SEKAI NO OWARI、心と体を補い合った“総力戦”7thアルバム  不調を抱えたFukase「無理に戦わなかった。そういう自分も肯定したい」

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2024年03月22日 18:00  ORICON NEWS

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SEKAI NO OWARI
 前作『scent of memory』から2年半ぶりとなるSEKAI NO OWARIの7thアルバム『Nautilus』が完成した。全12曲中、大型のタイアップが10曲に付帯していることからも明白なように彼らは1曲1曲、総力戦で「先方から提示されるお題」と「SEKAI NO OWARIとして描くべきサウンドやメロディ、リリック」と向き合い、ミッションをクリアしてきた。念願のドームツアーの成功や「Habit」が巻き起こした巨大なバズなどを経て、SEKAI NO OWARIのポップミュージックでありエンターテイメントはまたさらに強固な求心力と推進力を獲得していることを、この『Nautilus』というアルバムは証明している。

【写真】全3形態ジャケット&内容紹介

(インタビュー&テキスト=三宅正一)

──ニューアルバム『Nautilus』の全12曲は、大型のタイアップと向き合った楽曲が数多く並んでいると同時に、SEKAI NO OWARIが持つ音楽的な振れ幅と高いポピュラリティ、そしてどのような様相の時代にも呼応するメッセージ性の強さがあらためて浮き彫りになっているアルバムだと思います。

DJ LOVE「僕自身、アルバムの曲を聴くと前作からの2年半の日々を思い出すような感触があります。タイアップ曲として聴いてもらう機会が多かった分、リスナーにとってもそういうアルバムになったのかなと思うんですよね」

Saori「今回はすごくタイアップが多いんですよね」

──そうですね。全12曲中、10曲に大型のタイアップが付いています。

Saori「いろんなタイアップのオファーをいただいて、自分たちはそれにどう応えられるのかを締め切りに追われながらひたすら繰り返していたら、アルバムができたみたいな(笑)。でも、これだけ多種多様なタイアップをオファーしてもらえたのはすごく幸せなことでもあるし、タイアップによって曲を作るきっかけをもらったし、学びの2年半でもありました。その集大成としてのアルバムでもあるのかなと思いますね」

──どんなことを学びましたか?

Saori「タイアップ先とSEKAI NO OWARIとしてできること、その重なる部分を探すのはすごく難しいことでもあって。でも、Fukaseくんは『それ、重なってるのかな?』と思うくらい攻めたバランスで歌詞を書いてくるんですよ。たとえば「Habit」だったら『聴く人の背中を押す曲を』というリクエストがあったのに、あんなに攻めた歌詞を書くんだみたいな。『背中を押してるかもしれないけど、その下にあるのは崖じゃない?』って(笑)」

一同「(笑)」

Saori「歌詞はFukaseくんの次に私が多く書かせてもらっているので、自分がこれだけタイアップ曲の歌詞を書いてみると、すごく学びがありましたね。『私はそんなに性格悪くなれない』みたいな(笑)。私が『背中を押してください』って言われたら、『背中を押すってなんだろう?』って必死に考えちゃうんですけど、Fukaseくんはもしかしたら相手の要望とか聞いてないんじゃないかと思うくらい」

Fukase「ちゃんと聞いてますよ」

Saori「(笑)。その絶妙に外してくるやり方がすごくいいなって。それを自分なりに実践しながら、SEKAI NO OWARIの曲としてタイアップとどう向き合うかという方法を模索した2年半でもありましたね」

──Nakajinはどうですか? 『Nautilus』というアルバムが完成した今の率直な手応えは。

Nakajin「マスタリングがニューヨークから上がってきたのが2月の頭で。いつもはすぐに聴くんですけど、今回はなかなかすぐに聴けなかったんです。正直、ちょっと怖かったというか。Saoriちゃんが言っていたようにタイアップが多かったというのもあったし、僕自身体調が悪い時期もけっこうあったので、1曲1曲にいろんな苦労をしたし、先方のリクエストにどう対応するか試行錯誤したので。それもあって、聴くのが怖かった部分もあったんですけど、いざ聴いてみたら1曲1曲にちゃんと個性があるし、尖ったアイデアも入っていて、いいアルバムになったなと思えたので安心しました。『ああ、こんなこともやってたわ。やるじゃん!』って自分でも思えるというか。聴きながら安心したり、『このときめっちゃつらかったわ、泣きそう!』ってなったり(笑)」

──では、Fukaseくんはどうでしょう?

