前作『scent of memory』から2年半ぶりとなるSEKAI NO OWARIの7thアルバム『Nautilus』が完成した。全12曲中、大型のタイアップが10曲に付帯していることからも明白なように彼らは1曲1曲、総力戦で「先方から提示されるお題」と「SEKAI NO OWARIとして描くべきサウンドやメロディ、リリック」と向き合い、ミッションをクリアしてきた。念願のドームツアーの成功や「Habit」が巻き起こした巨大なバズなどを経て、SEKAI NO OWARIのポップミュージックでありエンターテイメントはまたさらに強固な求心力と推進力を獲得していることを、この『Nautilus』というアルバムは証明している。
Saori「タイアップ先とSEKAI NO OWARIとしてできること、その重なる部分を探すのはすごく難しいことでもあって。でも、Fukaseくんは『それ、重なってるのかな?』と思うくらい攻めたバランスで歌詞を書いてくるんですよ。たとえば「Habit」だったら『聴く人の背中を押す曲を』というリクエストがあったのに、あんなに攻めた歌詞を書くんだみたいな。『背中を押してるかもしれないけど、その下にあるのは崖じゃない?』って(笑)」
Fukase「音楽って、ずっと続けていると人の期待に応えたくなくなってくるんですよ。『それ過去の曲でもうやったから、いいよ』って多くの人が求めてることに対してアゲインストしたい気持ちが出てくる。でも、それってやっぱりよくないんですよね。料理とかもそうだと思うんですけど、人が美味しいと感じるものってある程度は決まっていて。それに応えることで受け手を満足させられると思うんですね。もちろん、誰も食べたことがないようなものを提供することもエンターテイメントではあると思うんですけど、珍味ばっかり出てきても受け手を満足させられない。そういう部分でタイアップは毎回僕らの頬を叩いてくれるというか。『まずはリスナーを満足させろよ』と。『そのうえで工夫していけ』と。『おまえらはポップスをやるんだろ? J-POPをやるって決めてるんだから、ひねくれずに真正面から向き合え』って頬を叩いてもらえるんです。「Habit」みたいにポップスとしての安心感のない曲もあるけど(笑)、やっぱりちゃんと安心感があって、自分たちの音楽があって、俺の歌声があって、みんなで書くメロディや歌詞があって、リスナーが初めてSEKAI NO OWARIに触れたときに好きだと思ってもらえた状態をキープしながら変化していくのがベストなのかなって。そうやってタイアップがあることで、やじろべえのような、絶妙なバランスでいられるんですよね」
──裏を返せば、タイアップがなかったらすごくアゲインストなアルバムが生まれると思いますか?
Fukase「そうなると思いますよ。ほぼラップ曲になると思います(笑)」
一同「(笑)」
Fukase「それでツアーに出て、お客さんの顔を見て『あ! やらかした!』って思うはず(笑)」
──でも、あらためて2022年6月にリリースしたシングル「Habit」はその扇情的な楽曲の内容と、ダンスを効果的に取り入れシニカルなエンターテイメント性にも富んだMVが、TikTokをはじめとするSNSを席巻しながら社会現象とも言えるような大きなバズを起こしました。「背中を押す曲を」というリクエストから「Habit」のような楽曲が生まれたのも面白いし、この楽曲が口火を切って様々なタイアップを呼び込んだのも興味深いし、実にSEKAI NO OWARIらしいなと。
Fukase「ファンのみんなよりも遠くに届くことはなかった。だから、逆に言えばうちのファンは「Habit」で僕が書いた歌詞にビックリしてないと思うんですよ。ファンを飛び越えた先にビックリした人たちがいて。ファンからすると『え、SEKAI NO OWARIってわりとずっとこんな感じだよ?』というスタンスだと思う」
Fukase「そうなんですよ。それをそのまま飲ませるとポップミュージックにもエンターテイメントにもならないという。アルバムという部分で言えば、前作『scent of memory』や『Eye』と『Lip』は例外として、僕らはわりと1曲1曲作ってリリースしていく軌跡みたいなものが最終的にアルバムになるというスタンスでずっとやってきていて。僕自身、昔からリスナーとしてもアルバム聴きしないタイプで。アルバム聴きするんだったら、自分の好きな曲を集めてミックスしてオリジナルのMDを作るようなタイプだったので」
Saori「ありがとうございます。今回、Fukaseくんの体調が悪い時期が長かったので、時期によってNakajinがリードしたり、私がリードしながら曲を作っていて。元気のある人が引っ張っていくスタイルだったから、いつも以上に詞曲のクレジットがバラバラなんですけど。でも、それがSEKAI NO OWARIの強みだなって」