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「この音楽が鳴ったら世の中はどう変わるんだろうということを考えています」――いしわたり淳治インタビュー(前編)

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2018年02月27日 17:03  新刊JP

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新刊JP

写真インタビューに答えるいしわたり淳治さん
インタビューに答えるいしわたり淳治さん
一緒に飲んでいる女性をお持ち帰りすべく、必死に誘う男性。しかし、「私、顔色を読むことができるんだ」と言うその女性は、気のない返事をしてばかり。
もう終電も終わり、いよいよというときに女性は「友達の家に行くね」と言って去っていってしまう。一体なぜ女性は男性の誘いを断ったのだろうか。「そいつの家に泊まりに行けばよかったじゃん」と言う友達に、その女性は衝撃の理由を告げる。

「そいつさぁ、会ったときからずっと、顔に――」

シンプルだけれども大胆。最後まで予測がつかない。油断をしていると思わぬところで面を食らう。ブラックユーモアで包み込まれたストーリーは、どこか教訓めいていて、それでいて爽快でもある。この本がベストセラーになっているのも頷ける。

日本のロックが好きな人ならば、「いしわたり淳治」を知らない人はほとんどいないだろう。青森県出身。1995年にスーパーカーを結成し、1997年にメジャーデビュー。バンドではギターと作詞を担当し、当時から一線を画す才能を見せていた。2005年にバンドが解散すると、作詞家・サウンドプロデューサーに転身。チャットモンチー、9mm Parabellum Bulletm、ねごとをはじめ、ジャンルを問わず幅広いミュージシャンを手掛けている。

そんないしわたりさんが執筆した2冊の本――『うれしい悲鳴をあげてくれ』と『次の突き当たりをまっすぐ』(ともに筑摩書房刊)は、タイトルからうかがえるように“ひねくれていて”“痛快な”ショートショートが収められた短編集である。

冒頭に取り上げた物語は、20万部を突破している『うれしい悲鳴をあげてくれ』のオープニングを飾る「顔色」という作品のあらすじだ。本作のオーディオブック版ではロックバンド「チャットモンチー」の橋本絵莉子さんが朗読していることでも話題だ。

音楽でも言葉でも、私たちを魅了し続けるいしわたりさん。この人は一体普段、どんな目線で物事を見ているんだろう――。スーパーカーがかき鳴らす音楽を浴びて思春期を送った私、新刊JP編集部の金井は、その目の奥に映っている景色について探ってみることにした。

取材、構成、写真:金井元貴(新刊JP編集部)

■「全てのアイデアが5分の尺で生まれるんです」

――まずは『うれしい悲鳴をあげてくれ』からお話をうかがいます。本作はもともと10年前に出版された本で、執筆当時、いしわたりさんは20代。その頃の文章が文庫版になりベストセラーとなっている心境はいかがですか?

いしわたり:単純に恥ずかしいですよ(笑)。これはショートショートだけじゃなくて、エッセイも収録されていますけれど、特にエッセイの方が恥ずかしい。

最初に書いたエッセイが2003年かな。エッセイってタイム感が大事じゃないですか。スマホもなかった時代だし、最近自分を知った人が何も知らずに読んだら、「この人、ずいぶんアナログだなあ」と思うでしょうね。

――自分で書いた文章を読み返すことはあるんですか?

いしわたり:音楽もそうですが、あまり振り返らないですね。そういうポリシーとかではないんですけど、振り返るよりも明日のこと考えた方がいいですから。

――この本は、音楽雑誌『ロッキング・オン・ジャパン』の連載に書き下ろしを加えた一冊です。雑誌に掲載された日付を見ると2005年まではエッセイが中心、2006年以降にショートショートが出てきます。これは何か心境の変化があったのですか?

