「介護業界を支える『自己犠牲』の精神」…SNSで話題の現役“介護部長”が情報を発信するワケ

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2022年12月07日 10:30  ORICON NEWS

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SNSで話題の現役“介護部長”が語る介護の実情とは? ※写真はイメージ
 介護士歴17年、今もその名の通り管理職として現場に立つたっつん介護部長さん(@tattsun_cw)は、介護を行ううえで起こるさまざまな事象への対処法を、自らの経験から分かりやすくSNSで発信。たびたびバズるそのエピソードは、同業者はもちろん、家庭での介護経験者など多くの人たちから共感を集めている。昨今、虐待など介護にまつわる悲しい事件が後を絶たないが、その要因について、介護現場のリアルな実情とともに話を聞いた。

【8.6万いいね】「なぜ夜中2時間おきに徘徊を?」認知症おばあさんの意外な理由、介護部長が名推理

■介護に“イライラ”するのはプロも家族も同じ「孤立させないコミュニケーションが大事」

 29歳で介護職に就き、3年後から勤務先の特別養護老人ホームで介護部長として勤務しているたっつん介護部長さん。今年9月に、SNSで8.6万いいねを獲得した投稿は、深夜、2時間おきに老人ホームのフロア内全30室を覗いて歩く認知症のおばあさんのエピソードだった。
 おばあさんがなぜそのような行動を取るのか誰も分からず、職員は困惑。入居者からも「入るなって言うてるやろ!」と怒鳴られるなか、たっつんさんは、おばあさんの過去に注目。元看護婦長(当時)だったことに着目し、患者さんの安否確認のために部屋を巡視していると確信。夜勤の職員に「巡視は任せてください」と伝えさせることで、おばあさんは安心して眠るようになったというものだ。

「この方に限らず、認知症の方の行動・心理症状には必ず理由があります。不安、恐怖、不満、混乱などネガティブな感情から生じることがほとんどで、そうなったとき、自分のプライドを守るために、自分が過去、一番、輝いていた時代に戻って、自分でいられるような行動をされるんです。例えば、夕方になると『家に帰りたい』と言い出す女性の入居者の方が多くいらっしゃるんですが、これは主婦として充実した生活を送っていた時代に返られて、『子どもたちや主人が帰ってくる前に夕飯の支度をしないと』と考えるから、帰宅願望につながる。環境や、職員などまわりの人間との関わり方で、不安や混乱を増長させてしまったことが原因となる場合も多いので、気をつけなくてはなりません」

 同氏のこの言葉に胸が痛む介護経験者は多いのではないだろうか。要介護者に優しくしてあげなければいけない、いたわってあげなければいけないと分かっていても、ついつい厳しく接してしまい、後悔してしまうという経験は、家庭で介護に携わったことがある人なら誰でもあるだろう。それはプロの介護士も同じだと同氏は言う。

「僕自身も、介護士を始めたばかりのときは、感情のコントロールがなかなかできなくて、イライラしてしまい『今、このおばあさんと会話するのは無理だから変わって』と、他の職員にお願いして、距離をとったことが何度かありました。経験を積むうちに対処できるようになって、心に余裕が持てるようにもなりましたが、その経験からもやはり介護者にとって、まわりの理解度やスタッフ間でどれだけコミュニケーションが取れているかということが重要だと感じています。それは、家庭でも施設でも同じ。周囲の人たちから『大丈夫?』の一言があるかないかで全然違うと思うので、僕は職員を孤立させないように、こまめに声をかけたり、話を聞いたりするようにしています」

■日本は、福祉=ボランティアみたいな感覚が未だにあり、国もそこに甘えている

さらに同氏は、介護士たちに常々「腹をたててもいい。ケンカしてもいい」と言っているという。介護を受ける側に対して“怒”の感情を出すのはもってのほかと捉えがちだが、「認知症の方であっても、人と人としてフラットに向き合うことが大事」と経験から断言するのだ。

「ご高齢の方は人生の先輩ですし、いろいろ学ばせていただけることは多いです。けれど、中には、職員に対して差別的な発言をするなど、人として行き過ぎた言動をときもある。だから、間違っていたら間違っていると言ってもいいと思うし、言い返してもいいと思う。同じ意味で、認知症だから仕方ないというのもダメです。とにかく人と人として分け隔てなく、普通に関わることが大事だと考えています」

