連続ドラマの脚本家、7割輩出!『 シナリオ・センター式物語のつくり方』著者・新井一樹が教える、人気作家を生み出す秘訣

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2023年12月02日 13:00  リアルサウンド

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新井一樹『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方』(日本実業出版社)


   現在、連続ドラマが隆盛だ。各民放のテレビ局ではドラマの本数が20年の間に倍増しているだけではなく、多くの映像専門チャンネルでも独占配信の話題作がつくられている。ドラマはもちろん映画やアニメ作品でも、欠かせないのが脚本である。そんな時流もある中で、一冊の書籍『プロ作家・脚本家たちが使っている シナリオ・センター式 物語のつくり方』(日本実業出版社)は、創作のメソッドがわかりやすいと評判を呼び、発売後即重版になるなどロングセラーとなっている。


 シナリオ・センターは、1970年に創立された日本随一のシナリオライター養成スクールであり、現在では連続ドラマの7割以上をシナリオ・センター出身の脚本家が執筆している。また、脚本家だけでなく、人気小説家やエッセイストなども多数輩出。これほど大きな実績を誇る「創作」の学校は、ほかにはないだろう。


 人に感動を与える表現や作品を生み出すには? シナリオ・センターがこれまで培ってきた創作のメソッドが存分に詰まった書籍の著者である、シナリオ・センター取締役副社長の新井一樹氏にインタビューを行った。


著名なクリエイターがシナリオ・センターから多数生まれる理由

――シナリオ・センターとはどのような学校なのでしょうか。


新井:一言で言えば、映画やテレビドラマにかかわる脚本家・シナリオライターを養成する学校です。ほかにもプロデューサーやディレクターの方などにも受講いただくことで、魅力的な映画やドラマを生み出してもらいたいと思っています。


――シナリオ・センターから優れた脚本家、小説家が生まれる理由はどこにあるのですか。


新井:シナリオ・センターでは、創作には「何を書くか」「どう書くか」という二つの軸があると考えています。何を書きたいのかは、作家のなかにある潜在的な思いです。なので、その部分には触れません。対して、どう書くかは技術的な面なので、それは受講生の皆さんに伝えることができると考えています。技術をしっかり習得すれば、それぞれの方が持っている作家性を発揮できます。


――しかし、技術を伝えるのは難しそうですね。


新井:創設者の新井一がつくった「シナリオの基礎技術」というノウハウがあります。新井一自身が映画の脚本家として何千本もの作品に関わり、プロデューサーでもあるという、二足の草鞋を履いていました。その経験で培ったポイントなどを体系化したものが、授業のベースになっています。


――才能があるからといって、物語がつくれるわけではないのでしょうか。


新井:初めて自転車に乗った時のことを思い出してもらえるといいかと思います。運動神経がいいのは才能です。ですが、乗り方やバランスの取り方がわからなかったら、どんなに運動神経が良くても転んでしまいますよね。創作はセンスだけでできると思われがちですが、「物語」という乗り物を動かそうと思ったら、動かすための技術が伴っていなければいけません。それを表現技術と呼んでいます。


創作への意欲は高まっている

――脚本や物語を書きたいというニーズは、高まりをみせているように思います。


新井:2018〜2019年くらいから講座を受講する人の数も増えてきました。コロナ禍の中でステイホームになってからはシナリオ・センターも大急ぎでオンライン化を図りましたが、2021年、2022年はオンラインの受講者が多くなっています。自分の心の中にあるものを表現したい、形にしたいという人が増えている印象を受けます。


――そもそも、人が創作をしたいという動機はどこにあるのでしょうか。


新井:よくテレビ離れといわれますが、YouTubeやNetflixで動画を見る時間は増えていると思います。そうした動画を見て面白いと思ったり、自分も創れないだろうか、もっとこうやったら面白くなるのにと思えば、創作の動機になります。シナリオ・センターに受講生の方が一番来られたのは、トレンディドラマ全盛期の1990年代、そして2000年代くらいです。当時は、「テレビドラマよりも私が経験した恋愛の方がドラマチック!」と感じて、シナリオにしてみよう、表現してみようと思った人がたくさんいたようです。


――対して、現代の受講者のみなさんの傾向はありますか。


新井:具体的に、「この人の脚本が好き!」という方が多くなったように思います。古沢良太さん、岡田惠和さん、坂元裕二さんあたりが人気で、憧れの脚本家の様に書きたいというのが動機になっているようです。


――しかし、脚本を書くとなると、憧れだけでは難しいのではと思ってしまいます。


新井:そんなことはありませんよ。子どもの頃に、誰でもごっこ遊びをやりますよね。例えば、この砂場が秘密基地だと決めるのは、場所の指定なので脚本でいう「柱」の要素です。この基地を守るのはAさんで、攻めてくるのがBさんといった具合に、登場する人物が、何をしているのかを書けば「ト書き」になります。これにセリフを加えて、ごっこ遊びはできあがるわけです。意外かもしれませんが、その延長にあるのが、小説や脚本なんですよ。だから、誰もが昔からやっていることなんです。


――なるほど。子どもの頃は、みんなが物語を創っていたのですね。


新井:そうです。創作は特別なものではありません。みんながやっていたのに、ある時からやらなくなっちゃうものなのです。ちょっともったいないですよね。創作は誰の中にも潜在的な気持ちとしてあります。外に出して形にしたいと思うか、思わないか、その違いではないかと思います。


