横浜F・マリノスのMF渡辺皓太にインタビュー。昨シーズンはリーグ全試合出場でチームに貢献したが、ヴィッセル神戸に届かず2位に。覇権奪還に燃える今季の意気込みや、ハリー・キューウェル新監督下での役割、そして自身のプレースタイルについて語ってもらった。
【神戸戦はものすごく気持ちの入ったゲームになると思う】
――まずは昨季について伺いたいと思います。ヴィッセル神戸との優勝争いの末、2位でシーズンを終えました。あらためてどのように振り返りますか?
チームとしては、序盤はキャンプで積み上げてきたことをやりながらシーズンの途中に少しやり方を変えて、新たなものにチャレンジしていきました。結果もついてきていて、今までやってきたサッカーにプラスして、新しいオプションができたと思います。
ただ、最終的に2位で優勝を逃してしまった。1位と2位とでは、いろんな面で天と地ほどの差があるので、ものすごく悔しいシーズンでしたね。
――個人としてはいかがでした?
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全試合に出場できたのは、よかったと思っています。でもだからこそ、チームを優勝させられなかったことは、いつも以上に悔しさがあります。自分がもう少しできていればと、責任を感じました。
――第29節、ホームで行なわれた神戸との天王山(0−2で敗戦)は、優勝の行方を分ける大一番でした。この試合についてはどう振り返りますか?
優勝するためには、必ず勝たなければいけないとみんなわかっていました。負けたことで、神戸を勢いづかせてしまったと思います。あの試合が優勝争いを大きく左右したし、「あそこで勝てていれば......」と強く思いますね。
――あの試合で神戸の凄みを感じました?
正直、感じました。中盤を経由せずにシンプルに前線にボールを送って、そのボールが大迫勇也選手に収まって、そこから簡単に攻撃を作られてしまう。あの個の力は飛び抜けていました。そこが強いのはわかっていたので、どう抑えるかが大事でしたけど、うまく抑えられなかった。蹴られる前に止めるとか、大迫選手に入れさせないことがもっと必要でしたね。
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――今季はリベンジしたいですね。
そうですね。だから今季は神戸には絶対に負けたくないし、神戸との一発目の試合(第7節4月7日/ノエビアスタジアム神戸)はものすごく気持ちの入ったゲームになると思います。
【今季は得点という結果も求められる】
――今季はハリー・キューウェル監督に指揮官が代わり、新たなスタートになりますが、キャンプはどのような時間でした?
アタッキングフットボールというベースは変わらないですけど、監督が代わったことでやり方がだいぶ変わって、キャンプはその落とし込みの期間でした。ACLと開幕戦の3試合では正直うまくいかないところも結構出てきていて、まだ新しいやり方に徐々にフィットしていく段階。シーズンが進むにつれて右肩上がりでよくなっていければいいと思います。
――これまで横浜FMはダブルボランチでしたが、今季はアンカーとインサイドハーフという形を取っていて、渡辺選手のポジションもひとつ前に上がりました。そのなかで役割や求められるものはどのように変化していますか?
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昨季はチームのバランスを取る役割のなかで、目立たないプレーでも自分がやることで周りの選手がやりやすいと思ってもらえるようなプレーを目指していました。
今季はポジションがひとつ前になったことで、今までよりもボールを触る回数は減ってしまうかもしれないですけど、より攻撃的な仕事が増えると思います。前線の選手を追い越すランニングだったり、ゴール前に入っていく動きだったり、それが増えることで得点という結果も求められると思います。
今まではゲームを作る部分でチームに貢献しようと思っていて、得点も(J1通算)4点しか取れていないですけど、今年はそういう新しいところにチャレンジできるので、すごく楽しみですね。
――そうなると今季は5点くらい取れたら、それ以降周囲の目も変わりそうですね。
じゃあ今年の目標は5得点にしておきます(笑)。
――その攻撃的な仕事の部分では、セルヴェット(スイス)へ移籍した西村拓真選手の動きは参考になりますか?
もちろん。ゴール前への入り方はFW的な感覚を持っていたし、ライン間で受ける時もいつもいい位置に立っていました。そこで受けてからゴール前へ入っていくのも本当にうまかったので、昨季とはポジションやフォーメーションがちょっと違いますけど、参考にしたいと思いますね。
――ひとつ前に上がったことで、アンデルソン・ロペス選手へのサポートの意識も求められますね。
そうですね。ロペスからも「なるべく近くにいてくれ」と言われているので、彼をしっかりとサポートして、彼にゴール前でのプレーに専念してもらうことが自分の仕事だと思っています。
【キューウェル監督は勝負師】
――先ほどおっしゃっていたキューウェル監督になってからやり方の変化というのはどんなところですか?
昨季まで流動的なサッカーでしたけど、キューウェル監督になってからしっかりとポジションを守って、自分のエリアでプレーする。相手が動いてから自分たちが動くというサッカーに変わりましたね。
――確かに昨季まではとくにサイドバックの選手はかなり流動的に動いていましたが、ここまでの試合を見るとそれほど動かなかった印象を受けました。
そうですね。逆サイドにボールがある時は中に入りますけど、同サイドの時はサイドに張るという指示もあるので、昨季と比べるとかなり外に張っている時間が長いと思います。
――キューウェル監督はどんな監督ですか?
