消えた「チクビ、パイ投げ」話題のハラスメントドラマからみるテレビ界“コンプラ”の是非

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2024年02月12日 11:00  週刊女性PRIME

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週刊女性PRIME

『不適切にもほどがある!』(TBS公式ホームページより)

「おい! 起きろブス!! 盛りのついたメスゴリラ」

 穏やかではないセリフから始まったのは、阿部サダヲ主演のドラマだ。

 暴力的な言葉とともに画面に表示されたテロップには、《時代による言語表現や文化・風俗の変遷を描く本ドラマの特性に鑑み、1986年当時の表現を敢えて使用しています》と、記される。

「1月26日からスタートしたTBS系の連続ドラマ『不適切にもほどがある!』が、ハラスメント満載の問題作と話題です。近年ではコンプライアンス順守が叫ばれ、セクハラ、パワハラ、差別的表現など気をつけなければならないことが山のようにある。人気脚本家の宮藤官九郎さんは、そんな現状に対して“なぜダメなの?”と、問題提起のため、あえて作ったと語っています」(テレビ誌ライター、以下同)

 ドラマは1986年に生きる阿部演じる主人公の教師が、現代にタイムスリップする物語。第1話で描かれる1986年では、阿部が女性に「初体験は?」と聞くセクハラ発言や、生徒の尻をバットで叩く体罰シーンも登場。まさに現代では“不適切”なことばかり……。

「その一方で、現代では磯村勇斗さん演じるサラリーマンが、部下の女性に“頑張れ”と声をかけただけでパワハラ認定されるなど、そのいびつな社会構造についても皮肉たっぷりに描かれています」

テレビから“消えた”シーン

 昭和から平成初期は、テレビ全盛の時代だった。しかし、当時の常識が今の非常識になっている。令和になってテレビでは見なくなったシーンは─。

「一番に思い浮かぶのはお色気ですね。具体的に言えば“女性のチクビ”でしょう」

 そう説明するのは、テレビ朝日でニュース番組や情報番組などを手がけ、現在はフリーのテレビプロデューサーとして活躍する鎮目博道氏だ。

「“チクビの力”は本当にすごかった。ポロリが出た瞬間、視聴率がドーンと跳ね上がる。女性が水着で登場する水泳大会とか、ドラマに謎の入浴シーンがあったり。昭和のテレビ番組では、必ずチクビを出す工夫をしていました」

 エロから社会問題まで取り扱った『11PM』(日本テレビ系)『トゥナイト』(テレビ朝日系)といった情報番組から、セクシー番組『ギルガメッシュないと』(テレビ東京系)など、女性の胸が露出する深夜番組もあった。なぜ消えたのか。

「20世紀が終わるころから、だんだんとやりづらくなったんです。テレビ局へのクレームが増え、時世の流れの中で“チクビは消さなきゃマズいんじゃないか”と、自主規制をしていったのだと思います。最後までチクビを出せたのは、実はニュース番組なんですよ。海外の違法風俗の摘発映像を流したとき、警察官と一緒にトップレスの女性がいて、そのまま流したのを覚えています。このときも、視聴率は伸びました」(鎮目氏、以下同)

ドッキリもパイ投げも

 素人に仕掛けるドッキリ番組もなくなった。

当時は街中で素人に向けて無許可でドッキリを仕掛けていました。印象に残っているのは、予備校の出入り口に油をまいて、ツルツルにして受験生を滑らせるという企画。受験生で滑りたい人なんかいないわけですから、テレビで見てヒドイ企画だなと思ったのを覚えています。素人へのドッキリは、次第に出演承諾書をもらうことが必要になりましたが、この承諾書がもらいにくいということで、なくなっていきましたね

 テレビは、私たちが生活する中で関わることのない犯罪現場も映像に収めてきたが、これにもNGが出た。

「違法薬物の取引現場では、薬物を買うフリをして隠し撮りをするんです。過去にそうした現場を撮影して、流したことがありますが、隠し撮りがダメになりました。理由として、隠し撮りが倫理的にダメということもありますが、犯罪行為を目にしたら、まずは止めないといけないといわれるようになったのです

 コント番組で定番だったモノも、最近はとんと見ない。

「大量の生クリームがのったパイを顔にぶつける“パイ投げ”は見かけなくなりました。食べ物を粗末にするということがNGになったのでしょう」

 2022年4月、『放送倫理・番組向上機構』(BPO)“痛みを伴う笑い”を扱うバラエティー番組について“青少年の発達に悪影響を与える”との見解を示し、物議を醸した。

「コント番組では定番の“金ダライ”や、“熱湯風呂”や“熱々おでん芸”、さらには“ハリセン”も消えました。これにより、痛みを伴う笑いを売りにしていた芸人さんは、地上波での露出が少なくなったように感じます」