Fukase「音楽って、ずっと続けていると人の期待に応えたくなくなってくるんですよ。『それ過去の曲でもうやったから、いいよ』って多くの人が求めてることに対してアゲインストしたい気持ちが出てくる。でも、それってやっぱりよくないんですよね。料理とかもそうだと思うんですけど、人が美味しいと感じるものってある程度は決まっていて。それに応えることで受け手を満足させられると思うんですね。もちろん、誰も食べたことがないようなものを提供することもエンターテイメントではあると思うんですけど、珍味ばっかり出てきても受け手を満足させられない。そういう部分でタイアップは毎回僕らの頬を叩いてくれるというか。『まずはリスナーを満足させろよ』と。『そのうえで工夫していけ』と。『おまえらはポップスをやるんだろ? J-POPをやるって決めてるんだから、ひねくれずに真正面から向き合え』って頬を叩いてもらえるんです。「Habit」みたいにポップスとしての安心感のない曲もあるけど(笑)、やっぱりちゃんと安心感があって、自分たちの音楽があって、俺の歌声があって、みんなで書くメロディや歌詞があって、リスナーが初めてSEKAI NO OWARIに触れたときに好きだと思ってもらえた状態をキープしながら変化していくのがベストなのかなって。そうやってタイアップがあることで、やじろべえのような、絶妙なバランスでいられるんですよね」

──裏を返せば、タイアップがなかったらすごくアゲインストなアルバムが生まれると思いますか?

Fukase「そうなると思いますよ。ほぼラップ曲になると思います(笑)」

一同「(笑)」

Fukase「それでツアーに出て、お客さんの顔を見て『あ! やらかした!』って思うはず(笑)」

──でも、あらためて2022年6月にリリースしたシングル「Habit」はその扇情的な楽曲の内容と、ダンスを効果的に取り入れシニカルなエンターテイメント性にも富んだMVが、TikTokをはじめとするSNSを席巻しながら社会現象とも言えるような大きなバズを起こしました。「背中を押す曲を」というリクエストから「Habit」のような楽曲が生まれたのも面白いし、この楽曲が口火を切って様々なタイアップを呼び込んだのも興味深いし、実にSEKAI NO OWARIらしいなと。

Fukase「よく勘違いされるんですけど、僕は自分のことを変な人だとも、捻くれてるとも思ってないし、すごくまともなことを考えてる人間だと思っていて。「Habit」も主題歌となる蜷川実花監督の映画(『ホリック xxxHOLiC』)を拝見して最初に浮かんだイメージを曲にしたんですよ。それをひねくれてると感じる人がいるなら、その人が時代遅れなんだと思います(笑)」

Saori「性格の悪さが出てる(笑)」

Fukase「いや、性格のいい背中を押す曲なんて、今の時代いらないんだよ(笑)。あと、僕らは優しく背中を押す曲はずっとやってきたし、そっちは王道でもあるので。優しくない言葉で背中を押すというのも一つの優しさなのではないかと」

──一方で、「Habit」の系譜にあるような、シニカルかつダークに世界や人間の真理を暴くようなポップミュージックを描くこともずっとやってきたわけで。
Fukase「そう、ずっとやってきてたんですよね。“Habit”でやっと広く受け入れられたなと思うんですけど」

Saori「そっちは王道ではなかったからね」

Fukase「ファンのみんなよりも遠くに届くことはなかった。だから、逆に言えばうちのファンは「Habit」で僕が書いた歌詞にビックリしてないと思うんですよ。ファンを飛び越えた先にビックリした人たちがいて。ファンからすると『え、SEKAI NO OWARIってわりとずっとこんな感じだよ?』というスタンスだと思う」

