佐藤嗣麻子監督、夢枕獏の「陰陽師」を山崎賢人主演で映画化する「必然」

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2024年02月14日 08:00  ORICON NEWS

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若き日の安倍晴明を山崎賢人が演じる、映画『陰陽師0』(4月19日公開) (C)2024映画「陰陽師0」製作委員会
 夢枕獏氏の小説「陰陽師」を原作に、安倍晴明が陰陽師になる前の知られざる学生時代を描いた映画『陰陽師0(ゼロ)』が4月19日より全国公開される。監督は、『K-20 怪人二十面相・伝』『アンフェア』シリーズの佐藤嗣麻子。原作者の夢枕氏とは学生時代から親交があり、長年映画化を「約束していた」作品だという。

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 “陰陽師”は、TVドラマ、アニメ、舞台、歌舞伎、ゲームなどで多種多様に扱われてきたが、夢枕氏の小説「陰陽師」が世に出るまではあまり知られていなかった。小説は1986年9月に「オール読物」(文藝春秋)で始まり、88年に単行本化され、現在でも定期的に新刊が発売されており、つい先日第18巻が発売されたばかり。シリーズ累計発行部数は680万部を超える。

 実在した安倍晴明は、40歳頃まで学生で、70歳頃になって藤原道長に仕え、大出世した人物。一方、夢枕氏の小説版は、“平安時代版ホームズとワトソン”という発想から、安倍晴明と源博雅(実在の人物)というコンビが生まれ、妖異の起こすさまざまな事件に立ち合う物語となっている。

 今回の映画版では、「ファンタジー要素のみではなく、現代の社会を反映するような内容になっている」と佐藤監督。最初に企画書の草稿をまとめたのは2015年頃。ドナルド・トランプ氏が16年のアメリカ合衆国大統領選挙に立候補(その後、当選)して以降、「フェイクニュース」という言葉が頻繁に使われるようになった時期だ。

 「トランプは、自分に都合の悪いことは全部フェイクと呼ぶようにしているようですが、何が本当で、何が嘘か、個人の認知によって変わります。ある人にとっては真実であることも、ある人にとっては嘘になる。そんな嘘=フェイク=まやかし=幻覚・幽霊・悪霊を呪術で退散祈祷したのが、陰陽師・安倍晴明。まさに陰陽師の時代ではないかと思ったのが、今回の映画を作ろうとしたきっかけです」

 佐藤監督の頭の中にあった映画のアイデアは、図らずも「新型コロナウィルスという疫病の世界的流行」という追い風を受けることになり、20年4月に映画化実現に向けて大きく動き出すことになる。

 もう一つ、本作のキーワードとなっているのが、「思い込み」という言葉に言い換えることもできる「呪(しゅ/のろい)」だ。

 「インターネットが発達し、SNSが現れる以前、人々は多くの事柄において共通の認識を持っていると信じていました。ところがSNSで個人個人が自分の考えを発信するようになると、人は共通の認識など持っていないことが明らかになってきたのです。人はそれぞれに別の方法で物事を認知します。認知の中で、誇張的で非合理的な思考パターンを『認知のゆがみ』といい、この思考パターンはその個人に現実を不正確に認識させ、ネガティブな思考や感情を再強化させうるとされています。まるで“呪い”のように。古代の“呪”は、現代の“認知のゆがみ”ではないか。映画『陰陽師0』の中では、この認知を『呪(しゅ)』という言葉に置き換えて会話しています」

■女性監督という呪縛も退散!?

 佐藤監督と夢枕氏との親交は、約40年前にさかのぼることができる。小説「キマイラ」シリーズ(1982年〜)で夢枕氏のファンになった佐藤監督は当時19歳で、ファンレターを持って夢枕氏の講演会に行き、思いを伝えることに成功する。夢枕氏を愛好するサークルに入りびたり、夢枕氏本人とも親交を深めていった。

 夢枕氏の小説『陰陽師』では、源博雅を武士としている点について、佐藤監督が「調べたら源博雅は武士ではなく貴族だった。そのことを集めた資料と一緒に獏さんと岡野さん(『陰陽師』を原作とする漫画の作者・岡野玲子氏)に送ったこともあったんです。今回の映画の源博雅はもちろん貴族です」。そんなかかわり合いの中で、「いつか『陰陽師』の映画を撮りたい」と、夢枕氏と口約束をしていたという。

 『陰陽師』の映画化は、佐藤監督にとって「いろいろ都合があってできなくて、ずっと先延ばしになっていた」企画。「昔は、女性監督がビッグバジェットの映画を撮るなんて絶対不可能。『陰陽師』のようなファンタジー要素の強いエンターテイメント作品なんて、今でもやっぱり難しいところはある」と、現実を突きつける。

 そんな呪縛さえも解き放って、実現した『陰陽師0』。しかも、『キングダム』シリーズや『ゴールデンカムイ』などを成功させてきた山崎賢人(※崎=たつさき)が若き安倍晴明を、源博雅役を染谷将太が演じる。もし、企画が5年早く実現していたら、2人のキャスティングはありえなかったかもしれない。漫画版を手がけた岡野氏も、山崎が演じる安倍晴明を見て、「晴明がいた!」と大興奮だったそうだ。

 さらに、芥見下々氏による漫画『呪術廻戦』の連載が18年にスタートし、20年よりアニメ化されて大ヒット。若い世代に「呪術」への関心が広がった。『呪術廻戦』に登場する数々のキャラクターや呪術を、実在した呪術の歴史から独自考察した書籍「呪術の日本史」監修の加門七海氏が『陰陽師0』の制作に参加しており、実際に映像を見た加門氏が驚くほど本格的な呪術が完成した。

 しかも、NHKでは平安時代を舞台にした大河ドラマ『光る君へ』が放送中(こちらではユースケ・サンタマリアが安倍晴明を演じている)。人々の関心がいままでになく『陰陽師』の時代に向いている。

 このようなめぐり合わせを佐藤監督は「全て必然です。起きることは起こるし、起きないことは起きません。これ、劇中の安倍晴明のせりふですが、それは本当に事実だと思う」と自信をのぞかせていた。
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