利益は赤字でも積極的にF1に関与。ビジネス面から見る自動車メーカー系チーム【大谷達也のモータースポーツ時評】

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2024年01月11日 18:20  AUTOSPORT web

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2023年F1第15戦イタリアGP ランス・ストロール(アストンマーティン)&オスカー・ピアストリ(マクラーレン)
 F1パワーユニット・マニュファクチュアラーランキングに続いては、自動車メーカー系F1チームのランキングをご紹介しよう。比較するのはF1パワーユニット・マニュファクチュアラーと同じ財政力、F1依存度、そして“非”電動化比率の3項目である。なお、こちらも前回と同じように、財政力のみ各社が公式発表したデータに基づく客観的数値で、F1依存度や“非”電動化比率は各社のブランド戦略や公式発表などをベースに私が主観的に決めた数値であることを、あらかじめお断りしておく。

 2023年のF1グランプリにエントリーした自動車メーカー系F1チームはメルセデスベンツ(2位、409ポイント)、フェラーリ(3位、406ポイント)、マクラーレン(4位、302ポイント)、アストンマーティン(5位、280ポイント)、アルピーヌ(ルノー・グループの一員。6位、120ポイント)、アルファロメオ(ステランティス・グループの一員。9位、16ポイント)の6チーム(カッコ内は2023年コンストラクターズ選手権における順位と獲得ポイント)。まずは、各メーカーが2022年に売り上げた金額をもとに順位をつけてみよう(表1)。

■表1(売り上げ)
順位メーカー売上額ポイント(トップを100とした場合)1ステランティス/アルファロメオ28兆1582億円1002メルセデスベンツ17兆4979億円623ルノー/アルピーヌ6兆5317億円234フェラーリ7988億円35アストンマーティン2540億円16マクラーレン1154億円0

 トップのステランティス・グループをご存知ない方のために説明しておくと、彼らは2021年にフィアット・クライスラーとPSA(もともとのプジョー・シトロエン・グループ)が合併して生まれた国際自動車ブランド連合で、ジープ、プジョー、シトロエン、クライスラー、フィアット、アルファロメオ、オペルなど欧米の計14ブランドを傘下に収めている。売上高が28兆円超と巨額なのはこのためで、2位のメルセデスベンツのおよそ5割増しに相当する。3位はルノー/アルピーヌの6兆5317億円で、売り上げ額の1兆円越えはこの3メーカーのみ。残るラグジュアリー・スポーツカーブランドのフェラーリ、アストンマーティン、マクラーレンは約8000億円から1154億円の範囲に収まっている。

 このため、トップのステランティス/アルファロメオから見るとアストンマーティンとマクラーレンは限りなくゼロに近く、トップを100とした売り上げ額ポイントでアストンマーティンは1、マクラーレンに至っては0となった。

 しかし、この売り上げ額以上に意外なのが各メーカーの利益で、ステランティス/アルファロメオの3兆3000億円強、メルセデスベンツの2兆6000億円弱はいいとして、マクラーレンは512億円、アストンマーティンは2607億円の赤字を記録しているのだ(ルノー/アルピーヌは3474億円の黒字)。

■表2(利益)
順位メーカー利益ポイント(トップを100とした場合)1ステランティス/アルファロメオ3兆3058億円1002メルセデスベンツ2兆5619億円773ルノー/アルピーヌ3474億円114フェラーリ1685億円55マクラーレン−512億円(赤字)−26アストンマーティン−2607億円(赤字)−8

 念のため付け加えておくと、これは自動車メーカーとしてのマクラーレンとアストンマーティンに関するデータ。ちなみにマクラーレンが赤字に陥ったのはニューモデル“アルトゥーラ”の生産立ち上がりが遅れたのが主な要因。もっとも、2023年2月の段階でマクラーレン・レーシングCEOのザク・ブラウンは「私たちは利益を上げるF1チームだ」と言明しているので、チーム単体としては黒字のようだ。一方のアストンマーティンは、新製品の開発やサプライチェーンのコスト高などによって2607億円もの赤字を生み出したとされる。ただし、アストンマーティンの場合はF1チーム単体でも赤字で、その理由として、現在、シルバーストン周辺に建設中の新しい研究開発拠点への投資が挙げられている。