Saori「世の中的には「RPG」や「スターライトパレード」「Dragon Night」という印象が強かったと思うし、「Habit」的な曲で大きなヒットがあったわけじゃなかったから」

Fukase「マイナーキーの曲をヒットさせるってそもそも難しいからね」

Nakajin「普通に考えたらアルバム曲やシングルのカップリングに入れるタイプの楽曲ではありますよね」

Fukase「本来であればシングルとして切らないし、MVも撮らない曲だと思う、「Habit」前のJ-POPにおける価値観にのっとれば。そこで『いっちょこのへんでこういうポップスもありなんではないでしょうか?』という気持ちも含めてシングルを切って。それがここまでブレイクすることは考えてもなかったですけど」

──あとはこういうエグみの強い曲をそれまで描いてなかったアーティストがいきなりやってもここまでのバズを起こせないと思うんですよね。やっぱり包丁をずっと研ぎ続けてる人たちだからこそ、大きな好機をつかんだと思うし。

Fukase「そうっすね。ただ尖ったことをやってみようという発想だけで作ってたらこうはならなかったと思います。で、こういう内容の曲を変なダンスをしながら紅白みたいな大きな舞台でかませたことはミュージシャン冥利でしたね」

Saori「レコード大賞も獲ったしね」

Fukase「うん。この曲をマイクスタンドで歌っていたらこうはなってないと思う。言葉が強すぎるところをダンスで中和できてるんですよね」

──ダンスによって角が立ちすぎない効果を生んでいる。

Fukase「そう。角が立ちすぎているところを、『おくすり飲めたね』みたいなゼリーで飲みやすくできている。それが上手くいったなと」

──「おくすり飲めたね」!(笑)。でも、そのあり方がSEKAI NO OWARIが提示するエンターテイメントの秘訣にもなってますよね。

Fukase「そうです。『おくすり飲めたね』がファンタジーの要素だったりする。ファンの向こう側にいる人たちはだいたい僕らの『おくすり飲めたね』のゼリー部分を知っていて、僕らが本当は何を飲ませているのかはファンだけが知ってるんですよ」

DJ LOVE「糖衣錠みたいなね(笑)」

──糖衣に包まれたその中にある本当の成分はめちゃめちゃエグみや苦みがある。

Fukase「そうなんですよ。それをそのまま飲ませるとポップミュージックにもエンターテイメントにもならないという。アルバムという部分で言えば、前作『scent of memory』や『Eye』と『Lip』は例外として、僕らはわりと1曲1曲作ってリリースしていく軌跡みたいなものが最終的にアルバムになるというスタンスでずっとやってきていて。僕自身、昔からリスナーとしてもアルバム聴きしないタイプで。アルバム聴きするんだったら、自分の好きな曲を集めてミックスしてオリジナルのMDを作るようなタイプだったので」

──もともとプレイリスト気質だった。

Fukase「そう、もともとプレイリスト気質なんですよ。だから、アルバムの展開や曲順を形成するために作った曲みたいなものはないし、そういう曲が昔から嫌いで。だらこそ、僕らが作るアルバムってだいたい『アベンジャーズ』状態になると思うんですよ」

──今作もまさにそうですね。あとはバンドにソングライターが3人いることの強みもこのアルバムにはかなり反映されていますよね。

Nakajin「アレンジやサウンドの方向性においてもそれはかなりありますね。曲ごとに1人のメンバーの意見がイニシアチブを握って制作が進んでいって。「深海魚」みたいなリズムの曲は今まであまり作ってこなかったし、「バタフライエフェクト」も意外とこういうタイプの曲をしっかり形にできたのは初めてかもしれない。あと「Diary」や「Eve」「サラバ」もそうだし、Saoriちゃんのピアノソロも大活躍してると思います」

Saori「ありがとうございます。今回、Fukaseくんの体調が悪い時期が長かったので、時期によってNakajinがリードしたり、私がリードしながら曲を作っていて。元気のある人が引っ張っていくスタイルだったから、いつも以上に詞曲のクレジットがバラバラなんですけど。でも、それがSEKAI NO OWARIの強みだなって」

