伊集院光が考えるラジオのこれから 「ホリエモンのラジオ局にはちょっと期待してます」

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2023年11月17日 07:41  週プレNEWS

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伊集院光が考える、ラジオの未来とは


10月よりスタートした伊集院光の新番組『伊集院光のタネ』(ニッポン放送)。リスナーからのメッセージを軸に、ニッポン放送のアナウンサー、ホリプロ所属アナウンサー、さらには大先輩・上柳昌彦や、つぶやきシローまで、様々な日替わりパートナーとトークを繰り広げ、朝とも深夜とも違う伊集院光を楽しめる番組となっている。残念ながらプロ野球のシーズンオフ、来年3月までの放送予定となっているが、その後の壮大な展開まで構想しているようで......。(全2回/2回目)

■最後の大きな番組の"パーツ"を試している

伊集院は『伊集院光とらじおと』(TBSラジオ)終了後、本人が"本丸"という『月曜JUNK伊集院光 深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)に加え、多くのレギュラー番組をスタートさせている。師匠・六代目三遊亭円楽から引き継いだ『伊集院光のおたよりください!』(JRN系)、NHKに残る膨大なラジオアーカイブを紹介する『伊集院光の百年ラヂオ』(NHK-FM)、おじさんたちによる脳トレ的野球クイズ『伊集院光の集まれ!野球おじさん』(ニッポン放送)、そして今回はじまった『伊集院光のタネ』。それぞれタイプの違う番組が同時進行しているのだ。

「もう一度、できれば5年以内に、僕の感覚だと5年間くらいに渡って、今度こそ僕のラジオの集大成として最後の大きな番組をやりたいと思っていて、それに向けたパーツを各番組で試しながら作っている感じです。『タネ』は、その"おたより部門"ですね。おたよりを読むことに特化して、radikoのタイムフリー・エリアフリーで聴いている人と、アナログのラジオで聴いている人、メールを出す人、ハガキを出す人が全員参加しやすい番組をやりたいと思っていて。

かなりワガママな条件を出したのですぐには難しいと思っていたのですが、ニッポン放送が条件をすべて整えてくれたんです。30分の帯番組で、基本的には録音なんだけど、やっぱり生は好きだからちょいちょい生放送もやりたい。さらに、月曜日には『深夜の馬鹿力』と『ぽかぽか』(フジテレビ系)のレギュラーがあって自分のキャパが終わっているので、帯とはいえ、月曜日をやるのは難しそうだと。

それに対してニッポン放送が、『ちょうどナイターオフならばそういう編成が組めますよ』って。6カ月間限定という区切られた枠なのもよかったです。いきなり『何年も続く番組をやるぞ!』ということだと、はじめるのにかなり勇気がいるので」

結果、火〜金曜日の17時30分から30分の録音(時々、生放送)という変則的な帯番組『伊集院光のタネ』がスタートした。じっくり聴かせる長尺のフリートークが持ち味の伊集院だけに、30分番組は短いかなと思っていたが、実際はじまってみると、おたよりコーナーに特化した番組のため、30分でも思った以上に聴き応えがある。

「本当は、15分番組がベストかなとも思っていたんですけどね。ネットでついつい後を引いちゃう動画ってそれぐらいでしょ? その15分番組が1日に2〜3回あっても面白いなとか。ただ、それだと5分番組の『おたよりください!』と少しかぶるので、30分がいいかなと。

タイムフリーで聴いている人が1週間まとめて聴いたり、ウォーキング中や、行き帰りの電車で聴いたりとか。そういうのに30分って向いているのかなと思います。これが1時間番組だったら『ちょっと考えさせてくれ』って言ったんじゃないかな。1時間だと3〜4本まとめて録るのは無理なので。

基本は録音で時々、生放送という形になっているのも、朝以外の時間帯で帯をはじめると、他の仕事ができなくなっちゃうっていう、そこが一番デカいですね。ただ、『いつ聴いてもいい』と思うと聴かなくなっちゃうじゃないですか。自分も、レコーダーに録りためているテレビ番組ってなかなか見ないんですよ。だから時々、生放送も入れたくて。どうせ録音しに行く日があるなら、その日は生でやればいいじゃんって。そういう形だったら、あまりみんなの負担を増やさずにやれるんじゃないかと。

スタッフも、その辺の感じをよくわかってくれて、『生で聴く人のお楽しみにプレゼントをつけたいんだけど』と言ったら、すぐに明治さんと話をつけてくれました。プレゼント目当てでもいいから、生で聴いてメールを送ってくれたらうれしいですね」

『タネ』の番組ホームページには、話の"タネ"となるメールテーマが64個も公開されており(11月16日現在)、放送内での呼び込みにかかわらず、いつでも好きなテーマに投稿することができるようになっている。これも異例なスタイルだ。

「『らじおと』で新しい発明だなと思っていたのが、『帯番組の1週間、メールテーマが変わらない』ということだったんですね。あるテーマについて、他の人のメッセージを聴いて思い出すことってあるじゃないですか。だから、月曜日は軽いネタからはじまって、木曜日にはかなりブラッシュアップされたいいメッセージが届いていたんです。

