映画『ゴジラ-1.0』が証明「制約があっても、面白い作品は作りうる」 マーケティング観点で解説【坂口孝則連載】『オリコンエンタメビズ』

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2024年03月16日 10:00  ORICON NEWS

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山崎貴 (C)ORICON NewS inc.
 日々話題を集めるエンタメニュースも、経済目線で知ればもっと面白くなる。そこで『ORICON NEWS』は、エンタメをこよなく愛する経営コンサルタント・坂口孝則氏に、エンタメにまつわるニュースを経済視点で解説してもらう連載企画『オリコンエンタメビズ』を開始した。今回は、「第96回アカデミー賞」で視覚効果賞を受賞した映画『ゴジラ-1.0』について、世界の現代人に響いた理由をマーケティング観点から解説してもらった。

【写真】これは欲しい…!山崎貴監督らが着用した“ゴジラシューズ”

 山崎貴監督の『ゴジラ-1.0』が、「第96回アカデミー賞」の視覚効果賞を受賞しました。日本映画どころかアジア初です。監督が受賞したのも『2001年宇宙の旅』のスタンリー・キューブリック以来、2人目ですから快挙といえます。

 ところで、この『ゴジラ-1.0』ですが、私は公開日の翌日に子ども2人と劇場に行きました。すると、映画とゲームオタクの長男がニヤニヤしています。この映画がスピルバーグの『ジョーズ』やら、なにやらのオマージュに溢れた作品であると、子どもですらわかったようでした。

 もともとゴジラは水素爆弾を暗喩するものです。実際にすべての原点となった第一作『ゴジラ』(1954年)では、ゴジラは街中を破壊し尽くしたのに、安全保障条約を無視するかのように、在日米軍は助けてくれませんでした。だからこそ、『ゴジラ-1.0』では戦後まもなくの情景を描いて米軍の支援可能性を回避したのでしょうか。設定の巧妙さがあります。

 この、戦後まもなくの時代を描いた『ゴジラ-1.0』ですが、私には、あまりにも偶然にマーケティング的に世界の現代人に響いた側面があったように思います。以下、あくまでマーケティング的な観点からの感想を述べます。

(1)ウクライナ、ガザ戦争との相似
 現在、ロシアとウクライナの戦争、ガザ地区でのハマスとウクライナの戦争は誰もが周知するところです。そして、その不条理さを誰もが味わっています。自分の組織も酷いけれど、社会で偶然に巻き込まれる事象はもっと不合理で酷い。戦争の時代に、戦争後を描いた映画であった点は共感をえた理由でしょう。

 ただし、『ゴジラ-1.0』のラストシーンでは、自己犠牲ではなく幸福になるという、希望を描いています。死ぬ必要はなく、生きて幸せになる主人公を描きました。これが、現実社会で悲惨な状態ばかりの現代人に一呼吸を与え、さらに共感を得た理由になったのは間違いありません。

(2)ポリティカル・コレクトネス
 山崎貴監督は視覚効果賞を受賞しましたが、「視覚効果賞」であったのは、たまたまかもしれませんが言い得て妙だと思いました。というのも、冒頭から、この『ゴジラ-1.0』はグロテスクな表現ばかりと思いきや、安心して観ていられました。つまり、登場人物の体がスプラッターハウスのようにめちゃくちゃになったり、凄惨な状況になったりするというシーンがありません。もちろん小学生も観られる映画です(むしろ長男は冒頭のシーンや、後半の電車をゴジラが掴むシーンで笑っていました)。

 グロテスクではなく、まっとうに描くためにCGや最新のテクノロジーを使う。さらに、「このところ映画の表現が息苦しくなっている」しかし「制約があっても、面白い作品は作りうる」と高らかに叫んだ作品のように私は感じました。

(3)災害を乗り越える困難という輸出コンテンツ
 これは説明するまでもありませんが、ゴジラは人生の困難を示しています。次々に上陸するゴジラは、日本が戦後に経験した、そして大げさにいえば観客の人生における災難と困難を意味しています。今回のゴジラは、戦後を乗り越えようとしていた時代と、平成からの大不況を乗り越えようとしていた時代とを重ねています。

 現在、日本のアニメ関連市場は3兆円ほどで、10年で倍増しています。そして大半は海外向けです。また10年後に経団連は、さらにアニメだけではなくゲームやその他コンテンツを含めて20兆円規模を目指しています。戦後最大のキャラクターが、平成不況を経て令和の現代に、日本コンテンツを牽引する立場になるとは、きわめて示唆的です。

 以上、マーケティング観点からもきわめてすぐれた映画だったように思います。山崎貴監督、『ゴジラ-1.0』での視覚効果賞おめでとうございます。

このニュースに関するつぶやき

  • 確かに快挙だけど過去の山崎貴監督作品が、いわゆる原作レイプのひでー駄作だったって事実は消すべきではない。
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