EXIT兼近大樹が考える“虚構”と“現実” 「自分の描く理想って、誰かにとっては地獄だったりする」

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2023年09月11日 13:10  リアルサウンド

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撮影=はぎひさこ

 お笑いコンビEXITの兼近大樹が8月、1st写真集『虚構』(ワニブックス)をリリースした。“チャラ男芸人”としてブレイクするやいなや、歌手、モデル、俳優、コメンテーター、そして初小説『むき出し』で作家デビューするなど、次々と新たな顔を見せ続けてきた兼近。人気者として周囲からの期待に応える一方で、そんな自分をクールに見つめるまなざしものぞかせる。


(参考:【写真】現実も美しかったEXIT兼近大樹の撮り下ろし写真


 今回、そんな兼近に写真集に込めたこだわりを解き明かすべく、インタビューを実施。すると「24時間お笑い芸人であることを自覚する」と手書きしたメモを待ち受け画面にしたスマホを見せてくれた。日常ではあり得ない姿を収めた写真集『虚構』を通じて、兼近大樹のリアルに少しだけ近づけたような気がした。(佐藤結衣)


■載っている写真は全部「そんなわけないじゃん」という『虚構』


――写真集のリリース、おめでとうございます。写真に自由律俳句にインタビュー、そして親しい方々からのメッセージなど、かなりボリュームのある1冊になりましたね。


兼近大樹(以下、兼近):そうですね。始まったのはいつだったかな? 記憶が飛んでる……(スタッフに教えてもらいながら)あ、3月か。3月くらいから作り始めました。


――お笑い芸人さんが写真集を出すというのは新しい挑戦だと思うのですが、最初に企画を聞いたときはどんなお気持ちでしたか?


兼近:そうっすね。もう「最初で最後の思い出になるな」って感じですね。ジジイになっても残るものなんで。戸惑いとかはとくになかったっす。ただ、もともと写真が嫌いだったんでね。撮られるのって疲れるから。それだけちょっと苦しかったですけどね(笑)。


――いろんなシチュエーションで撮影されていますが、兼近さんのアイデアが取り入れられているところもあるのでしょうか?


兼近:最初に「写真集で見たことのあるやつ全部撮らせてください」ってお伝えした感じですね。そこからスタッフさんがロケハンしてくださって、いい感じの場所を見つけてくださって。もう最初にタイトルから決めちゃったんで。


――最初に『虚構』というタイトルからつけたんですか。


兼近:そうですそうです。よくグラビアとかで見たことあるシチュエーションというか。寝起きショットだったり、ソフトクリームを食べながら鼻につけちゃったり……「そんなわけないじゃん」っていう日常シーンを撮ろうと。ここに載ってる写真は全部「虚構」っていう。


■写真とは異なる、文字だからこそ伝わる“真実”


――なるほど。一方で、真実を語る自由律俳句が添えられていると。


兼近:はい。一番フィクションで語りやすい文字情報がむしろ事実で、真実を写すと言われる写真が虚構っていう。そういう作りにしたいなっていうのが最初にあったので、そこにはこだわりました。


――個人的には「傘立て信じられず濡れた傘を持ち歩く店内」という一句に、思わず共感しました。


兼近:あー、あれですね! 僕、結構好きなんですよ、あの雫たちが。人の信用のなさから生まれる店内の濡れ加減というか。びしゃびしゃになってる感じ。


――こうした俳句たちは、普段から書き溜めているのですか?


兼近:そうですね。割と好きだなって思うワンシーンみたいなのを文字にしてメモってる感じです。僕は写真を撮らないんで。いつも言葉でメモっちゃいます。


――美味しそうな食べ物が出てきたときにもですか?


兼近:はい。例えば、みんなでごはんに行ったときに貝類が出てきたら“俺の貝だけちっちゃかったな”とか。“他の人のは中身詰まってんな”とか。あとは、隣のテーブルでご飯を食べているカップルを見かけたとき、女性がすごく喜んでいるのに対して、男性が「すごいだろ。ここ」って得意げに言っていることがあったんですけど。“お前は全然すごくないけどな”、“料理を作った人に感謝しろよな!”とか。


――なるほど(笑)。そういう感想は写真では残せないですね。


兼近:そう、みんな写真を撮って記録した気分になってると思うんですけど、文字のほうがその風景を思い出せることもあるんですよね。


――では、自由律俳句は最初から入れていこうと?


兼近:当初、写真集にインタビューを入れるって話をされたときに、個人的にはなくて良いんじゃないかと思ったんです。だからインタビューの代わりに自由律俳句を入れようと。でも、途中から「やっぱり写真集ってインタビューありきだよ」みたいな話になって(笑)。俳句もインタビューも入った写真集が出来上がりました。


――そこは「結局インタビュー入れるの!?」とはならなかったんですか?