『あれを30分番組でやるとしたら......』と考え、あらかじめホームページにメールテーマを載せておいて、気になったテーマに自由に投稿してもらう形にしました。もちろん、ホームページを見ないと100%楽しめない番組は好きじゃないので、ジングルの中にメールテーマを入れて告知したり、いろいろと試しているところです。

先日も『昭和あるある令和ないない』という新しいテーマを追加したんですが、これは『どうしてラジオを聞いていますか?』というテーマで生放送をしたときに『昔は(受信状態をよくするため)ラジオのアンテナを持って聴いてたよね』という話が出たんですね。でも、その感覚がさっぱりわからないってメールが大学生から来たんです。じゃあそれをテーマにしてみようって」

■シーズン2やネット配信も視野に

あるテーマに対して送られて来たメッセージから新たなテーマが生まれ、どんどん話が広がっていく。まさに話の"タネ"だ。なんとこのメールテーマ、まだ公開されていないものも含めると既に90個以上も用意されているのだとか。しかし、火〜金曜日、半年間の番組だとすると、放送はせいぜい100回程度。いくらなんでも多すぎるのではないだろうか?

「そうなんですよ(笑)。だから半年後にナイターオフが終わって番組が終了したとしても、自分たち的に手応えがあって、やりやすい条件を整えてもらえるとすれば、シーズン2があってもいいなと思うし。さらに、1日3回放送しているとか、ネットでも配信しているとか、いろいろ広がっていくといいなと思っているんですよね。

そこで効いてくるのがパートナーの人選で。パートナーは日替わりなんですが、ニッポン放送のアナウンサーとともに、ホリプロ所属のアナウンサーたちも入ってくるんです。そうなると、たとえニッポン放送から離れたとしても、ホリプロの中だけで制作を完結することができるじゃないですか。もしかしたらタネが飛んでいって、『ホリプロのホームページで配信しましょう』みたいな形になっていくのかもしれませんよ」

番組のオープニングテーマ曲はヨハン・シュトラウス2世作曲の『春の声』。クラシックを使用しているのも、この後の"広がり"を想定しているからだという。

「『らじおと』でもそうだったんですが、いずれ配信とかをやる可能性を考えてですね。うまくアーカイブを有料配信することで、逆に生放送の価値を上げてウィンウィンの関係ができるんじゃないかとか思っていて。生放送が終わってすぐの配信はイヤだけど、1週間後くらいに有料でアーカイブを聴けるようにすれば、生で聴いている人は無料で一番早く聴けるし、聴き逃した人もちょっとお金を払えば聴くことができる。そんな関係を作りたくて。

そのために、流す楽曲に関しては著作権管理の簡単なものにしています。例えば、ネット配信するときに『オリジナルテーマ曲は使えません』みたいなことでお金や労力をかけたくないですから」

■スポンサーともうまい関係を作りたい

ことあるごとに「ラジオの帝王」と称される伊集院だが、話を聞いていると、いわゆる電波を使ったラジオにとどまらず、ネットなどを含めた幅広い音声メディアまで視野に入っているのが伝わってくる。

「自分にとっての北極星的なものは、やっぱり"おしゃべり"なんだなって。話芸って言ってしまうとちょっと恥ずかしいので、おしゃべり。そこは動かないですが、もう"ラジオ波"であることには、あまりこだわりがないですね。ただ、大勢に聴いてもらおう、色んな人に聴いてもらおうと考えると、たとえ色んな音声メディアが出てきたとしても、まだまだ(既存の)ラジオの強みというのはあると思っています。

だから、局の偉い人が『こんなに斜陽なラジオだけど......』みたいなことを公式に言ったりするの、大嫌いなんですよね。大いにチャンスがあるメディアだと思っていますから。

やり方によっては、タレントと局とが本当にいい意味でウィンウィンになれるシステムを作れると思っているんです。でも局側はあまりそうは思っていないというのも実感していて......。

古いパーソナリティーが切られる理由って、たいていコストカットなんですよ。芸能界って一度上がったギャランティーを下げることってあまりしないので、そこをコストカットをすることでラジオ局側の黒字幅を増やすっていうことをやりがちなんです。

でもそんなの、ラジオ局が自分の足を食ってるようなものじゃないですか。もっと工夫さえすれば、みんなウィンウィンになれるやり方が本当はあるのにと思っていますね」

近年のラジオ番組では、CMからの収益の他に、有料イベントなどを開催して収益化をはかるのがトレンドとなっている。しかし伊集院はそれともまた違う、スポンサーとの新しい関係を模索しているという。

「『らじおと』では、自分の心が痛まない形でスポンサーの協力を得られないかといろいろと試していました。

師匠とやっていた『三遊亭円楽と伊集院光のマクラ』というコーナーがあったのですが、あれなんかは最初、『深夜番組をやっている伊集院さんに寝具の宣伝してもらうなんて無理ですよね?』と持ちかけられたんですね。『いや、全然大丈夫ですよ。師匠と落語について語る番組を考えているんですけど、落語の用語に"マクラ"というのがあるので、そのマクラとかけてスポンサードしてもらうのはどうですか?』って。

