高さから「世界の刑務所の首都」と呼ばれる同州は、成人人口10万人のうち受刑者が1420人で、全米最大の比率だという。「受刑者を物と見なし、本質的に人間を商品化した司法システムがまかり通っている」と、ニューヨーク・タイムズ紙は指摘している。


「良からぬ動機」は、刑務所関係者の不正につながる可能性もある。ニューオーリンズでは州保安官が州法に違反して受刑者の医療システムに関する高額契約を結んだ例もあったし、ルイジアナ州で刑務所長がサイドビジネスに手を染めていたことが発覚したケースもあった。


 もちろん、ACAの大会はただの展示ブースの場ではない。1階では展示会が行われているが、2階では刑務所長経験者や学者らによる数々のワークショップが開催されている。主要なテーマは司法システム改革だ。


金がかかり過ぎるからこそ儲かる


 興味深いことに、パネリストの中には刑務所産業をめぐる巨額の運営費を問題点として追及する人もいる。まさにそれこそが、この大会をここまで成長させた原動力だというのに。コロラド州の超巨大刑務所の元所長ボブ・フッドによれば、全米の州刑務所に収容される20万人の受刑者に掛かる費用は約70億ドルで、司法省予算の25%を占めるのだという。


 階上でのディスカッションが知性に訴えるものだとするのなら、階下の見本市では商売心に訴えるイベントが繰り広げられている。出展企業に配られたパンフレットの中で、ACAはこのイベントで「最大限の投資利益率を挙げる」コツを紹介している。彼らが言うには、「ブースでは景品やくじで来場者の関心を引く」といいらしい。


 さらにこう記してもいる。「2016年のこの大会が実り多きものとなり、貴社が高い利益を挙げられますように」



[2016.2.16号掲載]


エリック・マーコウィッツ


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  • 例えば辺野古事業、防衛省の天下り先が8割受注、730億円分。日本では愛国利権に群がる守銭奴も「愛国者」のフリをしてウヨウヨ。
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