 いっぽうで、F1チーム単体で巨額な利益を得ているのがメルセデスベンツ。ある報道によれば、2022年度に160億円を超える利益を生み出したという。この辺はスポンサーシップやグッズの売り上げ、さらには新規投資を行う必要の有無によって大きく左右されるようだ。

 では、各メーカーのF1依存度はどうか?(表3)

■表3(F1依存度)
順位メーカーF1依存度(トップを100とした場合)1フェラーリ1002マクラーレン1003アストンマーティン704メルセデスベンツ405ルノー/アルピーヌ406ステランティス/アルファロメオ30

 こちらはF1パワーユニット・マニュファクチュアラーのときと同じようにあくまでも私の主観的判断となるが、フルマークの100ポイントを得たのはフェラーリとマクラーレンの2ブランド。どちらも、製品をPRするうえでF1は欠くことのできない存在であるからだ。

 彼らと同じラグジュアリー・スポーツカーブランドのアストンマーティンを70ポイントとしたのは、ピュアスポーツのみを取り扱うフェラーリやマクラーレンと異なり、アストンマーティンはあくまでもグランドツアラーを製品の主軸としていることによる。それでもセーフティカーやメディカルカーを提供するなど、F1グランプリに積極的に関与している点を評価して70ポイントとした。

 メルセデスベンツとルノー/アルピーヌに関しては、F1パワーユニット・マニュファクチュアラーの項で説明したとおり、グループ全体のF1依存度は決して高くないものの、メルセデスAMGとアルピーヌというスポーツモデル専門ブランドを有していることから40ポイントとした。

 残るステランティス/アルファロメオは30ポイント。ステランティス・グループとしてF1に直結するスポーツブランドを持たないことが、その最大の理由である。

 では、F1参戦を今後も継続するか否かの指標となりうる“非”電動化戦略はどうか?(表5)

■表5(“非”電動化戦略)
順位メーカー財政力F1依存度“非”電動化ポイント総合ポイント1フェラーリ51001002052マクラーレン−21001001983ステランティス/アルファロメオ1003060(0)190(130)4アストンマーティン−8701001625メルセデスベンツ7740401576ルノー/アルピーヌ11403081

 2025年に初の電気自動車(BEV)を発売すると宣言した以外、電動化について目立った公約を掲げていないフェラーリは、F1パワーユニット・マニュファクチュアラーの項と同様、100ポイントを授与。アストンマーティンもBEVの開発に乗りだしてはいるものの、製品化は2025年以降と見込まれているので、こちらも100ポイントとしたい。

 マクラーレンはさらに強硬で、先ごろミハエル・ライタースCEOは「2030年以前に100%電動のスーパースポーツカーを開発する環境が整うことはない」と言明し、BEVの製品化に否定的な考えを示した。したがってマクラーレンにも100ポイントを与えよう。

 メルセデスベンツの40ポイント、ルノー/アルピーヌの30ポイントは、F1パワーユニット・マニュファクチュアラーの項と同じ配点とした。

 残るステランティス・グループは「2030年までにBEV比率をヨーロッパで100%、北米で50%」にすることを目標に掲げているので、それほど「全面BEV化」に積極的とはいえない。そこでグループ全体としては60ポイントとしたが、アルファロメオ・ブランドについては2027年までにエンジン車ならびにハイブリッド車の販売を終了し、100%BEVのブランドになることを明言している。表5のカッコ内に“0”と記したのは、このため。こうした電動化に関する方針と、2021年まで続いたブランドの赤字体質が、アルファロメオのF1撤退を決断する最大の理由になったと見られる。

 財政力、F1依存度、“非”電動化を合計した総合ポイントは、パワーユニットマニュファクチュアラーに続きフェラーリが205ポイントでトップ。フェラーリと極めて近い成り立ちを持ちながら財政力の面で及ばないマクラーレンが198ポイントで2位となった。以下、3位:ステランティス(190)、4位:アストンマーティン(162)、5位:メルセデスベンツ(157)、6位:ルノー・アルピーヌ(81)の順だが、ステランティスの“非”電動化ポイントを0とすると130ポイントで5位まで転落する。“非”電動化ポイントがF1参戦継続に与える影響の大きさを考えれば、当然の結果といえるだろう。

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