本来だったら、落語界の裏話をするようなコーナーにスポンサーについてもらうのは難しかったと思うんですけど、"マクラ"とかけることで、ブレインスリープさんが乗ってくれ、うまい関係が作れたと思っています。あのコーナーをやっていた数カ月間、師匠と話したことって人生の宝物になっていますから。

リスナーから『買ってよかった』というオススメを教えてもらう『個人的ベストバイ』のコーナーもそうで、上位に入った商品を作っている企業に、ちゃんと『ベストバイステッカー』みたいなものを営業した方がいいよって言っていたんです。スーパーのポップに『ベストバイ』と入ることで、すごく売上が上がる、みたいな関係性を作ってほしくて。

自分たちが『いい』と思って選んだ商品を作っている企業が『もっと宣伝したいから』とスポンサーについてくれるのが一番幸せな関係ですから。もっと言えば、『ベストバイ』の商品をラジオショッピングで買えるようになるのが一番正しいと思うんですよね。

そこでガマンしなきゃいけないのは、『お金をもらって順位を変える』という欲求ですよ。『お金をくれたから、僕が好きじゃなくても宣伝する』ということをやっちゃうと、パーソナリティーとして終わってしまうので。100万円もらったとしても大赤字です。たぶん、企業の中にも、『露骨なタイアップをしても、長いスパンで考えたら信頼が損なわれる』ということをわかってくれている人は多いと思うんですけどね」

スポンサーとの関係にまで踏み込むとは、もはや一パーソナリティーの仕事ではない。さらにラジオの新しい形として"あの人"とのコラボ案まで飛び出した。

「『ただ局に呼ばれてしゃべればいいじゃん』ということではなくて、『こうやればリスナーはもちろん、局もスポンサーもスタッフもタレントも、みんなウィンウィンになる』みたいなところまで入り込んで番組を作るのが好きなんですよ。それでうまい関係を作れたらすごく楽しいじゃないですか。

だから、ホリエモンが買収したラジオ局にもちょっと期待しているんですけどね。みんな、『ホリエモンがやったらお金一辺倒になるんじゃないか』と思っていそうだけど、確かにお金は大事だけど、単純に近視眼的にお金一辺倒にしちゃうと先細りになるっていうことまでわかっている人だと思う。僕の"集大成番組"へのパーツの1個は、ホリエモン的な人にぶつけてみたら面白くなるのかもと思っています」

■半年後の可能性はそのとき見えてくれば......

『らじおと』の最終回では、「いつかまた朝の番組をやりますよ」という発言もあった。ひとまず半年間限定となっている『タネ』だが、リスナーとしては当然、その後の展開にも期待してしまうが......。

「以前は『10年後の自分は、タレントとしてこうなっていて......』みたいなことを緻密に考えていたんですが、それがうまく行かないのがわかったので。あまり先のことを細かく考えるのは違うと思いはじめました。
 
最近、仲良くしていた後輩芸人が死んでしまったんです。彼は長年、うつ病を患っていて、3年がかりでせっかく治したのに、元気になった矢先に交通事故に遭って急に亡くなってしまい。そんなことあるのかって。例えば、師匠がまだ生きていたとしたら、今頃、一緒に落語会をやっていたんですから。当然、『タネ』もはじまってなかったと思います。テクノロジーも進化するし、社会もフルスピードで変わる。

だから、この"半年"と区切られた番組に全力投球をして、その後の可能性は、そのときに見えてくればいいんじゃないかな。

『らじおと』が終わったことは、僕の中でかなりダメージもあったんですけど、そのおかげで色んなところにゲストに出られるようになったり、新しい番組をはじめられたり、いいこともあって。

今は『らじおと』のどこが成功で、どこが続けられなかった理由だったのか、みたいなことをちゃんと分析できているので、自分に言い聞かせるためにも、あのまま無理やガマンを色んな人が抱えながら自転車操業を繰り返して『らじおと』を続けているよりも、いい未来に来ているって思うことにしているし、思っていますね」

さまざまな可能性を秘めた"タネ"。いつか大きく花開くことを期待しつつ、番組を楽しみたい。

●伊集院光(いじゅういん・ひかる)
1967年11月7日生まれ。1984年に六代目三遊亭円楽(当時は三遊亭楽太郎)に弟子入りし、落語家に。その後、「伊集院光」としてラジオ番組を中心に活動を本格化。『オールナイト ニッポン』『Oh! デカナイト』(ともにニッポン放送)でカリスマ的な人気を博し、現在は『深夜の馬鹿力』(TBSラジオ)や『伊集院光のタネ』(ニッポン放送)などのラジオをはじめ、テレビ番組などでも幅広い分野で活動中

取材・文・イラスト/北村ヂン

【マンガコラム】伊集院光

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  • 「意地でもニッポン放送になんか出るなよ」と言いたいが、局が頭を下げ、カネを積まれれば、そりゃまあ・・・・・出るかな。
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