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「変」の哲学で成長 名古屋発「世界の山ちゃん」の絶妙な名付けと看板の戦略

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2019年04月16日 05:12  ITmedia ビジネスオンライン

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ITmedia ビジネスオンライン

写真インパクトのある店名と看板
インパクトのある店名と看板

 名古屋名物の手羽先をウリとする居酒屋チェーンとして名高い「世界の山ちゃん」。



【幻の手羽先】



 看板商品であるこしょうを効かせた甘辛い「幻の手羽先」の魅力もあり、地元の名古屋と東京を中心に店舗を増やしてきた。愛知県34店(テークアウト専門4店)、東京都19店、神奈川県3店、埼玉県3店、岐阜県2店、三重県1店、大阪府5店、京都府2店、広島県2店、熊本県1店、北海道1店と、国内72店を展開。そのうち、元従業員がのれん分けで独立開業したFC(フランチャイズ)店が6店ある。



 海外にも香港2店、タイ3店、台湾2店、マレーシア2店の計9店を出店していて、アジア圏で地歩を固めつつある。「世界の山ちゃん」とは、ずいぶんと大それた屋号だと思っていたら、いつの間にか本当に世界に進出していた。



 今回は世界の山ちゃんのユニークな発展の軌跡を追って行く。



●「変」の哲学とは?



 最近は、名古屋を訪れた人の観光コースとなっており、インバウンドを含めて、団体客が大挙して訪れる光景がよく見られる。



 主力商品の幻の手羽先はビールとよく合う。1人前(5本)が450円(税抜)という大衆的な価格と相まって、サラリーマンに親しまれている。そこに、観光客が加わって多くのお店は賑わっている。



 実際、名古屋に行くと繁華街のあちらこちらに、デカデカと創業者の山本重雄氏をモチーフにした、「鳥男」のキャラクターが描かれた同店の看板を目にする。初めて見た人は「“世界の”って何だろう?」と、思わず足を止めてしまうだろう。幻の手羽先も「何がいったい“幻”なのか?」と、気になってしまう。



 実は、「“世界の”って何だろう?」「何が“幻”なのか?」と、人々に印象付けるのが世界の山ちゃんの戦略。経営するエスワイフード(名古屋市)は「立派な変人たれ」を社是としている。



 同社の目指す「変」には、「ユニークで面白い事」と「変化していく事」の2つの意味がある。そして、その「変」の哲学が凝縮されているのが、いっぷう変った屋号と主力商品の名称なのである。



●「世界の山ちゃん」以外の飲食店も経営



 エスワイフードの年商は78億円(2018年8月期)、資本金9900万円、従業員数1470人(正社員170人、アルバイト1300人)となっている。順調に行けば、今期は80億円を超えていくだろう。



 世界の山ちゃんは同社の主力業態で、主たる顧客層は30〜50代のサラリーマン。顧客単価は2500〜2600円となっている。100席を少し切るくらいの規模の店が多く、大きく看板が出せない場所には出店しない。



 この他に愛知県内でラーメン「やどがり屋」2店、創業店を復刻した「串かつ・やきとり やまちゃん」、新業態の飲茶「世界のやむちゃん」など計7店が展開されている。



 世界のやむちゃんの屋号は、世界の山ちゃんと語感が似ているという理由で採用されており、「変」の哲学の実践例だ。名古屋に飲茶の店がないことから企画された店で、店の内装も台湾の裏町や路地が再現されて凝っている。滑り出し順調で、第2の柱となるかどうか、注目されるところだ。



●海上自衛隊の調理班で働いた創業者



 創業は1981年。創業者の故・山本重雄氏が、名古屋市中区新栄で開業した。山本氏は高校卒業時に「料理人に進むか」「警察官のような国を守る仕事に就くのか」という選択に迷った。海上自衛隊の調理班なら両方できるとアドバイスする人がいて、その忠言に従い自衛隊に入隊した。



 調理班でキャリアを積み、お店を経営して1億円をためて金利で生活することを夢見て退官。当時の銀行の金利は、今と違って8%くらいあったのだ。居酒屋で3年間修業し、24歳で起業した。



 最初はカウンターだけの小さな店で焼き鳥と串かつをメインで売っていた。串かつは大阪風の1口サイズではなくて、岡崎の八丁みそを使ったみそだれ(土手煮の煮汁)にドボンと漬けた名古屋の串かつであり、串に巻いた豚肉を揚げていた。



●「宇宙の山ちゃん」だったかもしれない



 現在、創業店はないが復刻店の「串かつ・やきとり やまちゃん」で、往年の雰囲気が再現されている。カウンターと丸パイプの椅子を並べた屋台のような雰囲気で、会社帰りにサラリーマンがふらっと気軽に立ち寄れる店だ。



 山本氏が店をオープンして2年ほどしたある日、本来なら「ハイ! やまちゃんです」と言わなければならないところ、アルバイト店員が冗談で「ハイ! 世界のやまちゃんです」「ハイ! 宇宙のやまちゃんです」と、軽いノリで電話を取っていた。それを横で聞いていた山本氏は、怒るどころかいたく感激。



 「世界のやまちゃんって夢があるね」と、店名の変更を決意した。世界の山ちゃんの屋号はこうして、瓢箪(ひょうたん)から駒というか、偶然に生まれたのだ。



 その頃の名古屋では「風来坊」によって開発された手羽先が人気を博し、多くの店でメニューとして出すようになってきていた。やまちゃんでも、今のようにメインではなかったが、手羽先も販売していた。



 それまで、手羽先はスープを取るのに使うくらいで、基本的には使い道のない部位だった。風来坊は手羽先を甘めに味付けしたが、やまちゃんはこしょうをたっぷり効かせた辛口で差別化した。当時、スナック菓子「カラムーチョ」などがヒットしており、激辛ブームが到来していた。これは、やまちゃんには追い風だった。