兼近:はい、もうプロの言うことを信用しようと。僕のような素人の戯言は一旦しまっておいて、お任せしたいなと(笑)。こだわりのあるとこだけこだわるんですけど、それ以外は基本的に言われるがままに動いています。


■虚構たちの先に見つかった、リアルな芸人の背中


――そんな紆余曲折あった写真集内のインタビューも今回面白く拝見しました。キャッチボールや夜のすすきのなど思い入れのある写真のお話もありましたが、なかでも特に印象に残っている写真を教えていただけますか?


兼近:最後に載ってるライブの裏側を撮った写真たちですね。完成してから見たときに、ここまではずっと虚構続きだったんですけど、ラストにすげーリアリティがあって。これは全国47都道府県ツアーの沖縄会場なんですよね。わざわざ沖縄まで撮影しに来てくださって、しかもここってツアーで回ったなかで多分一番小さな会場で。この地下感のある場所での写真が、芸人感あっていいなと。


――作り上げられた虚構の美しさとはまた違った、リアルなカッコよさがありますね。


兼近:めちゃくちゃいいっすよね。この後ろ姿とか!


――逆に、“これぞ虚構!”と言いたくなるような、盛れた写真はありますか?


兼近:このビール瓶を口につけてる写真も、The虚構なんですね。僕、お酒飲まないですから(笑)! でも、やっぱり表紙の写真じゃないですか? なんか“ノリの乗ってる2.5次元俳優”って感じで。


――(笑)。今回は表紙も3タイプあるんですよね。


兼近:そうなんですよ。この“2.5次元俳優”風が通常版で、Amazon限定カバーは“韓国オーディション勝ち抜いたダンスボーカル”風。で、“演技派俳優が記念で出した写真集”風なのがファンクラブ限定版です。


――全部の写真に、こうしたひとことを添えていただきたいくらいです(笑)。


兼近:(写真集をめくりながら)この犬と戯れてる写真もね。犬と一緒にいる男って一番あざといじゃないですか。そのあざとさを全部ちゃんと切り取ってるのすごくいいですよね。犬が可愛いと思っているよりも、そんな犬と戯れている可愛い自分を見てほしいっていう感じが。でも、犬もわかってるのかペロッとしてくれて。


――よく撮れていますよね。この電車と並行して自転車を漕いでいるシーンも!


兼近:これは結構大変でしたね。何回も往復して。でも、大変だったとは言いながらも楽しかったですけどね。スタッフのみなさんも気さくな人たちばかりで。


■虚実を取り混ぜて語られるメッセージたちにも注目


――明石家さんまさんやMISIAさんなど多くの方からメッセージが寄せられているページにも驚きました。


兼近:ですよね。明石家さんまからコメント来るなんてことあります? って自分でも驚きですよ。もしかしたら、このページが一番「虚構」かもしれないです(笑)。


――なかでも印象的なメッセージはありましたか?


兼近:もう本当にお一人おひとりくださった言葉が嬉しかったんですけど、りんたろー。さんのコメントが1番短いってところは、納得いってないですね。相当雑にギャラだけ持っていったんじゃないですか!?(笑)


――芸能人の方のみならず、YouTuberや番組スタッフの方、マネージャーさんなど、こんなにも多くの方からメッセージが集まるというのも珍しいなと思いました。温かな言葉が並ぶ一方で、あれだけ仲が良いように見えるみちょぱ(池田美優)さんが、関係性のところを「共演者」ってドライに書いているのもまたリアルだなあと。


兼近:たしかに、みちょぱらしいかもですね。でも、みちょぱとは一度もプライベートで会ったことがないんですよ。ほかのみなさんはプライベートでも親交があるんですけど、本当にテレビだけの関係。だから「共演者」というのは事実ですね(笑)。


――なるほど! では、3時のヒロインのかなでさんが兼近さんを「好きになりかけた」というような話をしていますが、これも?


兼近:アハハ。どうなんでしょうね。直接言われたことはないですけど(笑)。きっと、俺がフラットなだけだと思うんですよね。若手の女性芸人ってめっちゃいじられるじゃないですか。そんなとき普通に接しているだけなのに、それがよく感じてしまうっていう。


――あーなるほど。日常的に傷ついていると、フランクなだけで優しくされたように思える感じですかね。


兼近:そうそう。きっと芸人になるっていうくらいなんで、昔からプライベートでもいじられてきたと思うし。だから、僕のことを好きになっちゃうなんて逆にどれだけ恵まれてない環境にいるかってことかと!


■自分を変えられたのは、納得のいかない人生だったから


――写真集に収録されたインタビューでも「最初で最後の1冊」と話されていましたが、「次に作るなら……」といった欲は出ませんでしたか?


兼近:一切ないですね。出し切りました、これ以上のものは今後作れないなっていうくらい。完璧な1冊になったと思います。


――もともと又吉直樹さんの小説に感化されて、小説を書くために芸人になったというお話をうかがいました。実際に小説や写真集と本を出してみての感想はいかがですか?


兼近:本当に夢が叶ったなって感じがしますね。自分のために歴史を残したなっていうか。きっと20年後とかにこの写真集を見るのも楽しいと思うんですよね。普通のアルバムを見返すのとはまた違って。こんなプロにディレクションしてもらって思い出を残すなんて、なかなかできることじゃないので。


――写真集とはまた別の形で本を作るという構想は?


