大谷翔平、ベッツ、フリーマンのドジャース上位打線の実力を解析 伝説の「殺人打線」級?

0

2024年02月28日 17:31  webスポルティーバ

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

webスポルティーバ

写真

ロサンゼルス・ドジャースのムーキー・ベッツ、大谷翔平、フレディ・フリーマンで形成される「ビッグスリー」上位打線は破壊力抜群だ。3人が初めて1番から3番に名を連ねた2月27日(日本時間28日)のオープン戦ではベッツが1安打、大谷がドジャースでの初本塁打を放つなど、早速その片りんを見せている。1920年代のニューヨーク・ヤンキースが席巻した「殺人打線」をも上回る期待も寄せられるのはなぜか? 彼らが1番から3番まで並ぶことで引き起こす打線としてのケミストリー(化学反応)を個々の特徴から紐解いてみる。

【ルースが7度の世界一に輝いた理由】

 二刀流で華々しい成績を残し、メジャーリーグの本塁打王のタイトルも獲得した大谷翔平だが、「野球の神様」ベーブ・ルースの足元にも及ばないのが優勝回数だ。

 ルースは10度ワールドシリーズに出て7度の世界一。それはルース自身が投手としても打者としても傑出した存在であると同時に、チームメートにも恵まれていたからだ。優秀なジェネラルマネジャー(GM)エド・バローがいたおかげでもある。

 1918年、バローはルースのいたボストン・レッドソックスの監督に就任。当時、第一次世界大戦で多くの選手を兵役に取られていたため、ハリー・フレイジーオーナーを説得し、フィラデルフィア・アスレチックスから4人、シンシナティ・レッズからひとり、先発クラスの選手を金銭トレードで獲得した。その年、ルースは初めて二刀流で起用され大活躍したが、このシーズン、世界一になれたのはブレット・ジョー・ブッシュ投手らを補強できたからだ。この後、フレイジーオーナーは多額の負債を抱えるようになり、逆にルースをはじめ、主力をニューヨーク・ヤンキースなどに金銭トレードで放出する。

 バローは1920年シーズン後に監督を辞任し、21年からヤンキースのビジネスマネジャーに転職した。そして当時は監督が行なっていた選手集めを専門の仕事とし、古巣のレッドソックスから次々に選手を引き抜いた。元監督だからどの選手が有能かは誰よりも分かっている。加えてレッドソックスのポール・クリチェルコーチをスカウトに抜擢。クリチェルは1923年にコロンビア大の学生だったルー・ゲーリッグとの契約に成功した。

 GM職の草分けとなったバローにより、弱小チームだったヤンキースは一転、メジャーリーグきっての強豪に変貌。1921年から1928年、ア・リーグで6回優勝、3度世界一に輝き、特に1927年は「殺人打線(Murderer's Row)」と恐れられた。3番・右翼手のルースが打率.356、60本塁打、165打点。4番・一塁手のゲーリッグが.373、47本塁打、175打点。他にも1番打者が打率.356、23三塁打と打ちまくり、5番と6番打者も100打点以上を叩き出した。シーズン成績は110勝44敗でワールドシリーズもスイープ(4連勝)。ルースとバローは16年間同じチームで働いたが、仲は良いとは言えず、むしろ確執があった。しかしながら先見の明があったバローとの巡り合いで、ルースはワールドシリーズに出続けることができたのである。

【昨季終盤の不振の雪辱を期すベッツ】

 大谷は現在メジャーリーグで最も優秀な編成本部長のひとりと見なされるアンドリュー・フリードマンのチームに入った。打線も投手陣も強力で、アトランタ・ブレーブスとともに優勝候補の筆頭に挙がっている。

 まず打線から見ていこう。1番にムーキー・ベッツ二塁手(2018年のア・リーグMVP)、2番と3番に大谷(2021、2023年のア・リーグMVP)、フレディ・フリーマン一塁手(2020年のナ・リーグMVP)いずれかが有力視されている。この3人が一緒になったことで、ヤンキースの「殺人打線」に近づけるのでは? と期待してしまう。

