研究開発を加速する中国、足を引っ張るトランプ

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2017年10月28日 14:52  ニューズウィーク日本版

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ニューズウィーク日本版

<自動車や再生エネルギーの分野のイノベーションで、今後アメリカは中国に大きく後れを取りかねない>


中国共産党大会と言えば、堅苦しくて退屈という印象が強い。しかし、今回の党大会は、(民主主義と人権の面では大きな問題を抱えているが)力強く成長する中国を印象付けた。その姿は、政治が機能していないように見えるアメリカとは対照的だ。


最近の両国のエネルギー、自動車、研究開発に関する政策を比べると、中国が未来の世界を形作ろうとしているのに対し、アメリカは過去に退行しつつあるように見える。トランプ政権の政策がアメリカの相対的な衰退を加速させかねないのだ。


中国は、16〜20年に合計1兆2000億ドルを基礎的な研究開発につぎ込むことを決めている。このうち3730億ドルが再生可能エネルギー関連だ。研究開発予算は、20年までにアメリカを追い越すと予測されている。


習近平(シー・チンピン)国家主席は、大量の石炭を消費する経済から脱却し、太陽光エネルギーへの転換を図る方針を強く打ち出している。太陽光発電技術で世界の先頭を走っており、最近はバイオ燃料にも力を入れ始めた。


中国は既に世界最大の自動車市場で、昨年販売された電気自動車とハイブリッド車の台数はほかの国全ての合計より多い。中国政府は9月、将来的にガソリン車を禁止する方針も明らかにしている。


保護主義というゾンビ


一方、アメリカ政府は正反対の方向に進んでいる。トランプ大統領は、自動車の燃費基準を緩和しようとしており、再生可能エネルギー開発への支援も大幅に削減した。アメリカの研究開発予算はこの半世紀にわたり減り続けてきたが、トランプはそれをさらに17%削減する意向を表明している。


中国共産党大会の演説で習が中国の台頭を宣言するのを聞いて思い出したことがある。私は数年前、「世界におけるアメリカの経済的・軍事的リーダーシップを守る」ためのプログラムに関わったことがあった。


アメリカ政府が私に見解を尋ねてきた。先方が知りたがったのは、以下の点だ。アメリカの経済的・軍事的な「君臨」を永続させるために不可欠な――言い換えれば、外国との競争から守るべき――技術やプロセスや製品はどれか。アメリカの大学が科学と工学の分野で中国人などの外国人留学生を大勢受け入れていることは、アメリカの国益を損なっていないか。


このたぐいの発想はなかなか滅びない。歴史上、保護主義が機能しないことは実証済みのはずだが、ライバルの猛追を受けたり、追い抜かれたりすると、保護主義に走りたいという衝動がゾンビのようによみがえってくる。


私はこのとき、そのゾンビを葬り去るために最善を尽くしたつもりだ。具体的には、次のように主張した。テクノロジーは進化のペースが速く、特定のテクノロジーを守ろうとしてもすぐに時代遅れになってしまう。それに、アメリカが経済とテクノロジーで世界の先頭を走っているのは、経済と社会の変化を恐れず、大学と産業界が研究開発に取り組んできたからだ。


当時、アメリカで学んだ中国人大学院生の80%は修了後も帰国せずにアメリカにとどまり、経済と社会に計り知れない貢献をしていた。アメリカの経済力と軍事力の源である科学とテクノロジーの分野では、特にそれが顕著だった。


この傾向は、現在はさらに強まっている。アメリカの大学で学ぶ外国人学生の3分の1を中国人が占めており、その半分以上はアメリカにとどまるつもりでいるのだ。こうした人たちが次のグーグルや次のフェイスブックをつくるのだろう。


現在のアメリカと中国の政治を見ていると、このまま行けば、やがて誰もが中国製の電気自動車に乗る時代が現実になるように思える。もちろん、動力源は、中国の太陽光発電技術が生み出すことになる。


その時代が訪れたとき、アメリカが君臨する世界秩序「パックス・アメリカーナ」は、歴史の教科書の中にしか存在しなくなっているだろう。


<本誌2017年10月31日号掲載>


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グレン・カール(元CIA諜報員)


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