日本漫画家協会オークションで落札した高額サイン色紙  劣化させないにはどうしたらいい? 額縁専門店で聞いてみた

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2022年10月23日 09:41  リアルサウンド

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■漫画家のサイン色紙を飾りたい!

 大きな話題となっている日本漫画家協会のサイン色紙オークションでは、ついに400万円近い高額落札が飛び出すなど、より反響を呼んでいる。また、落札後に森川ジョージがメインスピーカーを務めるツイキャスは、毎回豪華なゲストが登場し注目されている。


 特に、森川とつくしあきひとのトークは掛け合いの漫才を見ているようでとても楽しい。実際にオークションに入札している人も、そうでない人も楽しめるのが、今回のオークションの魅力といえるだろう。


 さて、入金を終えた落札者のもとにはすでに色紙が届き始めているようだ。筆者もこのたび、念願だった里中満智子の色紙を落札することができて、大満足である。


話題の日本漫画家協会オークションで、里中満智子の色紙を52万6000円で落札! 到着までを完全レポート


筆者が落札した里中満智子の『天上の虹』の色紙。額田王が描かれている。

 言わずもがな、漫画家の色紙は一点ものであり、日本が世界に誇る美術品と呼ぶにふさわしいものだ。そうした貴重な逸品はどう保存しておくべきなのだろう。


 結論から言えば、保存を考えるなら、湿度が適正に管理されている暗室や防湿庫に入れておくのが最適だ。飾る場合も実物ではなく、コピーした複製を飾っておくほうが変色などの劣化は防げる。とはいえ、やはりコピーでは味気ないし、しまい込んでおくのももったいない。実物を額に入れて飾りたくなるのはファン心理というものだ。いったいどうすればいいだろうか。


 そんな時は、額縁を扱う専門店に相談するのがおすすめだ。絵の退色や、紙の経年変化を防ぐ特別な額を注文することも可能という。参考になればと思い、筆者が実際に専門店で額をオーダーしてみることにした。


■お金をかけるなら見えないところに

 今回訪問したのは、千葉県大網白里市ある画材・額縁専門店『フレーム』だ。大網駅から歩いて約15分、閑静な住宅街に店舗がある。


 迎えてくれたのは久永隆夫工房長である。額を製作する職人でありながら、自ら絵を描き、デッサン教室の講師も務めている。また、娘の久永フミノはイラストレーター、画家でもある。実は、筆者は久永フミノに過去にイラストの仕事を発注した縁で、色紙の落札を話したところ、「ぜひ私の店で作らせてください!」と連絡をもらった。それならばと、相談に行くことになったのである。


右から、久永隆夫工房長とイラストレーターでもある久永フミノ。店内には画材のほか、額のサンプルが所狭しと並ぶ。フレームは自社の工房があるため、顧客のきめ細やかな依頼に対応できるのがウリだ。

 そもそも、色紙用の額はどのくらいで購入できるのだろうか。


 「一般的な色紙の額はホームセンターでも売っていますし、当店でも3千円くらいから購入できます。対して、オーダーメイドの額は、3万円、5万円、10万円など青天井になっていきますので、まずはご予算と、どんな作品を飾りたいのかというイメージを先に伝えていただければと思います。棹(額の縁の部分)のデザインをゼロから起こすことも可能ですし、既製品の棹を使ったオーダーなら、だいたい10日間くらいで仕上がりますよ」


 額といえば、棹のデザインを凝るのが一般的である。久永工房長はむしろ、中身の作品と直に触れるような、見えない部分にこそこだわってほしいと話す。


 「額に入れたら安全なのではありません。額に入れたまま放っておくと、かえって作品の劣化を速めてしまうこともあります。マットボードと呼ばれる台紙の内側の縁、すなわち色紙と接触する部分から化学反応がおき、劣化が進むこともあります。長く壁に飾っておくのであれば、この接触する部分に特殊なフィルムを取り付けることがおすすめです。棹のデザインは、その次ぐらいに考えてほしいですね(笑)」


オーダーの際には、色紙の原寸大のコピーを持っていくのがおすすめ。仕上がりがイメージしやすくなる。マットボード(黒い部分)や、棹のサンプルも豊富にあるため、コピーに当てながら理想の額を作り上げていきたい。 棹の選び方で作品のイメージはがらりと変わる。また、飾る部屋の雰囲気に合ったものを選ぶことも大切だろう。


■劣化を防ぐためにはどうする?