初心者が陥りやすい間違いとは

――物語をつくりたいけれど、いざ書き始めたらつくれなくて挫折する人は多いですよね。一番陥りやすい失敗は何でしょうか。


新井:最初にストーリーを考えすぎて、挫折してしまうパターンが多いですね。書き始めてから、どこかで見たことあるかもしれないと考えてしまい、泥沼にはまりだします。そりゃそうなんですよ。ストーリーはラブストーリーとかサクセスストーリーみたいに、パターンなのですから。そうではなく、主人公を軸に物語を考えられるようになれば、道が開けていきます。主人公たちの面白いシーンが繋がったものが、ストーリーになるのです。それぞれのシーンが、そのキャラクターならではのアクションやリアクションになっていれば、このドラマが面白いと思ってもらえます。


――発想の転換ができるかどうかなのですね。そして、新井さんは創作をするうえで、「創作の地図」をもつことが大事だと説いています。


新井:物語を創るうえで、テーマが「大」、人物と構成が「中」、実際のシーンを「小」と分けています。物語を考えるとき、このように「大」「中」「小」の色分けができれば、書き進めやすいんですよ。それを「創作の地図」と呼んでいます。自分が今何を考えているのか、足りないところはないのか、といった具合にチェックできるようになりますからね。


――そして、上達の近道は、本書でも書いているとおり、やはり最後まで書き上げることなのでしょうか。


新井:一本書かないと、絶対にうまくなりません。頭の中で技術を学び、本を読んだりして、何かやっている気持ちになってしまうのが一番まずい。一本書いて、学んだことを次作で試すという繰り返しが重要です。シナリオ・センターから多くのプロが生まれるのは、講座に紐づいた課題を受講生の皆さんが書き上げ、添削をうけるという学習を繰り返しているためです。課題は強制ではないけれど、コンスタントに提出するかどうかで差はつくと思います。シナリオ・センター出身の小説家である原田ひ香さんは、すべての課題を毎週必ず書くようにと、自らに課していたそうです。


シナリオ日記で、大嫌いな部長への意識が変化、職場のストレスが軽減した事例も


――シナリオ・センターのこうしたノウハウは、脚本家、小説家を目指す人以外でも応用できるものなのでしょうか。


新井:ビジネスパーソンの受講者の方が、勤務先の部長のことが嫌いだと言うので、「シナリオ日記」を勧めました。「シナリオ日記」というのは、シナリオ・センター代表の小林が考えた日常のやりとりを、そのままシナリオに書いてみるという方法です。その方は、部長とのやり取りを記憶を頼りに整理したそうです。それを1週間ほど続けると、最初は嫌な上司だと思っていたのに、部長は意外に「ありがとう」と言っていたなとか、小さな良さに気づき始めたそうです。部長はいつもイライラしているけれど、私もいつも受け答えの時に「でも」から始めてるな、とそれならイライラするのは当然だと気づき、言い方を変えたそうです。すると、やり取りがスムーズになり、職場のストレスが軽減されたそうです。日常のトラブルも一度シナリオにしてみると、周りや自分の行動が、客観的に見えてきて、問題解決に繋がるかもしれません。


――非常に興味深いですね。創作をすることで、日常の視点をより広く持つことができるわけですね。


新井:例えば、目の前の人がお茶をこぼしたとしましょう。「なんだよ、忙しいのに」と思う人もいれば、「拭いてあげなきゃ」と思う人もいるわけです。物語をつくるという一歩引いた視点を持つと、それぞれがどんなことを感じ、なぜこんなことを言っているのだろうと、自分以外の立場を俯瞰的に考えるきっかけにもなります。「相手の立場になって考えなさい」とビジネスでも、しつけでもよく言うけれど、シナリオを使えば、誰でも楽しみながらできるようになります。相手の立場に立って考えることは、物語をつくるうえでも特に大切な考え方です。


――生成AIが脚本を書くようになっていますが、新井さんはどう考えていますか。


新井:自分では思いもつかないアイデアを提示してくれたりもするので、壁打ち相手にするなど、上手く使えばいいと思います。ただ、創作の根幹を任せるとなると、いかがなものでしょうか。なんだか、創作の一番楽しい部分、おいしいところを持っていかれる気がして、もったいないと思います。


――おっしゃる通りで、生成AIとは付き合い方がポイントだと思いますが、創作の楽しみは創作者が味わうべきですよね。そのほうが間違いなく楽しいでしょうから。


新井:「主人公の趣味は何がいいと思う?」と生成AIに聞いたら、なるほどと思う設定が出てきたりします。こういう活用の仕方はありでしょう。でも、物語の重要なシーンで、2人の関係性をどう展開させていくか……と考える楽しさは、自分で持っているべきだと思います。


  人間って、凄い不思議な生きものだと思います。泣いている女の子の横にある蛇口から水が垂れていた。女の子が泣きながら、蛇口をキュッと閉める。感情的な状態なのに、理性的な行動をとったりする。人間とは何だろう。こうした内面を深掘りする脚本は生成AIには難しいでしょうし、それができるのが人間です。物語をつくるということは、人間が人間自身を見つめるためでもあります。だからこそ、生成AIでは、思いつかないような物語を生み出すことができるのです。みなさんの作家性を、どんどん発揮してもらえたらと思います。その手助けに、拙著がなってくれたら嬉しいですね。


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