 野球では強打者が並ぶ効果は絶大で、例えばロサンゼルス・エンゼルスのマイク・トラウトは過去235試合、トラウトの後に大谷を配した打順では打率.291、出塁率.394、長打率.644、85本塁打だった。特に長打に関する数字が上がり、公式戦試合数の162試合に換算すると58.6本塁打である。後ろに大谷がいると、投手はトラウトを歩かせたくないから、ストライクゾーンに投げるしかない。一方で大谷は2021年と2023年、トラウトがケガで多くの試合を休んだため、四球の数も敬遠の数も増加した。ちなみにルースは1924年に28度も敬遠されたが、ゲーリッグがレギュラーになった1925年以降は、敬遠数は激減した。

 ベッツは昨季8月31日の時点で打率.317、38本塁打、98打点、OPS(出塁率+長打率)1.034でブレーブスのロナルド・アクーニャとナ・リーグMVP争いをしていた。盗塁数62、打率.337でアクーニャにかなわないとしても、ほかの数字では上回っていたからだ。少なくとも1位票は割れるはずだった。

 ところがベッツは9月にスランプに陥り、結局アクーニャが満票でMVPに選ばれた。ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、ベッツがMVP候補から外れた理由を「数字を追ってしまったからだ」と分析する。「40本塁打を意識してしまったんだと思う。彼は同意しないかもしれないが、野球選手が数字を追うのは自然だし、理解できる」。

 MVP争いに加え、40本の大台がちらつき、ベッツはスイングがおかしくなった結果、9月の本塁打はわずか1本、月間打率も.241。そのままポストシーズンに入り、地区シリーズのアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦では11打数0安打。ベッツがポストシーズンでプレーしたのは7シーズン目だったが、安打ゼロは初の屈辱だった。「勝利に貢献できることを誇りにしてきたのに、一番大事なゲームで何もできなかった」と本人は悔しがる。ベッツはリベンジを期し、「今季は8カ月間連続で最高のムーキー・ベッツを見せる」と意気込んでいる。

【大谷、フリーマンはどちらが2番に?】

 これまでロバーツ監督のみならず、多くのファンが頭を悩ませてきたのが2番、3番を大谷、フリーマンにどの順番で打たせるかだ。どちらが、チームにとって有益になるのか?

 2月27日のオープン戦では2番・大谷、3番・フリーマンで大谷はドジャースでの初試合で初本塁打を放った。ロバーツ監督はこの日、「固定されたものではないが、これを動かすとしてもすぐにではない。1週間、2週間うまく行かなかっとしても変えない」と明言したことからも、大谷、フリーマンの順番で3月20日の開幕戦も戦うのだろう。

 近年のメジャーリーグでは最も優れた打者が2番を打つのがトレンドとなっている。ヤンキースならアーロン・ジャッジだ。しかし、大谷とフリーマンは甲乙つけがたい。

 フリーマンはキャリアを通して3番を打ってきたが、2023年は2番で通し、自己最多の211安打、打率.331の好成績。長打も多かった。しかも盗塁数は過去13個が最多だったのに、33歳にして23盗塁の自己ベスト、失敗も1個だけだった。

 パワーでは大谷のほうが上だ。2023年、平均の打球速度(時速)は大谷が94.4マイルで、フリーマンが90マイル、バレル率(本塁打になりやすい速度と角度の打球の割合)は19.6%と11.1%、ハードヒット率(速度95マイル以上の打球の確率)は54.2%と42.2%だ。

※1マイル=1.6km、95マイル=152km

 確実性ならフリーマンだ。スイートスポット率(角度8度〜32度のヒットになりやすい打球)はフリーマンの46.6%に対し大谷は35.6%、ボール球に手を出してしまう確率は26.9%と29.7%、空振り率は20.4%と32.3%、三振率は16.6%と23.9%である。加えて2016年以降、フリーマンの4225個のファールは2位のフランシスコ・リンドア(ニューヨーク・メッツ)よりも400個以上多く、投手泣かせの打者ともいえる。

 ふたりの打順別のOPSを比較すると、フリーマンは14年のキャリアで2番は.944、3番が.905と大差ない。一方大谷は2番が1.013、3番は.856で150ポイント以上も違う。パーセンテージが三ケタに届くOPSというのは毎年ごくわずかのトップ打者しか弾き出せない。このデータから判断すれば、大谷が2番なのかもしれない。

 フリーマンは「これまで両方打ってきているし、個人的にはどちらでも構わない。いかにみんなの力で最高の結果を出せるかだ」と話している。

    ランキングスポーツ

    前日のランキングへ

    ニュース設定