『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』(日本テレビ系)『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)など、数々の人気番組を手がけたテレビディレクターのマッコイ斉藤氏も、近年の規制の厳しさについてこう話す。

ケガをする可能性があることや、いじめに見えるようなことは、もう極力やらないという時代になっています。僕らの若いころは、クレーン車を使って芸人さんを飛ばして海に落とす“人間大砲”や、生肉を持った芸人さんをぶら下げて大きな鍋でしゃぶしゃぶをさせて肉を食べる“人間しゃぶしゃぶ”などをやっていましたが、そういった演出は、もう完全にできなくなっています。いかにクレームがこない番組作りをするかが大切になっています

古い笑いと新しい笑いの違い

 ジャンケンで勝った人が自腹で商品を購入するという、マッコイ氏が生み出した人気企画『男気ジャンケン』も、当初は否定されたという。

企画を出したときには“負けた人が全額支払う”という設定でしたが“いじめに見える”と指摘を受けたため“勝った人が全額払う”としたらOKが出た。ただ、今は“お金を支払わせる”ということ自体がダメになっているのではないでしょうか。最近はクイズ番組やグルメ番組ばかりで、お笑いだけで勝負しようという番組は古いと言われてしまうようになりました」(マッコイ斉藤氏、以下同)

 かつてはゴールデンタイムで放送された『8時だョ! 全員集合』(TBS系)『欽ちゃんのどこまでやるの!』(テレビ朝日系)といったお笑い番組は、少なくなった。

今は芸人さんにお笑いで勝負をさせようって意気込みがテレビから消えてしまった。よく“表現する笑いが古いから”と言われることもありますが、僕は笑いに古いも新しいもないと思うんです。だって、みんな小さいころはそれを見て笑っていたはず。古い笑いと新しい笑いの違いは、何なのでしょう」

 芸人という存在も変化していると続ける。

芸人さんも、クイズ番組への出演や情報番組のコメンテーターをしている姿を見かけますが、それは芸人さんの本質からは、かけ離れている。こうした現状について話すと、芸人さんからは“今の時代、ムチャをしたらテレビに出られなくなっちゃうよ”なんて言われるんです。お笑いをやりたくて芸人になったはずなのに、お笑いができないって、僕はすごい言葉だなと思うんですよ」 

「テレビは危険の疑似体験」

 昔はよかった─。そんな単純な言葉でくくるわけではないが、前出の鎮目氏もこんな意見を語る。

「テレビに“人間はこう生きるべきだ”という社会の模範である姿を放送することを求めるのは間違いだと思うんです。私たちは、危険な場所や悪い人を避けて生活をするわけですが、テレビはその危険などの疑似体験ができる。むしろ子どもや一般社会の人が安全にいかがわしいモノに触れられる機会をつくるのがテレビなのではないでしょうか。私は俗悪なテレビ番組から学び、オトナになったと思っています」

 小泉今日子は先日、雑誌の対談企画で、最近はバラエティー番組への出演がないことについて問われると、

《絶対出たくない。くだらないから》

 と話して物議を醸した。すると1月27日出演のラジオ番組で、真意について小泉は、

「どんどん生活が苦しくなっているのに、例えば俳優さんとかがゲストに来て、クイズに正解したらその人が霜降りの牛肉をもらえるとか、何言ってるのって。その人、お金持ちじゃん、牛肉もらわなくていいじゃんって。くだらないって思うのは、そういうことなんですよ」

 と、公共の電波を使ったテレビ番組が、視聴者の目線に立っていないと痛烈に批判したのだ。

 とあるテレビ局員は、こんな思いを回顧する。

「世界各地の秘境を旅する『川口浩探検隊』シリーズが、大好きでした。ジャングルでたくさんのヘビに囲まれて危ない! と手に汗を握って見ていると、マングースを放ってピンチを回避する(笑)。番組はヤラセだったと明らかになっていますが、私はこうした過剰演出が悪いとは思いません。ドキドキ、ワクワクできるんですから。子どもたちに、夢を与えていた部分もあったはず。それも今やったら、大問題ですけどね……」

 テレビの底力に期待したいが……。

鎮目博道 テレビプロデューサー。1992年テレビ朝日に入社。報道番組プロデューサーなどを経て、『ABEMA』立ち上げに参画し2019年に独立。著書に『腐ったテレビに誰がした?「中の人」による検証と考察』(光文社)など。

マッコイ斉藤 テレビディレクター。人気番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』の総合演出を手がけ『全落・水落シリーズ』『男気ジャンケン』などのヒット企画を生み出した。著書に『非エリートの勝負学』(サンクチュアリ出版)など。

このニュースに関するつぶやき

  • 手前勝手な「自主規制」で自縄自縛をしてる内に番組がつまらなくなっていき自爆してる。そして、トンチキクレーマーにすぐ折れるヘニャチン野郎が増えたのも一因だ。
    • イイネ!1
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