いしわたり:もともと連載のオファーを受けたときに、「エッセイを書いてほしいけれど、それがリアルである必要はない」という注文を受けまして。つまり、「7割くらい本当で、3割くらいは非現実のようなもの」を書いてほしいと。

だから、最初は戸惑いながらもエッセイを書いていたんですけど、書き始めて1、2年くらいしたところで、「それって小説のことなんじゃないの?」と気付いて、しれっとショートショートに変えてみたんです。

――当時の『ロッキング・オン・ジャパン』の編集部の反応は…。

いしわたり:誰にも何も言われなかったです(笑)。

――個人的には、2005年にスーパーカーが解散して、いしわたりさんの中で何か変化があったのかなと思いました。

いしわたり:読者からはそう受け止められていたのかもしれないですね。色々と過渡期だった頃なので。

――ショートショートは元から書いていたのですか?

いしわたり:実は後で言われるまで、自分が書いているものが「ショートショート」というジャンルに当てはまることを知らなかったんです。2500文字という制限があったので、その制限の中でフィクションを書く、ということしか頭になかったですね。

その中で意識したことは、話の入り口と出口に距離をつくることです。物語がひっくり返ったほうが面白いかなと思って。僕は普段ほとんど本を読まないんですけど、そんな人間が間違えて書き始めてしまった感じです。

――短い文字数でオチをつけて物語をまとめるって、文章的にも物語を作る上でも高い技術が必要です。その意味で「本をほとんど読まない」という言葉は意外です。

いしわたり:全てのアイデアが5分の尺で生まれるんです。音楽は一曲あたり最大でも5分で、その中でオチをつけたり、表現をしきらないといけない。もはやそれは体質みたいなところがあります。アイデアの自己管理は5分以上できないんですよ(笑)

■「この音楽が鳴ったらどういう世の中になるのかというところまで考えている」

「全てのアイデアが5分の尺で生まれる」。バンドメンバーとして、作詞家して、プロデューサーとして一曲一曲の音楽と向き合ってきたいしわたりさんだからこその言葉だった。それが「2500文字」という極めて制限性の高い文章表現の世界に落とし込まれたときに、核融合が始まる。では、その元になっているアイデアはいかにして生み出されるのか? 一番聞きたかったことに入り込んでゆく。



―― 一篇が5分で読み切ることができる。まさに「5分間の文学」と言いますか。

いしわたり:僕自身は文学とも思っていないですけどね。斜めから物を見た、その瞬間を切り取って文章で表現している感じです。

一番面白いところを抜きとって肉付けすることはできるけれど、登場人物の細部まではきっちり詰めることはできない。純文学といいますか、一人の人間の生き様を長編で書いてほしいと言われたら途方に暮れると思います(笑)

――斜めから物を見るというお話についてもう少し教えていただけますか?

いしわたり:おそらく、誰もが多かれ少なかれ生きにくいと感じていたり、悩みがあったりしますよね。じゃあ、なぜそう思ってしまうかというと、ずっと同じ方向から悩みを見ているからだと思うんです。同じ対象でも別の角度から見れば、見え方が変わるということはよくあります。裏から見たり、斜めから見たりすることでね。

そうして色んな側面から見ていくと、自分が見ていた物事とは全く別のものが見えてくる。裏の裏は表だと思うかもしれないけれど、実はそうではないということもたくさんあります。

『次の突き当りをまっすぐ』に入っている「面接」という話では、まず面接を受ける人が自分の読んでいるビジネス書をフル活用して完璧に面接をこなそうとします。そして最後に面接官は面接を受けに来た人がどんな本を読んできたかを見抜くわけですが、さらにそこから面接官としての素質があるかどうかを審査する老人がいるという、二重構造にしています。ある面を反対側から見て、さらに反対側から見ても、元の場所に戻らないというわけです。

物事は立体的です。だからこそ、違う角度から見ることができれば、苦しい明日の見え方が変わるかもしれない。こういう視点の変換が、日々抱えているしんどさを解決するきっかけになってもらえれば嬉しいですね。

――スーパーカーの頃から作詞を手掛けていましたが、ずっとそのようなことを考えていたのですか?

いしわたり:スーパーカーの頃はもっとストイックでしたね。世の中を俯瞰的に見るようになったのは、作詞家になってからですね、世の中的な視点を得たといったほうがいいかもしれない。

――「世の中的な視点を得た」というのは?

