テックスタートアップに逆風? IPO難民が大量発生中 業績が良くても新規上場できないワケ

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2024年03月19日 09:21  ITmedia NEWS

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 生成AIやSaaSで活気づくスタートアップにとって、新規上場(IPO)は一つのゴールだ。日本でもベンチャーキャピタル(VC)が有望なスタートアップ企業に出資するのが普通になり、VCから出資を受けた企業は、IPOを目指して業績拡大を目指している。


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 ところが昨今、上場が可能な業績に達しているのに、IPOできないというスタートアップが業態を問わず増加しているという。IPO支援サービスを手掛けるPayment Technologyの上野亨社長は「ボトルネックは上場主幹事を務める証券会社(主幹事証券会社)だ」との見方を示す。


 主幹事証券会社とは、上場を望む企業をIPO前〜IPO後に渡って支援する証券会社のこと。IPOに当たっては欠かせない存在だ。しかし、クラウドサービスを手掛けるオロが実施した調査によると、上場を目指す経営者の37%が主幹事証券会社の確保に困っているという。一体、主幹事証券に何が起こっているのか。


●主幹事証券会社がボトルネックに IPO難民が生まれる背景


 スタートアップの上場に当たっては、野村證券、大和証券、SMBC日興証券、みずほ証券、SBI証券などが主幹事証券会社を務めることが多い。主幹事証券会社はIPOに向けたサポートを行うとともに、上場時には株式の公募や売り出しの手続きを行う。


 Payment Technologyによれば、主幹事証券会社がついて、上場準備を進めている企業は約750〜800社。一般に上場には3年前後の時間がかかるとされていて、毎年約100社が上場を果たす一方で、約100社は上場を諦めるという状況という。


 逆にいえば、既存企業が上場したり諦めたりしなければ「新規でIPOを目指す企業にとって主幹事証券会社の枠が空かない」(上野社長)わけだ。業績が好調でも、主幹事証券会社を獲得して上場準備に入れる企業は限られてしまう。これが“IPO難民”が生まれる背景という。


 この構図が生まれたきっかけは2008年のリーマン・ショックだ。実はリーマン・ショック以前、IPO件数は年間150〜200件あった。つまり現在の2倍近い企業がIPOしていたわけだ。ところが、リーマン・ショック以降、市況の悪化により新規上場する企業数が極端に減少する。2009年はわずか19社、10年も22社にとどまった。


 このタイミングで主幹事証券会社は、上場準備を行える能力を持った担当者数を削減。担当できる社数を絞り込み、景気が回復した後も元に戻していないという。これにより、主幹事証券会社が担当できるキャパシティーがIPO社数の上限となり、毎年100社前後しか上場できなくなってしまった。


●引受部門の担当者は育成が困難 枠が元に戻らないワケ


 となると「上場ニーズがあるのに、主幹事証券会社はなぜ取り扱い社数規模を拡大しないのだろうか?」──という疑問が浮かび上がってくる。ここには、証券会社側の事情がある。


 証券会社の引受部門の担当者は会計・証券・経営・株式・IPOについて広範な知識が求められ、育成が大変だ。一方、引受部門の人材は他部門に転用することが難しく、再びリーマン・ショック時のようにIPO市場が冷え込んでしまったときのリスクが大きい。そのため「引受部門の人員をやみくもに増やすことは経営としては非常にリスクになる」(上野社長)として、なかなかキャパシティーが増えないという。


 ならば、契約した企業の上場確率を上げ、結果として上場できる企業を増やす方向性はどうか。結論から言うと、こちらも簡単ではないのが実情だ。上場準備に入ってからの3年間は、企業にとって勝負の年。ざっくり「上場申請期に経常利益が3億円あれば上場にこぎつけられる」(上野社長)というのが基本的なイメージになる。


 ほとんどの会社は、経常利益が1年目に1000万円、2年目に5000万円、3年目に3億円という3カ年の計画を持ってくると上野社長。実際にIPOに至る企業は、この業績計画を実現するわけだが、言うまでもなくそうそう簡単な計画ではない。主幹事証券会社と契約に至っても、上場に至る企業は10%程度という。


 結局、主幹事証券は、IPO希望企業が月間30〜40社がエントリーしてくる中、1、2社に絞って契約を結ばざるを得ない。つまりほとんどの企業は主幹事証券との契約に至らずIPO難民となるわけだ。


 一方、上野社長は「“難民”のうち10%は本当なら上場できたはず」との見解を示す。これら“本当なら上場できたはずの企業”にビジネスチャンスを見出す企業も出てきており、Payment Technologyもその1社という。


 同社は主幹事証券に代わって上場準備の支援を2年程度行い、3カ年の計画が実際に形になった企業を証券会社に紹介する事業を進めている。主幹事証券会社がキャパシティーアップに消極的なことから、その隙間を埋める取り組みにも需要が生まれているわけだ。


 2020年ごろ、上場に必要となる監査法人の確保に苦戦する「監査難民」が話題になった。金融庁でもこれを問題視した結果、デロイトなどが監査業務に復帰したが、オロが22年12月にまとめた調査によると、43.2%の上場を目指す企業が未だに「監査法人の確保」に苦戦している。


 そんな中、主幹事証券会社のキャパシティーに端を発したIPO難民も、監査難民と同様以上に深刻な問題となっていきそうだ。


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