──Fukaseくんは作詞に専念した前作からの時間でもあった。

Fukase「そうですね。2年くらい前に強迫性障害が見つかって、その治療をしながらの制作だったので。僕が一切曲が作れなくなって。浮かばないとかそういうレベルじゃないくらいできなくなってしまったんですね。あまりにも不安定すぎて楽器に触ることもできなかったんですね。やっぱり楽器を触って歌うことで作れる楽曲ってあるので。だから、『俺は今、楽器に触れないんだ』って自認して、なるべく音楽から遠ざかるようにしたんです。SaoriちゃんとNakajinには本当に助けられました。ソングライターが僕一人だけだったら間違いなく活動休止していると思います」

──でも、そんな苦境に立ちながらも、作詞はやり遂げたわけじゃないですか。その原動力はなんだったんですか?

Fukase「やっぱりSaoriちゃんからも叩き起こされるので(笑)」

Saori「半ば無理やりね(笑)。「最高到達点」なんかまさにそうですけど、私には絶対にこういう歌詞は書けないから。毎回、Fukaseくんには『具合が悪いから無理だよ』って言われるんですけど、無理やり書いてもらって』

──そうすると、特にアルバムの頭の3曲、「タイムマシン」しかり「最高到達点」しかり「デッドエンド」しかり、困難を受け入れながらも足を止めず突き進んでいくようなリリックが生まれる。

Fukase「それは超二日酔いでジムに行くような感じなんです(笑)。絶対に行きたくないけど、行ったらよくなるかも、みたいな。そういう状態で歌詞を書いてました。生きるのがやっとの状態だったので、ワンフレーズを書くごとに戻れない道標を自分で打ってるみたいだなと思ったし、だからこそ戻れないんですよね」

──「タイムマシン」なんてまさにそうですね。どんな結末が待っていようが過去には戻らない、という。

Fukase「そうです、そうです。だから『自信だけはなくすな』って自分に言い聞かせて。自信がなくなったら、ボーカリストでいることも、SEKAI NO OWARIでいることもできなくなってしまうので。自信がない俺とはケンカにならなくていいってSaoriちゃんは言ってましたけど(笑)」

Saori「Fukaseくんの体調が悪かったときは本当に1回もケンカしてない気がする。元気がないくらいが破壊力がなくてちょうどいいなって(笑)」

Fukase「今は元気になって破壊力が戻りつつあるから(笑)」

一同「(笑)」

──『Nautilus』というアルバムタイトルは“船舶”を意味していますか?

Fukase「いや、“オウム貝”のほうですね。アンモナイトとオウム貝が共生していた時代があったという逸話があって。でも、アンモナイトのほうが速くて大きくて強いので、オウム貝は住む場所を深海のほうに変えるんです。そうしたことによって氷河期が訪れたときにオウム貝が生き残って、アンモナイトは絶滅してしまった。オウム貝は弱くて逃げたから生き残ったとも言われていて。この2年半、僕の体調がかなり悪くて。作曲もできなかったから、そこはメンバーに任せて歌詞に専念して。弱くて逃げたからこそ生き残れたオウム貝が、今の自分と重なるところがあるなと思って。逃げたというよりも、無理に戦わなかった。そういう自分も肯定したいと思って『Nautilus』というタイトルを付けました」

──最後に3月16日宮城公演を皮切りに全国15会場33公演を回るアリーナツアーについて聞かせてください。

Saori「今回は『深海』という大きなコンセプトがありつつも音楽をメインにした内容でもあって」

Nakajin「音楽に特化してバックのミュージシャンも多めにいたり」

Fukase「ナイトクラブをイメージしてるので、SEKAI NO OWARI史上最もチャラいとも言える(笑)」

Saori「チャラいかな?(笑)」

Fukase「チャラくします!(笑)。『深海』というコンセプトでめっちゃチャラい内容にしたいですね」

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  • 無理に戦わなくていいから、世界の終わりまで休業しとけよww
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