いしわたり:時代が何を求めているのか、この音楽が鳴ったらどういう世の中になるのか、みたいなところまで考えるということです。

スーパーカーの頃は、いつも目の前に自分たちのファンがいましたし、そこに向けて音楽を鳴らすという感覚が強かったので、「今までこういう歌詞を書いていた自分が次にこんな歌詞を書く」みたいな、自分の中のテーマとの戦いに終始していたのですが、作詞家やプロデューサーになると、より本質的なものを求めないといけなくなるというか。自分との戦いなんて本当に小さな問題になって、世の中を面白くするにはこう表現してもいいんじゃないか…というような発想をすることが多くなりました。

――その「斜めから物を見る」という視点はどのようにして培われたのでしょうか。

いしわたり:本はそんなに読まないんですけど、テレビはめちゃくちゃ見ます。テレビの勢いがないとか言われていますが、やはり今も昔も時代を映す箱であることには変わりないと思います。

流行はテレビから生まれますし、0円のエンターテインメントなのに、発信する情報に責任を持たないといけない。コンプライアンスが取り沙汰にされることも多いですが、なんだかんだ良心が詰まっているんですよ。(テレビには)ある種のクリーンさがあって、ある種の下世話さがある。その温度感が絶妙ですよね。

――「テレビが面白くなくなっている」という声もありますが。

いしわたり:僕は正直、面白くなくてもいいんです。そのときは、「面白くない理由はなんだろう」「どうすれば面白くなるんだろう」と考えてみればいいじゃないですか。それが自分の仕事にフィードバックされるなら、それだけでも十分に意味がありますし。「あー、笑った」もいいけれど、「あー、つまんかった」も役には立つんですよね。

――気になっているテレビ番組はありますか?

いしわたり:テレビ朝日の『激レアさんを連れてきた。』は面白いですね。激レアな経験をしてきた人たちのエピソードを紹介する番組なんですけど、ノンフィクションのはずなのにフィクション感が半端じゃないんです。

「事実は小説よりも奇なり」とは言ったものですが、よく考えるとテレビって変な人じゃないと出られないんですよ。でも、今はその「変さ」に嘘はないということを視聴者は求めていて。こういう番組を見ると「やっぱり本物には敵わないな」と思います。

――いしわたりさんご自身もテレビから仕事に落とし込んでいる部分があるのですか?

いしわたり:今の話で言うと、「変なところがないと見つけてもらえない」というのは意識しているかもしれません。でも、作られた「変」は時代が求めていないので、プロデュースをする際はその人の一番変なところをまず探すようにしています。偏った趣味はないか、パーソナリティでエッジの立った部分を探します。もしかしたら、その部分しか商品にならない時代と言ってもいいのかもしれませんね。

(後編「人気音楽プロデューサーが語る、『生きづらさ』を受け流す知恵」は3月6日配信予定!)

■いしわたり淳治さんプロフィール

1977年生まれ。青森県出身。作詞家・音楽プロデューサー。
1997年にロック・バンドSUPERCARのメンバーとしてデビューし、オリジナルアルバム7枚、シングル15枚を発表。そのすべての作詞を担当する。2005年のバンド解散後は作詞家としてSuperfly「愛をこめて花束を」他、SMAP、関ジャニ∞、布袋寅泰、今井美樹、JUJU、Little Glee Monster、少女時代、SHINee、剛力彩芽、chay、手嶌葵、大原櫻子、中島美嘉など、音楽プロデューサーとしてはチャットモンチー、9mm Parabellum Bullet、flumpool、ねごと、NICO Touches the Walls、GLIM SPANKYなどジャンルを問わず数多くのアーティストを手掛ける。現在までに600曲以上の楽曲制作に携わり、数々の映画、ドラマ、アニメの主題歌も制作している。2017年には映画「SING/シング」の日本語歌詞監修を行い、国内外から高い評価を得る。音楽活動のかたわら映画・ファッション・音楽雑誌等で執筆活動も行っている。著者に『うれしい悲鳴をあげてくれ』(筑摩書房)がある。ソニー・ミュージックエンタテインメント REDプロジェクトルーム所属。

ブログ「KIHON THE BASIC」
http://kihon.stablo.jp/

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