【インタビュー】実力と人気を兼ね備えた俳優・磯村勇斗 貪欲な自分は「ハングリーマン」

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2023年11月13日 17:21  cinemacafe.net

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磯村勇斗『正欲』/photo:You Ishii
飛ぶ鳥を落とす勢いの若手俳優・磯村勇斗は、ここ数年で人気と実力が一致する稀有な俳優へと進化を遂げた。「きのう何食べた?」シリーズで、かわいさと絶妙な小憎たらしさを兼ね備えたジルベールを好演していたかと思えば、公開中の映画『月』では、心やさしいさとくんが一線を超えていってしまう工程を演じた。そのふり幅、作品によって使い分ける顔の違い、実力は推して知るべしと言える。

最新出演映画『正欲』では、磯村さんは佐々木佳道を演じた。佳道は、両親の事故死をきっかけに、横浜から中学3年まで暮らしていた広島に戻ってきた男。新垣結衣演じる桐生夏月の中学時代の同級生で、夏月とは誰にも言えない秘密を共有している。なかなか人に理解されない、言えない指向を持ちながらも何とか大多数に混じろうと生きてきた佳道の葛藤、変化していくグラデーションの体現はさすがの一言に尽きる。

インタビューでは、悩みながらもまっとうした佳道という役についての解説と、自らを「ハングリーマン」と言い切る、お茶目な表現で俳優という職業への入れ込みまで語ってくれた。

演じた役は「すごく理解と共感ができた」

――『正欲』で演じられた佐々木佳道は、いわゆるマイノリティに属する人間として描かれていました。どう読み解き、演じていったんでしょうか?

佳道の性的指向の部分に関しての理解が、やはり一番難しいところでした。岸監督、プロデューサーと「どういう感覚に近いんだろう?」と、ああでもない・こうでもないと話し合いました。結果、佳道が持っている指向に関して「コレ」というものは見つからなかったけれど、人には隠しているマイノリティというところに、僕はすごく理解と共感ができたんです。なので、その感覚を大事にしたほうがいいんじゃないかと、最初に佳道を作っていった…近づけていったような感じでした。

――生きづらさを抱えながらも、マジョリティに寄っていこうとしていた佳道ですが、夏月と再会し彼女と対話を重ねることで移り変わっていきますよね。

佳道は最初、生きる上でカメレオンのように周りに溶け込んで生活をしなければならないみたいなことを考えたと思うんです。(大多数に)染まらなければいけないというのは、おそらくマジョリティの圧だとは思うんですけれど。世間の目みたいな部分で、彼なりになるべく馴染もうと、頑張ろうとしていたと思うんですね。

でもそれはやっぱり自分を苦しめてるだけであり、自分らしさはなくなってしまうので、葛藤はすごくあったと思います。その狭間でかなり闘っているんだろうし、そこで生きている人だな、というのは感じていました。

新垣結衣、稲垣吾郎との共演

――夏月を演じられた新垣さんと磯村さんの空気感が、すごくぴったりでした。初共演ですよね?

はい、そうです。新垣さんは僕がデビューする前からテレビでずっと見てきた方なので、最初はちょっと幻かな? と思いました。僕たちはガッキー世代なので(笑)! そういう方と対面してお芝居する不思議さは、どことなくありましたね。

新垣さんご本人は、ものすごく柔らかい空気感をお持ちの方なんです。誰にでも優しいですし、おそらく感受性がとても豊かな方なんだろうなと、お芝居を一緒にやっていてすごく感じました。特に受けのお芝居が魅力的だなと思っていました。

――主演の稲垣吾郎さんに関しては、少ないシーンでしたがご一緒していました。いかがでしたか?

