必然だった“大抜擢”の舞台裏 オリックスの開幕投手は一軍初登板の3年目・山下舜平大

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2023年03月31日 06:20  ベースボールキング

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29日、初めてベルーナドームのマウンドで調整する山下舜平大 [写真=北野正樹]
◆ 猛牛ストーリー【第68回:開幕投手】

 2023年シーズンはリーグ3連覇、そして2年連続の日本一を目指すオリックス。今年も監督・コーチ、選手、スタッフらの思いを「猛牛ストーリー」として随時紹介していきます。

 第68回は、3月31日に行われる西武との開幕戦(ベルーナドーム)に、一軍未登板の3年目・山下舜平大投手(20)が大抜擢された舞台裏です。

 「早くからそうなればいいと思っていた」という中嶋聡監督の慧眼と決断力に加え、故障を抱えながらも前しか向かなかった20歳の不断の努力がありました。


◆ 指揮官「そうなればいいな、という部分はありました」

 「エグイ球を投げていたぞ」。二軍の戦線も離脱していた山下の変化を知ったのは、ウエスタン・リーグの取材で杉本商事BS舞洲を訪れていた昨年9月中旬こと。球団関係者の言葉だった。

 コロナ禍で取材時の導線が変わり、ブルペンを見ることが出来なかった間に、若き右腕は進化を遂げていた。


 投げる際に腕を伸ばさない「ショートアーム」に切り替えたことで150キロ超の球威は増し、ボールの回転数は約2600にまで伸びた。

 「ストレートで三振が取れる投手」に成長した山下は、復帰後も二軍では2試合の登板しかなかったが、クライマックスシリーズ・ファイナルステージ、日本シリーズのメンバーに抜擢された。

 いずれも登板機会はなかったが、ポストシーズンで一軍未登板の選手が投げれば史上初のことだった。


 競争に勝ち残った選手だけを一軍の戦力として起用する中嶋監督。「史上初」という話題作りなど頭の片隅にもない指揮官にとって、WBCに山本由伸と宮城大弥の主戦級を派遣することが決まった瞬間から、山下の開幕ローテーション入りはもちろん、開幕投手候補として考えていたことだろう。

 「そうなればいいな、という部分はありました」。30日の開幕前記者会見で、中嶋監督は山下を開幕投手に決めた理由についてこう語った。

 続けて、「早くから(山下に)決めていたが、(開幕の先発候補が)出揃うのを見極める部分もあったし、舜平大も身体と調整の具合を見極める部分が大事だと思い、ゴーサインを待っていた。いろんな選択肢があり、WBCに出場した選手の登板機会も、もしかしたらあるかもしれない。その点ではいろんなことを考えていたが、最後の最後に、(山下で)行けると思った」と続けた。


◆ 両足の手術も乗り越えて

 一体いつ、山下が開幕投手に決まったのか。それは分からない。

 「『秘密にしような』と言われました」という20歳は、「あっさりと『何日後にな』と言われ、逆算したら開幕でした」と明かす。


 WBCに厚澤和幸コーチをブルペン担当として派遣していたオリックス。WBCがなければ開幕投手に当確の山本が、3月12日の豪州戦に先発した。

 この段階で21日のメキシコ戦で中継ぎ登板することも内定したとみられ、3月中旬には山下の開幕登板が一気に現実味を帯びたことは想像に難くない。後は、山下がオープン戦で結果を出すだけだった。


 昨季はポストシーズンのメンバーに抜擢されたため、フォークボールを磨きたいと意気込んでいたみやざきフェニックス・リーグに参加することは出来なかった。

 秋季キャンプで鍛えた直後には、両足を手術。それでも、開幕ローテーション入りだけを見据え、「自信はあります」と言い切った。

 オフには帰省した福岡でトレーニングに明け暮れ、「ジムに通うなど、朝から晩までトレーニングをしました。そういう部分が今につながっていると思います」と振り返る。


◆ 「勝つことしか考えていません」

 プロ2年目以上で一軍未登板の選手が開幕投手を務めるのは、2リーグ分立後、史上初めて。チームメートからは励ましの声が寄せられ、山本からは「勝てよな」と激励されたという。

 30日の練習では、いつも通りに若手が行う投手陣の用具を練習場所の外野に運ぼうとして、チーム最年長の比嘉幹貴が「誰かに運んでもらいなさい」と声を掛け、負担を軽減させてくれる場面もあった。

 「開幕戦は緊張するし、一軍初登板も緊張すると思う。一度にやっちゃった方がいいかな、と考えて」と、報道陣を笑わせた中嶋監督。「自分の投球をしてほしい。臆することなく、どこまでやれるかというのを。これからの野球人生の始まりなので、そこに関しては思い切ってやってほしい」と続けた。


 「開幕投手までは想像しきれませんでしたが、開幕に間に合わせ、ローテ入りを目標に今までやってきました。良い時間の使い方だったと思います。開幕戦の雰囲気が分からないので、緊張しないと思います。とてもきれいな球場。初めてのマウンドですが、捕手が見やすく投げやすい。勝つことしか考えていません」

 投手の登板間隔に細心の注意を払い、無理をさせずに最大の効果を上げてきた中嶋監督と、着実に進化を遂げてきた山下。「史上初」の開幕投手も、必然だった。


取材・文=北野正樹(きたの・まさき)




【動画】最速158キロの圧巻投球!山下舜平大『6回3安打2失点 7奪三振』/パーソル パ・リーグTV

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