●「幻の手羽先」が生まれた背景



 ある日、この店の手羽先を気に入っていたお客の1人が、「ここの手羽先はおいしくてすぐなくなっちゃうね。まるで幻なんだよな」と、酔ってふと漏らした言葉に、山本氏はいたく感激。そのお客の許諾を得たうえで、「やみつきになる」という意味を込めて手羽先の商品名を幻の手羽先へと変更した。



 この命名により、激辛ブームの後押しもあって、単なる手羽先からメイン商品へと羽ばたいていくのである。



 どこにでもあるような小さな飲み屋は、幻の手羽先を販売する世界の山ちゃんという、キャッチーで専門的な店にいつしか変貌し、立派な「変な店」になった。



 そして、立派な変な店になったからこそ、チェーンとして広がった。



●「鳥男」の誕生秘話



 鳥男のキャラクターが生まれたのは、98年であった。この頃の山本氏は経営の勉強も兼ねて異業種交流会に参加していたが、そこで名刺交換したとある社長のイラスト入りの名刺にいたく感激。早速、絵師を紹介してもらい、山本氏をモデルとしたユーモラスなイラストが完成した。



 「もうこれを看板にするしかない」と、栄店の看板から鳥男が登場するようになった。屋号も「世界のやまちゃん」から新規の店は「世界の山ちゃん」に変更された。同社によれば、今までと比べて少し高級感あるメニューを取り入れて『大人の山ちゃん』を目指したという。



 当時の店舗数は9店だったので、鳥男がイメージキャラクターになって以来の発展が目覚ましい。これも、「変」の哲学の実践である。



 05年の愛知万博によって、名古屋に対する関心が高まり、万博見学ばかりでなく名古屋観光の需要も喚起した。観光で注目されたのは、名古屋城などの名所旧跡と共に、独特の食文化である“名古屋メシ”であった。これを機会に、名古屋式喫茶、モーニング、ひつまぶし、みそかつ、みそ煮込みうどん、あんかけスパゲティ、きしめん、台湾ラーメンなどといった、名古屋メシがブレークし、観光客にとって名古屋を訪問する目玉の一つとなっていく。



●愛知万博を見越して東京進出



 世界の山ちゃんは、名古屋発祥の手羽先をメインとする居酒屋であり、幸運にもその波に乗った。



 01年ごろから、関東には「ゼットン」「かぶらやグループ」「ジェイグループ」などの名古屋出身の外食企業が進出しており、いずれも成功を収めていた。名古屋メシが既にトレンドになっていたのだ。



 愛知万博を見越して世界の山ちゃんも、03年に京急川崎駅近くに関東1号店となる川崎砂子店をオープン。さらに、04年に新大久保店を出店して、東京都内に初進出を果たした。



 03年に27店だった店舗数は、04年には35店に増えた。さらに、05年には47店に増え、06年に50店に到達した。その後も、順調に出店を重ね14年に海外1号店となる香港尖沙咀店をオープンしている。



●効率化とドミナント戦略



 世界の山ちゃんの経営の特徴として、「変」の哲学は確固としてあるのだが、効率性の追求も見逃せない。



 山本氏の創業店は、1人で切り盛りするような小さな店だった。工程を省くためにこしょうなどのスパイスは最初に全部ブレンドし、手羽先の先っちょも他店のようにカットせずそのまま揚げている。それが今は、この店の個性となっている。



 また、世界の山ちゃんの鳥男が入ったデカデカと掲げられる看板は視認性が高く、名古屋に行くとどこにでもあるような錯覚を抱かせる。しかし、実際は栄・錦、名駅、金山の3地区に集中しており、名古屋市外で愛知県内にある居酒屋店舗は岡崎市に1店あるのみだ。名古屋ではこれら3地区に人の流れが集中しているので、ドミナント戦略を取っているのだ。



 「看板はできるだけ大きく、ビルの1つの階を占めるくらいの大きさであったり、壁一面に鳥男のイラストが描いてあったりと、自由に表現しています」(エスワイフード経営支援本部本部長・総務部部長、潟見正志氏)。



●重視する「名古屋感」



 世界の山ちゃんが重視するのは、「安心感」「スピード感」「お得感」「特別感」「名古屋感」。最初の4つは店舗ビジネスの基本のようなものなので納得するが、名古屋感の重視は名古屋発祥企業の矜持(きょうじ)だろう。



 メニューでは、特に名古屋色を鮮明にしており、手羽先の他にも、みそ串カツ、どて煮、みそ味もつ鍋、みそとんかつ、海老天むす、名古屋コーチン入り鶏団子南蛮、あんかけスパゲティ、鉄板ナポリタン、台湾もつ鍋、台湾やきそば、台湾ラーメンの具(台湾ラーメンの具だけをメニュー化した商品)、などといった名古屋メシが味わえる。



 創業者の山本氏は16年に急逝したが、2代目社長に細君の久美氏が就任している。山本氏の築いた「変」の精神は、どうすれば顧客にもっともっと楽しんでもらえるのかを追求した結果生まれた。台湾ラーメンの具をメニューにして出していることや、最新の新業態の店名「世界のやむちゃん」からも、2代目になってもエスワイフードは不変に「変」であり続けていることが分かる。それが企業発展の礎となっているといえるだろう。



(長浜淳之介)


このニュースに関するつぶやき

  • 風來坊の ことも 忘れないで あげて 下さいねw https://youtu.be/SSyAiI1BH_k
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  • このオッサンの絵を見ると、いつも「ツボイノリオ?」と思ってしまう。
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