キャンプではチームの約束事をきっちり守れという感じでしたけど、結構臨機応変なところもあって、正直まだ掴めてないところがありますね。
――臨機応変というと、開幕戦では終盤に前線の選手を4人並べる、今までの横浜FMにはないような大胆な選手交代もありました。
あの組み合わせ、フォーメーションは、練習でもACLでもやったことのない形でやりました。チームとしてのベースはあるけど、試合によって結構変えてくる監督なんだなと感じましたね。
――かなり勝負師な一面もあるんですね。
そうですね。あの時FWを4人並べて、中盤のふたりもボランチという選手ではなかったですからね。勝負師だと思います。
【開幕戦はラスト10分で逆転できるチームだと証明できた】
――その開幕戦の東京ヴェルディ戦というのは、渡辺選手にとって特別な相手だったと思います。開幕カードが決まった時はどんな思いでした?
開幕戦がヴェルディだと決まった瞬間はすごく嬉しくて、楽しみで仕方なかったです。絶対に負けたくなかったし、チームとしても結果が欲しかったので勝ててよかったですね。
――かなりハードな試合になりましたが、対戦相手としての東京Vはいかがでした?
相手もこの試合に懸けてきていたと思うし、難しい試合になることはわかっていました。それにしても自分たちのあまりよくない部分が出てしまっていたので、もっと簡単に試合を進められたと思いますね。勝てて嬉しいですけど、悔しい気持ちのほうが強いです。
――前半はとくに難しい展開でしたが、渡辺選手がセンターバックの脇に下りてボールを受けるようになって改善されました。
自分たちで勝手に焦ってしまっていましたね。チームの約束事も大事ですけど、もう少し早く自分が気を遣って下りてボールを受けたりすれば、もっと楽な試合展開になったと思います。
――後半は先ほど言ったようにスクランブルな形を取って押し込みました。ぶっつけ本番ということでしたが、選手たちに戸惑いはなかったですか?
みんな能力は高いので、十分に対応できます。むしろメッセージがわかりやすくていいと思います。
――松原健選手の劇的な逆転ゴールはベンチで見ていてすごかったんじゃないですか?
ちょうどベンチ前から綺麗に軌道が見える角度で、なんか時間が止まったような感覚というか、本当にゆっくりとゴールに吸い込まれていきました。あれは選手やサポーター、みんなの気持ちが乗ったシュートだったと思います。
――5万人以上のサポーターで埋まった国立が、劇的な勝利に湧きましたね。
やっぱり嬉しかったですね。ビハインドでもラスト10分で逆転できるチームだと証明できて。この先の第2節、3節につながる勝利だったと思うし、こういう勝ち方ができるのは本当に強みになると思います。
正直、内容はまだまだでした。でも開幕戦は結果がなによりも大事。あまりネガティブに捉えず、内容もこれからどんどんよくなっていくと思います。
【(イニエスタ+シャビ+カンテ)÷2】
――渡辺選手は自身のプレースタイルや持ち味についてはどのように考えているのですか?
攻守にチームのために走りたい思いがあって、そこでの運動量とアグレッシブさ、質という面で相手を上回りたいと思ってプレーしています。
――そういったプレーを意識するなかで、参考にされている選手はいますか?
参考にしている選手はとくにいないんですけど、好きな選手はいますね。
――たとえば?
バルセロナ時代のアンドレス・イニエスタとシャビ、それとチェルシーにいたエンゴロ・カンテの3選手が好きですね。だから彼らを足して2で割ったような、攻撃センスがあって守備でもアグレッシブにプレーできるような選手になりたいと思っています。
――渡辺選手はまさにそんなイメージの選手だと思います。日本代表への意識はいかがですか?
もちろん、サッカー選手であれば全員が目標にする場所だと思います。でもまずはF・マリノスで結果を残さなければいけない。そこを最優先に考えて、結果を出せればおのずと代表というものも近づいてくると思っています。
だからそこまで強く意識せずに、しっかりと足元を見てF・マリノスでの結果にフォーカスして頑張りたいと思います。
――昨年末に契約更新をされました。選択肢としては海外移籍もあったかもしれませんが、更新したその思いも聞かせていただけますか?
はじめにも言いましたが、昨季はたくさん試合に出させてもらえながら2位という本当に悔しい結果でした。来年は絶対に取り返さなきゃいけない、リーグ優勝したいという思いがあって、すぐに契約を更新したいと思いましたね。
だからF・マリノスのためにプレーして、F・マリノスを優勝させたい。今年はそうできればいいなと思います。
――では最後にその覇権奪還に向けて意気込みを聞かせてください。
おっしゃるとおり、覇権奪還が今季の目標です。まずはそこに向けて努力して、チームの力になりたいと思っています。
それだけではなくて、ACLを取れるチャンスが残っています。Jリーグ勢でそのチャンスがあるのはF・マリノスだけで、まだこのクラブが取ったことがないタイトル。だからそのチャンスをものにして、F・マリノスにもうひとつ歴史を作りたいと思います。
渡辺皓太
わたなべ・こうた/1998年10月18日生まれ。神奈川県川崎市出身。東京ヴェルディのアカデミーで育ち、高校3年時にトップチームデビュー。3シーズン半プレーした後、2019年夏に横浜F・マリノスへ移籍。運動量豊富なMFとして近年のチームのタイトル獲得に貢献。2023年シーズンはリーグ全試合に出場した。ユース時代から年代別の日本代表に選ばれ、A代表には2019年と2021年の2度招集されているが、まだ出場機会はない。