稲垣さんとの撮影は本当に1日だけだったんです。しかも、かなりヘビーなシーンでご一緒したので、挨拶を交わしたくらいでした。そしてお芝居の演出上、(セットの)テーブルを挟んで2人とも無言で座っていて、お互い集中し合っている、みたいな感覚で緊迫していたので「稲垣さんは怖い方なのかもしれない…」という印象だったんです。

だけど、撮影が終わって最近取材でご一緒したときに、すごくフランクにお話しさせていただいて「あれ!? 全然怖くなかった!」みたいな(笑)。趣味も似ていたのでお話も弾みました、すごく楽しい方という印象に変わりました。また共演できる機会をいただけたら、そのときはもっといろいろお話したいです。



「自分は自分でいい」「今の自分自身を認めてあげよう」

――夏月と佳道の関係性については、どう解釈していきましたか?

佳道にとって、夏月が一番の理解者であり支えてくれる存在なので、やはり逢うべくして出逢ったような運命的な二人だと思いました。再会の仕方も、ちょっと変わった出逢い方をしているじゃないですか。必然性も感じたので、導かれているものを大事にして二人の時間を紡いでいきたいなとやっていました。

佳道として演じていて、夏月といる間はやっぱりいい時間が流れていたんですよね。今まで佳道が歩んできた社会の棘のあるような空気とはまったく違って、なんか…まろやかな時間になっているなあと感じました。しかも、恋愛にいくわけでもなく、お互いの指向だけで理解し合えている。その不思議な感じが、居心地が良かったんですよね。そこだけでつながることもできるんだな、という発見もありました。

――恋愛ではないが強固な結びつきということですよね。磯村さんご自身も感じるところがあったんでしょうか?

そうですね。佳道と夏月の出逢い方は、僕の中でも新しかったんです。その感覚で通じ合えて一緒に過ごすことができるのは、今の時代だからこその形なのかもしれないなあって。

ただ、すべては本人次第で他人がああだこうだいうことじゃないな、というのはすごく感じています。ここ数年、作品を通したり、出会った人と話す中で共通して思うのはそこです。すべて本人たちがよければ、それが一番の幸せなんじゃないかと感じています。

――磯村さんご自身は『正欲』という映画を、どんな風に受け取りましたか?

観終わった感覚で言えば、ものすごく温かい気持ちになったんです。「自分は自分でいいんだな」と思わせてくれたというか、救われるというか。観終わった後にホワーッとする感覚になれる映画でした。人とのつながりの大切さ、今の自分自身を認めてあげようというメッセージを僕は受け取りましね。

常にハングリーマンで「貪欲さは大事に」

――劇中では、「人生の通知表」という言葉が出てきました。磯村さんが現段階でご自身の人生に通知表をつけるなら、どうなりますか?

「5」がマックスだったら、「2」「3」ぐらいじゃないかな?

――え! どうしてそんなに低いんですか?

だって「5」にしたら面白くないじゃないですか!

――なるほど! 伸びしろですね。

そうです、伸びしろです! やっぱり、「5」にしちゃうと、先がないのでつまらないですよね。登っていくほうが面白いと僕は思うんですよ。なので今は「2」「3」がバーっといろいろある感じかなあと思います。そのほうが自分はまだ挑戦していけますし。

…逆に「5」なんて作りたくないって思うんです。それぐらいがちょうど役者は楽しいんじゃないかなあと。ずっとなんかもうひとりの自分を追いかけている、みたいな。その追いかけっこみたいなのが楽しいと思ってます。僕は、ハングリーマンです(笑)。

――「5」にならずずっとハングリーでい続けるために、今後の自分に期待したいことは何ですか?

例えば、10年後に同じことを聞いていただいたときに「5ですね(きりっ)」とか言わない自分でいたいです。万が一、「5だね」とか言ったら、過去の自分が殴り行きますよ。「お前、そんなことを言うようになったか!!」って(笑)。それぐらいの貪欲さは、何年経ってもずっと取っておきたいというか、大事にしておきたいなとすごく思っています。

【磯村勇斗】スタイリング:笠井時夢/メイク:佐藤友勝






(text:赤山恭子/photo:You Ishii)
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