兼近:エッセイは絶対書こうと思っているんです。目標は来年の誕生日(5月11日)……と思っていたんですけど、スケジュールがちょっと(笑)。なので、来年か、再来年になっちゃうかもしれないですけど。実は10年以上書き溜めているものがあって。でも10年前の文章って今見ると恥ずかしくて仕方ないんですよ。だから、そのままは出せないんで全部書き直しているんですけど。


――きっと、もう10年経てばそれも楽しめそうですけどね。


兼近:いや、そうなんですよね。でも、待てないんで(笑)。改めて10年前の文章を読み返してみると、本気で書いてるのがすごいなと。恥ずかしく見せる文章じゃなくて、普通に恥ずかしい……。


――いつかそのままの文章も読んでみたいです。


兼近:そうですね。考え方とか自分でも変わったなと思うんで。22、3歳くらいから意識的に変えていったところもあって。お酒もやめましたし、夜遊びに出るみたいなこともやめましたし……。お笑い芸人を目指して、面白くなるための行動だけをしたんですよね。


――一気に自分を変えるのは難しくなかったですか?


兼近:僕がスルッとできたのは、多分自分の人生に納得いってなかったからだと思うんですよ。きっと変えられない人って、「この環境心地いいな」とか「楽しいな」って思っているんじゃないですかね。納得いってない日々は、変えるか、死ぬかしかない。だから、僕は変えられたんだと思います。21歳で東京に出てきて、ボームレスやって、22の終わりぐらいから金持ちのおじさんの家に居候させてもらって、23歳から今の一緒に住んでる芸人3人とすみ始めて……そっからですね。いろいろ変わったのは。


――そのころから今のこうした状況って、どれくらい想像していたのでしょうか?


兼近:イメージは常に更新してきましたね。なんとなく最初に「こうなりたい」っていう漠然とした想像があって。でも大抵うまくいかないじゃないですか。何をやってもうまくいかないがあって、そのなかで、たどり着きたいイメージも少しずつ調整してっていう感じでしたね。で、今はもう何もないです。


――何もない!?


兼近:はい。今は空っぽですね。本を書きたいとか、っていう具体的な夢が叶って。次は何をしようかなって。ただ、ずっと面白くなりたいっていう欲はありますけど。面白いの基準も変わっていくじゃないですか。


――そうですね。時代によっても変化していくものですね。


兼近:その基準を探してるという感じですね。最近はネットでも注目されることも多くなったんですが、“ネットの注目”ってあくまでも1つの指標でしかなくて。注目されるためにはこれを言えばいいとかって、なんとなくもうわかるんです。面白くないことにみんなで食って掛かりたいっていうのがあるんですよね。でも実はネットの中にも層はあるじゃないですか。何を面白いと思うかはみんなバラバラで。だから、ネットで本当に面白いって思ってもらえるお笑いってすごく難しいなって。


■自分の描く理想って、誰かにとっては地獄だったりする


――多忙なスケジュールのなかで、世の中の動きを冷静に分析しているんですね。一体いつそんな時間があるんですか?


兼近:いや、もう「24時間お笑い芸人であることを自覚する」っていうメモをずっと待ち受け画面にしているんで。だから、情報収集して、メモをして……才能があると努力しなくてもいいですけど、ない人はやっぱね、やんなきゃ絶対に追いつけないんで。努力しかできないですよ。僕には。


――そんな兼近さんの考え方にも影響しているであろう本を少しご紹介していただけませんか?


兼近:僕の好きな本でいいですか? もう信じられないくらい漫画を読んでるんで、漫画になりますけど。最近だと『違国日記』とか面白いっすね。生きにくさを感じている人にオススメです。『セシルの女王』もまだ追いつける巻数なので、ぜひ読んでほしいし。あと、あれだ『創聖のタイガ』もいいですね。今、逆に時代を戻ろうみたいなこと言われてるじゃないですか。これ、信じられないぐらい昔に戻るんで(笑)。でも、それで昔の良さとかにも気づけるっていう感じで。


――時代を俯瞰的に見られるテーマの作品がお好きですか?


兼近:いや、シンプルなバトル漫画とかも好きですし、あまりジャンルを問わずになんでもめっっちゃ読みます(笑)。あ、あれも読んだほうがいいか、『九条の大罪』も。漫画の話なら無限にできますよ!


――いろんな視点から“面白い”を考えている兼近さんが、こんな社会になれば面白いのにっていう理想のようなものはありますか?


兼近:うーん。前までは結構思うことはあったんですけど、でも自分の描く理想って、誰かにとっては地獄だったりするんですよね。それにやっぱり何か変えるとか、こうしたいって主張するのって、時間も体力もかかるので。僕はそういう先導していくことはあまり向いていないなっていうのを感じていて。だから、今はもうどっちかっていうと身を任せていきたいと思っています。


(取材・文=佐藤結衣)


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