万人受けを狙わなかったら世界中で大ヒット、ハリウッドの新興スタジオ・ブラムハウス立役者が語る成功の秘訣

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2024年02月09日 08:30  ORICON NEWS

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恐怖の工場長の異名を持つブラムハウスの創設者ジェイソン・ブラム氏
 映像化作品と原作の関係が注目されている中、図らずも全世界で一大ブームを巻き起こしたホラーゲームを映画化した『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(公開中)のプロモーションで来日していた、米国の製作会社ブラムハウスの創始者でCEOのジェイソン・ブラム氏から「原案のゲームの開発者の信頼を得て映画化を実現するのに8年かかった」という話を聞くことができた。

【動画】ブラムハウスの創設者ジェイソン・ブラム氏のメッセージ

 9日より公開される映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』は、スコット・カーソン氏が開発した同名ゲームを原案としている。ユーザーが主人公マイクの視点でプレーを勧めるホラーゲーム。今や廃墟と化したテーマパーク型ピザレストラン、「フレディ・ファズベアーズ・ピザ」で夜間警備員として働くことになったマイクが、真夜中になると勝手に動き出す店内に放置されたままの巨大マスコット(アニマトロニクス=機械人形)たちの攻撃をかいくぐって朝まで生き延びることを目指す。

 2014年8月のリリースと同時に大ヒットを記録し、すぐに続編が制作され、現在、9つのゲーム、スピンオフ・ゲーム、小説3部作、アンソロジー・シリーズを含むグローバル・フランチャイズを形成している。

 当然のことながら、カーソン氏のもとには映像化のオファーが殺到。ブラムハウスも「10年ほど前に連絡を取った」とブラム氏。最初はかなり警戒されたという。「1年近くかけて彼を説得して、まず短期間のオプション契約を結びました。話し合いを重ね、パートナーシップを築くのに8年かかりました」とブラム氏は明かす。原案者の信頼を勝ち取り、映画化が実現できた要因として、「原案のゲームのファンに向けて映画をつくることに徹した」ことを挙げている。

 「ほかのスタジオだったら、このゲームを知らない人でも楽しめる映画にしようとしたでしょう。しかし、スコットが望んでいたことは、まずゲームのファンに満足してもらうことでした。私たちはそれを尊重したのです」

 あえて万人受けを狙わず、原案のゲームファンの支持を得られる映画を目指し、ゲーム開発者のカーソン氏も納得ずくで出来上がった映画は、昨年 10月27日に北米および各国で公開されるやいなや、初週の週末興収ランキングで1位発進。破竹の勢いで全世界興収累計2億8900万ドルを稼ぎ出し、ブラムハウス製作作品としては史上最高興収記録を樹立した。

 「これは、我々にとっても大きな教訓となりました。万人受けを狙った結果、誰にも受け入れてもらずに失敗することはよくある。狭くてもある種のファンやコミュニティーに焦点を当てた映画にも勝機があることがわかりました。いや、ファンに焦点を当ててつくったからこそ、より良い映画ができたのかもしれません」

■より良い映画をつくる手腕

 「あくまでも私見ですが」と前置きした上でブラム氏は、映画『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』がなぜ成功したのか、次のように分析した。

 「何がうまくいったのかというと、ハリウッドのメジャースタジオが、誰かがつくった作品を脚色して映像化しようとする場合、作者などに多額のお金を支払って、権利を買うわけです。そして、スタジオが雇った脚本家や監督と自分たちの作品をつくる。契約内容にもよりますが、オリジナルの作者は蚊帳の外になってしまうことはよくあります。

 今回、私たちはそれをしませんでした。私たちはスコットが満足する脚本が出来上がるまで、じつに10本もの脚本を作りました。自分のゲームをどのように映像化すればうまくいくか、スコットにはスコットなりの考えがありました。しかし、彼は映画をつくった経験はありません。ゲームを映画に翻訳するのは大変でしたが、私たちは8 年かけてそれを理解しました。これがメジャースタジオだったら、スコットが満足しているかどうかなど気にしないで、さっさとつくってしまったでしょう。

 私たちはすべてのプロセスにおいて、スコットに参加してもらいました。脚本、キャスティング、アニマトロニクスなど、あらゆる面で彼に関与してもらいました。なぜなら、『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』について誰よりも詳しくて、ファンのことを考えているのは、開発者のスコットだと思ったからです。私がやったことと言えば、クリエイターをサポートする者として、スコットが思い描いている世界観を尊重することでした」

 さらに、ブラム氏は、「ほかのインタビューで言ってないことを教えしましょう」と切り出した。「スコットと初めて会った日からだいぶ時間が経って、ようやく彼が気に入ってくれた脚本が出来上がりました。ところが、出資者たちはその脚本を理解できませんでした。出資者がお金を出してくれなければ、映画はつくれません。そこで、私はスコットにこう言いました。『きみが心から望んでいる映画をつくる唯一の方法は、きみがお金を出すことだ』と。映画業界で30年ちかく仕事をしてきましたが、そんなことを言ったのはこの時が初めてでした。スコットはこの提案をのんで、自ら資金を提供しました。うまくいって本当に良かったです」

 原案者の気持ちに応え、よりより作品をつくって、映画をヒットさせる。そのすべての調整役を担っていたジェイソン・ブラム氏のプロデューサーとしての力量がうかがえる話だ。

 今回の映画には、原案ゲームファンならすぐに気づくことから、よく観ないと気づけないようなものまでちりばめられており、イースターエッグ探しも楽しみだが、それだけではない。「原作ゲームファンのことだけを考えてつくった」と言うわりに、原案のゲームのことをまったく知らない人が見ても、共感を抱ける作品に仕上がっている。呪われたレストランで繰り広げられる、原案のゲームに忠実な怖くて楽しめる要素に加え、本当の呪いは己の葛藤の中にあって、過去と折り合いをつけ、現実と向き合おうとする主人公の姿に、普遍的な魅力がある。

■設立から約20年でハリウッドのトップブランドに

 ジェイソン・ブラム氏が2000年に立ち上げたブラムハウスは、07年に公開されたモキュメンタリーホラー『パラノーマル・アクティビティ』の爆発的な大ヒットにより、その名が世界に知られるようになる。『インシディアス』、『パージ』など、ホラー作品で世界的な大ヒットシリーズを生み出し、若い観客層を取り込むことに成功。

 ジェラルド・ジョンストン監督作『M3GAN/ミーガン』、リー・ワネル監督作『透明人間』、M・ナイト・シャマラン監督作『ミスター・ガラス』、『ヴィジット』、『スプリット』、スパイク・リー監督作『ブラック・クランズマン』、スコット・デリクソン監督作『ブラック・フォン』、『フッテージ』などの制作費を軽々と上回る大ヒット作を連発している。

 名門音楽学校に入学したドラマーと伝説の鬼教師が繰り広げる狂気のレッスンとその行方を描いた『セッション』(15年)では、「第87回アカデミー賞」助演男優賞・編集賞・録音賞を受賞。ジョーダン・ピール監督作『ゲット・アウト』 (17年)では「第90回アカデミー賞」脚本賞を受賞するなど、今やハリウッドにはなくてはならないスタジオとして注目を集めている。

 「独立系映画は配給されにくく、多くの人に観てもらうことが難しい状況に不満を抱いていました。ところが、低予算の映画でも、監督が無名の新人でも、ホラーと言う要素で包んでみると、幅広い観客に届けられることに気づいたのです。なので、ホラー要素を大切にしています。これからも独創的で興味深い、何かを感じさせてくれる映画を作り続けていきたいと思っています」とブラム氏は語っていた。


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