 久永工房長は、画材を扱う企業で長年仕事に従事した経歴をもち、油絵、水彩画の額装はもちろんだが、プロの漫画家の原画の額装も何度も手掛けたことがあるそうだ。ゆえに、常に作品の劣化を防ぐ額装を心掛けているという。


 「私がお話した修復家の先生の中には、『絵画を劣化させているのは額縁屋だ』と言っている人もいました。色紙や絵画の寿命はオーナーよりも長いのが普通です。次の世代に作品を受け渡すためにも、経年変化を可能な限り抑えるのがオーナーの努めだと思います」



経年変化の例として、裏板に使われている木材のヤニが、作品の裏側に移ってしてしまうこともあるのだとか。また、高温多湿な日本では湿気も作品の大敵だ。湿気の強い場所に飾ると、色紙が水分を吸って波打ってしまったり、カビが生えてしまう事例も少なくないという。

  では、経年変化を速めてしまうのはどんな行為なのだろうか。例えば、色紙と裏板の間に挟むことが多いボール紙は、色紙に使われた紙の劣化を速めてしまう要因となるため、おすすめできないという。日本は湿度も高く、季節による気温の差が激しいため、ビニールに入れたままだとカビが生える恐れがある。そして、最大の敵は直射日光や照明の光だ。漫画家の色紙は、水彩絵の具やアルコールマーカーなどの画材で描かれることが多く、光を当て続けると次第に色褪せ、当初の美しさが失われてしまう。


 「美術館で定期的に作品の入れ替えをするのも、経年変化を防ぐためです。美術館ほど空調や管理体制がしっかりしている場所でも、そこまで気を使っているわけです。特別な設備がない一般家庭では、なおさら作品の経年変化が進んでしまうことがわかりますよね。居間や玄関に絵をずっと飾り続けている例がありますが、たまには取り外して作品を休めてあげることも大切ですね」


 このように、色紙はなかなかデリケートなのだ。対策としては、ボール紙の替わりに、裏板と色紙の間に特殊なフィルムも挟むのも最適という。紫外線を除去するアクリル板のほか、紫外線を70%以上カットでき、低反射性に優れ、映り込みの少ないガラスもある。これらは、美術館にある文化財級の絵画の額装にも使われているそうだ。


■額の見た目も大事 造形深いイラストレーターが相談に乗ってくれる

 さて、棹のデザインはあくまでも二の次……とは言うものの、やはり額を選ぶときに重要なポイントになるのは言うまでもないだろう。そうした棹選びの相談に乗ってくれるのが、イラストレーターの久永フミノだ。自身の作品を自ら額装するほど、造詣の深い人と話ができるのは心強い。久永は里中満智子の色紙を見ながら、棹のデザインをこう提案する。


 「里中先生の絵はとても繊細ですし、美しい額田王とユリの象徴的なイメージから、古代日本の潤いを感じます。イメージに合わせて選ぶなら、棹は日本らしい雰囲気で、どっしりしたものよりも華奢なものが良さそうです」


 会話をしながら額を選ぶのは楽しいものだし、家族経営の小規模な店で買い物をする醍醐味といえるだろう。フレームは、数年前からコミティアにも出店しているので、会場でも相談を受け付けている。漫画家の色紙や芸能人のサインはもちろん、自作の絵画やイラストを額装したいという人にもおすすめしたい店だ。


 こうして、筆者は「税込で3万円くらい」という予算を伝え、保存性を重視し、棹のデザインは久永フミノにお任せして、額をオーダーした。到着を心待ちにしたいと思う。


フレーム
千葉県大網白里市大網73-17
Tel:0475-73-4549
時間:10:00〜18:00
休:日〜火曜、祝日 ※事前電話があれば休日も対応。
https://www.frame206.com/


このニュースに関するつぶやき

  • アニメショップで作家来店時に贈呈されたサイン色紙が多数掲示されてることも少なくないが構造上劣化(黄ばみ・退色)が避けられない。
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