「もちろん、暴力など行き過ぎはダメ」と付け加えるが、近年、施設で起こる虐待などの悲しいニュースについて、分かる部分もあるという。

「ケースバイケースではありますが、そういったニュースの詳細を聞いてみると、その施設でなければひょっとしたら防止できたかもしれないなというふうに感じることは確かにあります。もちろん“人の道”を踏み外した人は、絶対に悪い。でも、環境がそうさせてしまったという側面も絶対にあると思います」

 そのために必要なのが、理解し合え、共有し合えるコミュニケーションを大切に、介護者を「孤立させない」ということだろう。さらに人手不足、一般労働者の平均に届かない給与額などの労働環境も介護する側の精神的負担を増す要因として問題になっているという。

「日本は、福祉=ボランティアみたいな感覚が未だにあって、介護をビジネスとして考える観点がないと痛感しています。『人のために尽くすことの喜び』とか、『自己犠牲』のもとに介護業界自体が支えられていて、国の制度(介護報酬など)はそこに甘えている気がしてなりません。
 介護士は人として成長させてもらえるかけがえのない経験ができる素晴らしい仕事です。人生の最晩年をご家族より密になって関わることを許していただける。給料は安いけれど、学べることは非常に多く、人生の修業をさせてもらっているような感覚になれるんです。でも現実問題として、若い人たちに『金銭的に生活が厳しい』と言われたら、悔しいけれど、僕には辞めていく彼らを止められません」

■頼ろうにも情報が入ってこない…精神的に追い詰められていく状況をなくす仕組みを

プロの介護士たちにとって、その責任からくる精神的負担も大きい。看護の話になるが先ごろ、関西のある病院で、認知症患者が廊下で転倒。重い障害を負ったのは、看護師が転倒を防ぐ対応を怠ったためとして、患者の家族が損害賠償を請求。裁判で、地裁が「転倒する恐れが高いことは予見できた」などとして患者の家族の主張が認められる判決が下った。これには、ネット上で「現場をわかっていない」「だったら人員を増やして」など批判が噴出したが、介護施設も同じと同氏も嘆じる。

「どれだけ見守りを強固にしても、転倒などの事故を完全に防止するのは不可能です。もちろん、身体拘束すれば可能かもしれません。でも、自分の家族がその立場になったとき、抑制された中で生活することを選択しますか?
 要介護者に自宅のように暮らしていただく施設の安全というのは、完全に事故や転倒を防止するのではなく、何か起こった時に早期発見できて、早期対応できること。例えば、家で介護していて、家族が朝出かけてすぐに転倒し、夕方帰宅して発見されたら、転倒から長い時間放っておかれるために手遅れになってしまう可能性があります。でも、施設で転倒した場合、個人の居室で誰も見ていないところで転倒されたとしても、2時間に1回必ず巡回があるので、2時間以内で発見できます。もちろん、事故にならないように最善を尽くしますが、入居前にご家族にこのように説明させていただき、ご理解いただくことも重要だと思っています」

 近年、家庭においても、老々介護をはじめ、金銭的な不安など、介護に起因した精神的負担が原因と考えられる悲しい事件が起きている。

「未だに介護サービスを利用することを後ろめたい、恥ずかしいと思っているご家族がすごく多いと感じています。介護はプロに頼っていいのだということをもっと理解してもらうため、アピールする大々的な取り組みが必要だと思います。今は在宅でも受けられるサービスがいろいろあるし、相談窓口もある。でも、自分で積極的に調べにいかない限りそれらの情報が入ってこない。結局『孤立』の状態になってしまい…ということが多々あるのが現状です。本当に介護が必要で困っている人たちに、情報が届くような仕組みを作って、精神的に追い詰められていく状況をなくしていくことが必要だと思います」

 こうした介護業界について分かりやすく知ってもらい、看護師の補佐と考えられがちな介護士の地位向上のため、また介護にまつわる自身の経験を語ることで、ひとりでも多くの介護に携わっている人たちのヒントにしてもらえればと、今後もSNSなどで情報発信を続けると意欲をみせる同氏。高齢化率29.1%(出展:2021年総務省統計局)と世界トップでありながら、介護後進国と言われる日本の現状が、現場の声を送り続ける同氏の発信によって変わっていけるよう、その輪の広がりに期待したい。

取材・文/河上いつ子

このニュースに関するつぶやき

  • 時には暴言はかれながら、他人の親を風呂に入れたりオムツ替えたりするんだぜ。それなりの対価を要求されるのは当然だと思う。
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